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2019/06/13 05:36  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

債券利回りは新しい局面入り?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

1989年、ロンドンにいたアメリカ人は、友人から帰国するように電話を受けた。電話の主は、ベルリンの壁が倒れ、ルーマニアのチャウセスク大統領が、失望の中、弾劾されるのを見ていた。彼は、エリート大学で多額の授業料を払った4年間のロシア研究の最後の年であった。彼は、全てのロシア研究者と同様に冷戦主義者であり、そうある必要があったのだが、冷戦が突然終結するとは想像していなかった。彼は、「6万ドルの風呂に入ってしまった(6万ドルの授業料を払って風呂に入る愚かな結果になってしまった)」と語った。

この話から、現在の中国に関する新しい冷戦を危惧する人はほとんどいない。しかし最近の債券市場の反応にはとても危惧している人は多い。長期金利の急低下は、ヨーロッパで共産主義が倒れた時と同じくらいの速さで低下している。アメリカの10年国債の利回りは、この1か月で2.5%から2.1%まで低下している(価格が上昇している)。10年物のドイツ国債は再びマイナス金利の突入し、今や、過去最低を更新している。

大局的に、今、長期金利で起こっている事は、今後、短期金利で起こるであろうことを反映したものである。債券市場のロシア研究者(低金利体制信仰者)は、FRBは早晩政策金利を引き下げると期待している。また、他の中央銀行もそれに追随すると考えている。その結果、実質的な長期金利の低下はすぐには反転しないと考えている。現在の利回りから示唆するところでは、長期金利の反転はとてつもなく先のことになる。資産価格全体という大建築物は、低金利体制の上に構築されている。しかし、突然、その体制が突然終わるという事はないのであろうか?

確かに、現在の実質金利から将来の金利上昇に確信を持つことは非常に難しい。その理由は、この数十年もの間、長期金利の低下が十分に理解されず、またそれに納得できる考えもなかったからである。ある経済学派は、貯蓄と貯蓄性向の増加がその理由に強調している。そこには人口の変化も伴っている。世界の先進国の人口構成の大きな部分を占めている世代が退職する時期を迎えており、彼らは、退職後の為に所得の多くを貯蓄に回している。貯蓄性向の高い中国が世界経済に取り込まれたこともその理由の一部かもしれない。この観点に立てば、世界経済を構造的な貯蓄に向かわせいる事が長期金利の低下に向かわせていることは、実に単純明快である。

もう一つの学派は、債券の利回りは、先進国の中央銀行の購入によって歪められているという。中央銀行は、過去10年間、短期金利をゼロもしくはマイナスに維持してきた。また、彼らは何兆ドルもの資金で長期金利を低くすることを目標に国債を買ってきた。彼らは、経済を安定化する為に低金利を設定したと
自らを正当化している。しかし、もし中央銀行が金融政策のペダルを強く踏み過ぎると、その結果は、突然の物価上昇になるに違いない。

インフレ上昇の欠如によって、低金利時代が長く続くと期待するのも無理はない。もし、安全資産である国債の利回りが低位で推移すると、他の資産のリターン(例えば、株式投資の配当や、不動産投資の収入)も、それに伴って低くならなければならい。そうでなければ、全ての資産は、過去の平均値に比べて利回りが割高に見えてしまう。

こうした議論があるにもかかわらず、やはり不安はある。それは、すぐではないかもしれないが、ある段階で、利回り低下圧力が弱まるかもしれない。そうなれば長期金利は明らかに上昇するであろう。しかし、こうした事態が突然起こらないだろうと信じるのも無理はない。人口構造の変化は緩やかであり、恐らく資産価格もゆっくりと新たな現実(new reality)に向かって移行するからである。夜明けの来ない夜はない。しかし、ファンド マネージメント会社BNY MellonのShamik Dhar氏は「実質金利が上昇し、資産の保有者がキャピタル ロスを避ける行動を取る世界を想像するのは非常に難しい」という。たとえ緩やか調整(金利上昇)の時期に関する不透明さは頭の痛いことであり、誰かが家を買うタイミングにも当てはまる。間違ったタイミングで家を買えば、あなたは、緩やかに住宅価格が下落し続ける家に住む事になる。

そして、もし、金利が、これまでの下落と違って急激に上昇するとすれば、それは何であろうか?それは、十分にあり得るかもしれない。既に中国は世界の過剰貯蓄に対して影響を及ぼし始めている。現在の中国の警報黒字は殆どゼロまで落ちてきている。引退に備えて貯蓄してきたベビー ブーマー達が支出を始めるかもしれない。もし、先進国が景気刺激策として財政政策を再び取るならば、多くの資産プロジェクト(空港、道路、光ファイバー ネットワーク等)によって貯蓄を食いつぶすかもしれない。

ロシアの専門学者たちは、国家権力の動向を見ている。誰が台頭し、誰が没落するか。しかし、そうした学者達は、次のボスが誰になりかに注目する時、その体制そのものが壊れるかもしれない兆候を見過ごすかもしれない(木を見て森を見ず)。 そして、今、金融版ロシア研究者たちは、どの資産を保有し、どの資産を持つべきではないかに夢中になり過ぎている。しかし、いずれかの時点で、資本が枯渇する時が来る。その時、彼らは、余りにも高い風呂に入っていたことに気付くであろう(高い授業料を支払う事になるであろう)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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