2012/01/27 06:45 | 昨日の出来事から | コメント(10)
欠陥通貨「円」?!
昨日のこのコーナーで「日本円が安全通貨って、本当ですか?!」と題し、日本円は実質的には、日本の景気が良くなろうが悪くなろうが、ゼロ金利政策を半永久的に継続しなければならない欠陥通貨である事を指摘したところ、たくさんの方からご意見やご指摘を受けました。 今日は、その事を踏まえて「円」通貨の番人日本銀行について、お話をしたいと思います。
日本銀行の表向きの政策目標は、日本経済をデフレから脱却させて緩やかな経済成長(2%成長の)軌道に乗せ、これまでの異常なゼロ金利政策から景気の状況に応じて政策金利を変更できる健全な金融政策を回復することです。
しかし、これはあくまでも表向きの話であって、もし、こんなことになろうものなら(つまり2%の経済成長に見合った政策金利の水準を2%とすれば)、 たとえ景気の回復で税収が増えることを考慮しても、政府の国債利払い金額が日本の税収を大きく越えてしまい、銀行用語で言うところの金繰り倒産してしまいます(利益(税収)以上に借入金利の支払い(国債の利払い)が多くなってしまうこと)。
また、現在の日本国債1000兆円の平均残存年数を5年とし、国債金利がイールドカーブ全体に亘って1%上昇したとすると、それだけで5兆円もの損が発生し、その大半を保有する金融機関の資本金がそれだけ毀損することを意味します。
日本銀行の本音としては、日本の景気が、これ以上悪くなっては困るが、かといって、その一方で景気が良くなって市場金利が上昇し、政府の国債利払い額が日本の税収を越えるほど、あるいは日本の金融機関の資本金を大きく毀損するまで、金利が上昇してもらっても困るのです。
それ故、現在のゼロ金利政策の下、日本経済をゼロ成長近辺で推移させ、通貨「円」の欠陥部分である「景気が良くなって市場金利が上昇したとしても、実は、日本銀行は政策金利を引き上げる政策を選択することができない」事だけはどうしても市場に露呈させたくなのです。
そうしないと、万一、これが露呈した暁には、市場から猛攻撃を受けて円の価値は大幅に下落し(円安)、通貨の番人としての日本銀行の役割が果たせなくなってしまうからです。
そして、これまで周りから「インフレ ターゲット論導入」や、「市場にもっと資金を供給しろ」といった議論が多く出ましたが、彼らとしては耳を傾けても、実行に移せなかった理由がここにあります。
更には、私のいるオーストラリアは既に導入していますが、今回はアメリカもインフレ ターゲット政策導入を決定しましたが、日本銀行だけは、他の主要国全てがインフレ ターゲットを導入しようとも、それができません(理由は先程述べた通り)。
昨日もお話しましたが、欠陥通貨ユーロも当初はその欠陥部分が露呈することなく、このまま隠し通せるように見えましたが、ユーロ設立10年後の今日、その欠陥部分が露呈して通貨危機に直面している事は読者の皆様もご存じの通りです。
欠陥通貨「円」も今のところ、何とかやり過ごしていますが(とはいっても次第に市場は気付き始めています!)、かといって未来永劫にこれを隠し通し、ゼロ金利政策の下、日本経済をゼロ成長であり続けさせることは不可能です。
いつかは、その欠陥部分が露呈し、市場の関心がそこに集中してその対策を市場からの暴力的な圧力で迫られる日がくる事だけは確かです。 その時には、国債の価値も、通貨としての「円」の価値も大幅に下落し、その事によって日本国債を大量に抱えている日本の金融機関の資本は著しく毀損し、それが日本の信用格付けの低下を招き、更なる国債と通貨の下落を招く負のスパイラルに陥ってしまいます。
この姿は、まさしく今回のヨーロッパ信用危機の再現に他なりません。
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10 comments on “欠陥通貨「円」?!”
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前橋さんの円に対する考え方は何となくわかりました。
今ほとんどの日本人の方は資産が日本円だけだと思います。預金だったり給与等の収入だったり・・・
素人の素朴な疑問として、「じゃーどこの国の通貨が得で安全なの?」って思います。
別にぐっちーさんを1〜100まで信用しているってことではないですが・・
僕から見て、前橋さんをはじめ各国の投資銀行や年金基金等、資源・国債・通貨などのトレードで飯を食ってる所謂プロと呼ばれる方によって市場が動いていて、まぐれであろうが、消去法であろうが、今現実に日本円が強くなっています。ということは世界中のプロが日本が良いと思ってるってことですよね?
これが永遠に続くとはもちろん思いませんが、他の国や投資家さんから見て日本って魅力があるんじゃないですかね。
オーストラリアから見てどうですか?日本が羨ましいって感覚はないんですかね。
前橋さんから見てどこの国の通貨が安全で得ですか?
円は、確かに米ドルや、ユーロに対して高くなっていますが、対豪ドルに対しては、2008年に私が、日本を出国してオーストラリアに移住した頃の水準と変わっていません。
しかも、オーストラリアの政策金利水準は、2008年の頃に比べて2%近くも低下したにも関わずです。
通常であれば、政策金利が下がった国の通貨は、相対的に安くなるはずですが、今のところ、そうなっていません。 それは、とりもなおさず、通貨としての安全性が、オーストラリアドルのほうが日本円よりもあることの証左ではないでしょうか?
しかも、政策金利変更の自由度を持った通貨(豪ドル、カナダドル)は対ユーロ、対ポンドで歴史的なか高値で取引されていることからも、安全通貨へのシフトが起きているといえます。
今のところ、日本円も、「米ドルやユーロに比べて相対的に安心だ」という理由で買われていますが、実は、日本円も現在のデフレ時代にあってはそうであっても、「状況が変われば、そうでない!」ということをご指摘したかったのです。
どうもこの議論について行けません。現在の名目金利が0%でインフレ率が-2%ならば実質金利は+2%に対して、インフレ率が2%となったときに名目金利が2%なら実質金利は0%で金利負担は実質で減少するのではないのでしょうか? 現在の自然金利はおそらくマイナスでしょうから今の政府は2%以上余分な金利負担をしていることになりますから、これがなくなるだけでも政府の負担は大幅減となるのでは?
プライマリーバランスの均衡でしょうね、これが出来ないと話しになりません、民主党と自民党には出来ない、無党派層で新しい政権を作らないと財政再建は出来ない、みんなの党を政権に付けるしかない、民主党と自民党を徹底的に叩いて潰してしまわないといけない、震災と原発で国民はやっと目覚めたんじゃないんだろうかと思っているんですが。
前橋様。質問に答えていただきありがとうございます。
100%の理解は出来ていませんが、なんとなく噛み砕けました。
オーストラリアドルの安全性も僕自身もう少し勉強してみます。
前橋さんの文のなかで、「政策金利が下がった通貨は相対的に安くなる」というのがあるのですが、日本はこれまで所謂ゼロ金利でやってきて高くなったり安くなったりしていました。前橋さんのお考えでは今後金利が上げられないし上がらないとのこと。
ということは、金利がマイナスになるとは思えないので、もし金利が上がればの話ですが、日本円は長期的に考えて円高になるということ!?でいいんでしょうか?
僕の勝手な解釈ですし「素人のへりくつでしたらスルーしてください」
僕自身が円高の方が良いと考えていますので今後も自国の通貨が高いという状況が続いて欲しいと願っています。デフレだけは緩やかで良いので脱却して欲しいですが。
いつもお世話になります。
金利に関するご質問ですが、正しくは、政策金利(日本の場合は公定歩合)が高くなれば、通貨としての価値が高まりますので、円高圧力となります。
その一方で、将来のインフレ期待の高まりから長期金利が上昇する場合は、インフレによって通貨の価値が下がりますので、円安となります。
ですから、同じ「金利が上昇する」といっても、どういう状況で、何の金利が上昇しているかをはっきり理解しないと混乱する可能性がありますので、ご注意ください。
前橋
金利が上昇して増えた分の国債の利払いは、国内消化率が9割を超える日本の場合は金融機関・国民の誰かが受け取るわけですよね。3%あがれば30〜40兆円の金利所得が発生するとも聞きますが「純債権国」の日本の場合これが国内で循環する。
これが「純債務国」の欧米諸国ですと大半が外国に出て行って国内に残らない。この点が日本と欧米の決定的な違いではないでしょうか。
三國陽夫氏のこちらのインタビューの受け売りですが(笑)。
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/338832bf6f7c36cf66688921a53fe31a/page/3/
金利に関しても色々あるのですね。混乱しないように勉強します。
ご丁寧にありがとうございました。
特に返答が欲しいわけではなく、単に疑問と思ったこととなりますが…
>2008年に私が、日本を出国してオーストラリアに移住した頃の水準と変わっていません。
通貨の価値はあらゆる要素で変動する事は言わずもがな…ですが、
「他の国々が利下げしまくったせいで、豪の金利が下がったけど、相対的な世界の金利価値ではダントツになった」
「大国ではない為、ボラティリティが高いので変動が大きい」
など、通貨価値が高い理由は他にも色々あげられるし、それで”円が弱ってる”という証拠には必ずしもならないのではないでしょうか。
それから、金利が上がったら銀行の損失…とありますが、仮に好景気による金利上昇であれば、国債による損失をカバーできるほどの貸出金利収入もあるのではないでしょうか。
景気が伴わない金利上昇は最悪ですが、
景気が伴うのなら問題にはならない気も…
むしろ、アメリカや欧州がやってるような
景気が伴わない金融緩和をやらかして
不景気のインフレになるほうが最悪のような。
なので、インフレターゲットが本当に良いのかはすごい疑問です。
景気を抑えこむためのインフレターゲット(オーストラリアはこちらですよね)と、
景気を上げるためのインフレターゲットでは全く別物で、後者は問題があると思いました。
「え〜ん、え〜ん、(泣)」