2019/02/01 05:47 | 昨日の出来事から | コメント(0)
スローバリゼーション?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
2年前、アメリカが保護貿易主義に転換した時、1930年代の悲惨を彷彿させる暗い警鐘があった。今日、これらの不吉な予想は取り払われたように見える。確かに、中国は失速し、アップルのような西側の企業は、業績不振に曝されている。しかし2018年の世界経済は堅調であった。 失業率は低下し、企業業績は増加した。11月には、トランプ大統領はメキシコとカナダに対して貿易協定に署名した。来月にかけて中国の習近平氏との貿易に関する話次第では、貿易戦争は、中国から何らかの譲歩を引き出し、貿易が吹き飛ぶことなく政治的な芝居で終わると市場は結論付けるだろう。
しかしそのような自己満足は過ちである。今日の貿易関係は、2008~2009年の金融危機以降、複雑化が更に進んでいる。国境を越えた投資、貿易、銀行貸し出し、サプライ チェーン等は、世界のGDP対比縮小し、あるいは停滞している。グローバリゼーションは、活気のない新しい時代に舵を切った。オランダ作家の新語考案者に当てはめるなら、我々は、それを「Slowbalization:スローバリゼーション」と呼ぶ。
1990-2010年のグローバリゼーションの黄金時代は、恩恵のあるものであった。貿易は急増し、船や飛行機の輸送費用は下落し、携帯電話代は安くなり、関税は撤廃され、金融は自由化された。ビジネスは大成功をし、企業は世界中を駆け回り、投資家は世界中に投資をし、(80日世界一周の作者)Philieas Foggもびっくりするほど、何でもスーパー マーケットで買い物が出来た。
グローバリゼーションが、過去10年において、光速からカタツムリの速さまで失速した幾つかの理由がある。 多国籍企業は世界進出には金がかかること事がわかった。また、地元の企業が生き残るために彼らに食い込んでくる。ビジネスの形態が(これまでの物づくりから)サービスに移行しつつあり、サービスは国境を越えて売ることは困難である。例えば、ハサミは6mのコンテナで輸出することが出来ても、(ハサミを使う)髪のスタイリストを輸出する事は出来ない。そして中国の製造業は自分で物づくりが出来るようになり、外国からあまり輸入しなくなった。
このことがトランプ氏の貿易戦争の背景にある。関税ばかりが最大の関心となる傾向がある。もし、3月にアメリカが中国への関税を引き上げれば、アメリカの輸入製品の平均的な関税は3-4%上昇し、過去40年で最も高い上昇幅となる(そして殆どの企業は、そのコストを顧客に転嫁する)。更に悪いことに、これまでの貿易のルールが世界中で(保護貿易のルールに)書き換えられてしまうかもしれない。 これまでの投資家や企業がどの国の出身であるかどうかに関わらず平等に扱われてきた原則がドブに捨てられてしまうかもしれない。
こうした兆しは至る所にある。地政学的な競争が、世界貿易株式市場の20%を占める技術産業を締め付け始めている。個人情報、データ、スパイに関するルールが次々と出てきている。税金システムも、資本をアメリカに向かわせ、納税もヨーロッパからシリコン バレーへと自国還流方式に傾きつつある。アメリカやヨーロッパは、外国の投資に対して新しい体制を構築しつつある。一方で、中国は、大騒ぎしながらも外国の企業に対して態度を今の処、変えるつもりはない。アメリカは、これまで世界貿易をドルで決済するシステムに力を注ぐことから、中国のHuaweiのように外国人を罰する事に注力している。会計や反トラストのような通常の分野まで分断が始まりつつある。
企業は高い関税を嫌って貿易抑制に走る。2019年はこうした事が更に増加する事が予想される。しかし本当に問題なのは、企業の長期的な投資計画である。というのも彼らは、国ごとのポジションや、高い地政学的なリスクや不安定な貿易ルールのリスクを下げ始めているからである。ヨーロッパやアメリカに対しる中国の投資は2018年に73%も下落した。多国籍企業による国境を越えての世界的な投資金額は2018年には20%減少した。
新しい世界は、これまでとは違った働きをするであろう。スローバリゼーションは、より個別の地域に結びつきを深めるであろう。 北アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアのサプライ チェーンは、それぞれの地域ごとに密接になるであろう。アジアやヨーロッパでは、大半の貿易がその地域内で行われ、2011年以降、その割合が上昇している。 2017年のアジアの企業は、その年のアメリカの売り上げ以上にアジア域内で製品を売っている。グローバルなルールが劣化しているので、地域内のビジネスの寄せ集め(効率の悪いビジネス)や世界的な影響(保護貿易)が、貿易や投資に抑制を余儀なく迫っている。EUでは、銀行、技術、外国投資に当局が監視する為に踏み込んできている。中国は、自国IT企業がアジアで拡大するように、この地域の貿易が維持されることを望んでいる。しかし世界中で30兆ドルに膨れ上がった国境を越えた投資は、他の地域にシフト、あるいは投資を引き上げる必要になるかもしれない。
幸いにも、今の処、生活水準を破壊するまで至っていない。というのもそれぞれの地域で大陸規模の巨大市場があれば、十分にビジネスが展開できるからである。1990年以降、グローバリゼーションのおかげで12億人の人々が極端な貧困から生活水準を引き上げた。その流れから、今後、貧困率が再び上昇すると考える人はいない。西側の消費者は貿易から多大な恩恵を受け続けるであろう。場合によっては、グローバリゼーション以上に地域レベルでより強い統合が起こるかもしれない。
しかし、スローバリゼーションは2つの大きな問題を抱えている。一つ目は、新しい困難を生み出すことである。 1990年から2010年にかけて、エマージングの国々は、先進国とのギャップを埋めることが出来た。しかし、今後は先進国との貿易は困難となるであろう。そこには各地域の貿易パターンと、ウオール ストリート(株価)とFRB(金利)が世界中の市場に衝撃を与える世界の金融システムとの緊張がある。大半の国の政策金利は、たとえ貿易関係が薄まったとしても、金融危機になりかねないアメリカの影響を受け続けるであろう。Fedは、10年前にやったような世界の貸し手として、あるいは最後の貸し手として、外国を助ける事はしないであろう。
2つ目は、スローバリゼーションは、グローバリゼーションが作り出した問題を解決しないだろう。企業のオートメーションによって西側諸国のブルー カラーの仕事が復活する事はなかった。企業は、それぞれの地域で、スキルのない最も安い人々を採用するであろう。温暖化、移民、脱税などの問題は、世界的な協力なしに解決する事は一層困難になるであろう。近代化から最もかけ離れ、最も汚染されている中国において、スローバリゼーションは、地域内の覇権獲得をより加速させるかもしれない。
グローバリゼーションは、殆ど全ての人々にとって世界をより良いものにした。しかし、これまであまりにも何もしなかった為に、そのコストは莫大となっている。密接に関わってきた世界がこれまで無視してきた問題が、今、眼前に広がり、世界秩序による恩恵がいとも簡単に忘れ去られようとしている。しかも、その解決策は見いだせていない。スローバリゼーションは、前任者(グローバリゼーション)に比べて、恩恵が少なく不安定である。結論としては、ただ不快感だけが募る。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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