2019/01/29 05:58 | 昨日の出来事から | コメント(0)
Brexit、混乱の根源は?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
現在のイギリス政府の如何なる計画もまともに議論されず、1月15日に議会によって否決されてしまった。テレサ メイ首相のリーダーシップの下、EUからの離脱計画に2年近く費やしてきたが、僅か5日間の審議の末、432対202で否決され、彼女の与党議員の3分の1が反対票を投じた。
議会の混乱の根源は、憲法の危機の根源でもある。 3年前、イギリスの歴史の中で最も大きな国民投票によって、イギリスはEUからの離脱を決定した。1年後、同じ投票者によって選ばれたイギリス議会はユーロ離脱の条件は受け入れられないと拒否した。首相は強硬に離脱に向けて奮闘している。もし、この問題が3月29日まで解決できなければ、イギリスは、EUと如何なる同意もなく離脱する事になる。
こうした大惨事を避ける為に、首相はEUに対してもっと時間の猶予を求めるべきである。しかしたとえ時間をかけたとしても首相はBrexitという深刻な問題を一向に解決しようとしていない。その深刻な問題とは、「国民を本当に満足させる離脱条件とは何か?」である。 もし、こうした問題に答えることが出来ない事が明らかになればなるほど、国民は2回目に国民投票を決断しなければならない。
今週の大敗は、この2年間の政治判断が間違っていた結果でもある。2016年の国民投票は52%対48%であった。しかし、メイ首相はより強硬なBrexit計画に固執し、自分に都合のいいアドバイザーと拙速な政策に走り、その計画は与党である保守党を喜ばせるに過ぎなかった。2017年の選挙では彼女は議会で過半数を確保できず、連合政権のより明確な合意形成が必要であったにもかかわらず、今回の政治的な賭けに出た。たとえ議会が次の最終案の採決を決めたとしても、彼女は自らの案に固執し、時間切れで議会を混乱に陥れようとするであろう。彼女が勝ち得て来たこれまでの粘り強さは、今や単なる愚かな頑固(pig-headed)さにしか見えない。今週の大敗の後、首相はようやく野党議員と共に協議する事を約束したが、それまでの2年を思えばあまりにも遅すぎる。
しかし、今回の危機は単なるリーダーシップのまずさだけではない。Brexitは2つのより根本的な問題を提起している。1つ目は、各国が密接に関わってグローバライズされた現在の世界において、イギリスが離脱キャンペーンを行った後の各国との信頼回復の難しさである。もしイギリスが自らのルールと基準を決める権利(自決権)を取り戻そうとしても、違ったルールと基準を持っている他国とビジネスとする際には、より困難になるであろう。 イギリスが自分のルールで貿易を望んでも、結局は、より力を持った相手国のルール(EUやアメリカのルール)に従わざるを得ないであろう。Brexitは、言葉上は自らの権利を回復することであるが、本当の意味は自らの権利を失う事なのである。離脱派が、EUはますます魅力がないと主張するのは正しい。 というのも、イタリアでは人気取り政権が誕生し、フランスのGilet Jaunes、ドイツ経済の低迷、よぼよぼで赤ワインをがぶがぶ飲むだけのブラッセルの官僚(EUの官僚スタッフ)が幅を利かせているからである。しかし、だからと言って自分達の判断(EUがイギリスにとって脅威となる域内の移動の自由を決定したからといってイギリスがEUから離脱する判断)が正しい事にはならない。
2つ目の根本的な問題は、Brexitが民主主義そのものに対する懸念となっていることである。イギリスは民主主義の代表としての長い歴史を持っており、議員は選挙民に替わって政治的決定をする為に選出される。しかし2016年の国民投票は、国民が政治問題を決定する直接民主主義という非常に稀なケースであった。今日の危機はこの2つの狭間によって引き起こされている。国民投票はEU離脱に対して明確で合法的な意思であった。 しかし一方で、人々の代表(議員)が行った今回のEU離脱案否決も同様に明確で合法的な判断であり、単にメイ首相のEU離脱提案が単なる選挙民の関心を惹くためのものではない。議会の主張さておき、メイ首相のこれまでやってきた全ては民主主義を取り違えている。
メイ首相は、議員に対して、たとえ議員がEU離脱の議論をしたくなくても、それが選挙民の投票で決められた事だからと言って、ともかくEU離脱議論に戻るよう道義的なプレッシャーをかけ続けてきた。しかし、物事はそう単純ではない。メイ首相の提案は単に批判に値するだけでなく、2016年に約束された事からかけ離れてしまっている。彼女の提案はEUという単一マーケットから離脱し、金融から自動車生産にいたる産業を拒絶し、北アイルランドと不安定化させ、離脱費用はUSD50bn(日本円で5.5兆円)かかる。即ち、こうした事は国民投票のキャンペーン中、誰も言っていなかった。選挙民は、今回の判断(EU離脱)で幸福になるつもりでいた。しかし、メイ首相の離脱提案を支持すると声を出す選挙民はだれもいない。これが、与野党を問わずメイ首相の提案が「本当に国民の意思を代表していない」と批判する理由である。議員にとって、国民投票をやり直すことは、前回の判断を尊重していないことになり、その事は、間接民主主義と直接民主主義の判断との間で曖昧さを引き起こす。どちらかが良ければ、その一方が悪くなるといった問題である。
この混乱から脱出する為の最初のステップは、まず時計を止めることである(期限の延長)。何故ならば、メイ首相の提案は死んでしまったし、新しい提案を作りにはたった10週間しか残っていないからである。最悪は、何の提案もなく3月29日を迎えることである。それはヨーロッパ全体にとっても悪く、イギリスにとっては壊滅的になる可能性がある。もしメイ首相が期限延長を求めないならば、議会がそれを行使すべきである。それは、議会の後方に座っている議員も巻き込んだこれまでの伝統的な手続きと決別する手段である。しかし、首相が新たな提案をしない手段に固執するならば、議員がその主導権をつかむ義務がある。
もっと時間をかければ、恐らく議会とEUが合意できる離脱提案を見つけることが出来るかもしれない。少なくとも現在のひどいBrexit提案よりも良いノルウェー スタイルのモデル(ノルウェーとEUとの関係)に見ることが出来る恒久的な関税連携が辛うじてなされるかもしれない。しかしそれには妥協が必要である。例えば、イギリス自らが貿易のルールを決める権利を放棄する、あるいは前回のキャンペーンで約束した事とは逆に域内の移動の自由を認める等である。
故に、如何なる提案を行うためには、それがメイ首相であれ、それにとって替わった人であれ、民意を問わなければならない理由がここにある。今回のBrexitを巡るやり取りでは、実際に離脱する内容が2016年に好き勝手に新聞で売られていた離脱趣意書とは似ても似つかないものであることを示している。選挙民は、2016年に新聞で売られていた趣意書と実際の離脱内容とのトレード オフの中で、それがどうであれ、選択しなければならないだろう。しかし人々の意思は非常に重要であり、単に議員の論争によって推し量られるべきではない。国民が本当に何を望んでいるかを見つけ合意形成する事が出来ない議会は、単に実務的に混乱から脱出るだけの方法を見つけるだけでなく、国民目線に戻ることであり、民意を問う事である(国民投票をもう一度行うことである)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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