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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/01/16 06:02  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

年末年始の急落の意味する事は?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

不愉快な10月と難儀な11月の後、S&P500は11月30日から12月24日にかけて15%も下落した。クリスマス後は5%も反発したが、結局年始以来6%下落して2018年末を終えた。更に2019年始は、アジアとヨーロッパの急落を受けて更に下落した。アメリカの市場終了後、アップルは中国経済の急激な低迷と、他のエマージング国の消費の弱さが第4四半期の利益が予想対比10%以上減少すると発表し。翌日、中国の12月製造業は前期比マイナスであったことを受けて1月3日には再び下落した。

投資家は、リスクに対して神経質になり、債券市場では、ハイイールド債券が国債の利回り対比スプレッドが拡大し、格付けの低い企業の利回りは上昇した。一方で、10年国債の利回りは過去1か月で2.98%から2.63%まで低下し、投資家は安全資産に駆け込んだ。更に短期から長期にかけて国債のイールド カーブは殆どフラットになっている。 これは、市場が景気の失速に対して神経質になっているサインでもある。JP モルガンのエコノミストは、株式市場や、クレジット市場のスプレッド、更には国債のイールド カーブを使ったモデルでは、2019年にアメリカが景気後退に陥る可能性は91%程度であると示している。

更に投資家が疑心暗鬼になる理由がある。1年前に施行されたドナルド トランプ大統領の景気刺激策は、今年早々にその効力がなくなる。更に、中国やヨーロッパの景気後退の可能性がある。関税や貿易戦争が恐らく世界の投資を遅らせる。収益予想も後退を余儀なくされる。リサーチ会社Facserによれば2018年9月末のS&P500の企業の収益見込みは10.4%であったが、現在は7.9%に失速している。

更に、トランプ政権運営のまずさが容易ならぬものになっている。政府機関の閉鎖が更なる野党との政争を激化させかねない。12月23日に無能なSteven Mnuchin財務長官が、マーケットの混乱を鎮める為に、「銀行は十分な流動性を持っている」と発言した(投資家は、彼が発言するまで、銀行の流動性について心配していなかった)。更に、トランプ氏は、Fedの議長であるJerome Powell氏について「政権の足を引っ張っている」とその能力を疑問視した。

とはいえ、恐らく投資家の最大の懸念はFedそのものから来ている。12月19日FOMCで、金融市場が急落し、市場を下支える要因がないにも関わらず、2018年に入って4回目の政策金利を引き上げた。Powell氏は、更に「バランス シート中立化に向けるFedの政策を直ちに変更しない」とも発言した。景気予測会社Kluwer Blue Chip Financial Forecastは、アンケートに回答した46%は「Fedの政策金利の到着地点は、Fedが長期的に中立な水準(政策金利を上げるでもなく、引き下げるわけでも無い水準)よりも高くなると考えている。僅かに回答した10%が中立水準よりも低くなると考えている」と述べている。またFOMCメンバーのタカ派でもなければハト派でもない中間派の2019年の政策金利引き上げ回数は3回から2回に下がっている。その一方で、短期金利先物市場では、政策金利の引き上げが全くない水準で取引されている(政策金利の引き上げ回数はゼロ)。

金融政策者が、投資家に比べて強気なのは、現在の景気指標に黄色の信号(景気が過熱気味の信号)がともっており、現在のアメリカ経済は好調だからである。2018年の労働市場は改善に改善を続けており、殆どの消費者信頼感指数は10年振りの高水準にある。JPモルガンの別の経済モデル(自動車販売、建築許可件数、失業率と言った短期的な経済指標からなるモデル)では、2019年に景気後退する可能性は、かなり低く26%程度である。

現在のマーケットの恐怖心と足元の強い経済指標とのかい離は、いずれなくなる可能性がある。 その一つには、株で損をしている株の保有者は支出を控えるかもしれない。株式市場の下落が、消費者や経営者の信頼感、支出や設備投資にダメージを与えるかもしれない。株式市場や金融指標に基づく景気後退予想が経済活動そのものに影響を与え、それが実際の景気後退につながる。

過去20年間から判断すると、株式市場の低迷が続くようだと、Fedは経済成長予測を下方修正し、金融政策は緩和に転換するだろう。12月19日の政策金利引き上げを発表後、Powell氏は聴衆に対して、「『何らかの市場の乱高下』が、経済に影響与える事はないであろう。しかし、それと同時にFedは既に、経済成長やインフレについて『若干』下方修正している」と発言している。

幸いなことに、今の処、Fedに取って、インフレは予想通りもしくはそれを下回って落ち着いている。その事はFedの政策決定者に余裕を与え、これまで何度も批判されてきた過度の引き締めにはつながらないであろう。投資家は、こうしたFedの過度の引き締めがないことを感じているのかもしれない。

今後、株式市場はこれまでの株価低迷から回復するかもしれない。しかし、たとえそうだとしても、Fedは政策金利の決定に際してはあくまでも「データ次第(景気指標次第):data-dependent」であることを強調し、中央銀行の「予断を持つことなく: less predicable」の姿勢がここにある。 今年は、投資家がこれまで経験してきた以上に乱高下しそうである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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