2018/10/12 06:07 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ブラジルは大丈夫か?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
2002年に死去した著名な経済学者Rudi Dornbusch 氏は、通貨危機には2種類あると述べている。一つ目は、1990年台前半までの通貨危機であり緩やかなものであった。通貨が過大評価されて貿易赤字が増大し、外貨準備金が次第に減ってしまうものである。外貨準備金がなくなれば、ゲーム オーバーになり、通貨は下落する。財務大臣は責任を取って辞任する。しかし世の中は依然と変わらず世界が崩壊する事はなかった。
2つ目の危機はステロイドのように即効的にやって来る。 政治腐敗で世界銀行などの国際金融機関から借りた金を吹き飛ばすような国は、大量のドル資本を間違った事に手を出す。そこに国内の銀行も加担する。すると経済が好景気に沸く。しかし、ひとたび外貨準備金がなくなると通貨は急落し、銀行倒産が拡散し、そのダメージは他の国にまで及ぶ。
しかるにブラジルは、第3のカテゴリーに入るのかもしれない。今月の選挙で次の大統領と議会の大勢が決まる。彼らは、スローモーションの金融危機を形成するかもしれない。しかし、そのドラマは通貨市場ではまだ上映されていないようである。その影響が、まだ為替市場に及んでいないからである。というのもブラジルは、かつてのような準備金不足による危機の兆候がないからである。ブラジルは、その危機の本質がブラジル国内にあるからである。
ブラジルとアルゼンチンやトルコと比べてみると、アルゼンチンやトルコは嵐の最中にある。彼らは、典型的な通貨危機のパターンに合致している。両国は、貿易収支を広義に測る大量の経常赤字を抱えており、その赤字分の多くはドルを中心に外国から調達している。また、両国は高いインフレに苦しんでおり、殆ど外貨準部がない。しかしブラジルは違う。経常収支は概ね均衡している。インフレは歴史的に低い水準である。 また、ドル債務に対する外貨準備も十分ある。
ブラジルの問題は、政府の資金調達が危険な道を辿っていることにある。公的財務はこの4年間でGDP対比60%から84%に増加している。背景には2013年以降の厳しい不景気で歳入不足に陥っているからである。その後は「棚からぼた餅」のような鉱山市況の回復と借り入れ旺盛な国内消費者の支出によって落ち着いているが、今後、同じような幸運が繰り返されることはないであろう。
公的債務を減らすためには支出を削減する必要がある。しかし公務員の賃金は急上昇している。更に、寛大な年金が問題をより一層大きくしている。その割合は政府支出の55%を占めるまでになっている。またブラジルも高齢化で社会コストが増大している。 それでも歳出上限を定めた2016年の憲法改正が無ければ事態はもっと悪化したであろう。 しかし年金改革の試みは、Michel Temer大統領が前任の大統領が弾劾され投獄された汚職と同じ可能性が指摘されて中断された。
今後、ブラジル政府は、ブラジル国債の保有者(主にブラジル国民、年金受給者、賃金の高い公務員など)と駆け引きをしなければならない。さもなければ、債務増加の為に公的サービスは低下し、生活水準も低下するであろう。更に、汚職のリスクが政府を覆っている。大統領選でトップを走っている候補は議会を通じて年金改革を主導することに四苦八苦するであろう。 モルガン スタンレーのArthur Caevalho氏は「今度危機が起きるとすれば2020年の予算が提出される来年の8月であろう」と述べている。もし、年金改革が実施できなければ、国中で歳出不足が起こり、大量の資金が必要となる。もしくは、憲法で定めた政府の債務上限が引き上げられるかもしれない。
ブラジル国債保有者は逃げ出すかもしれない。ブラジル国債の外人の占める割合は少ないけれども(国債発行残高の約12%)、それでも資本の国外流出は起きる可能性があり、その際は通貨が売られ、債券価格が下落する(金利が上昇する)。ブラジルの貯蓄者は、インフレや混乱は公的債務が上昇した結果、起きると考えている。 彼らは政府に対してそれを避けるように求めるであろう。ラテン アメリカの貯蓄者はインフレから身を守る為に長きに亘り米ドル口座を保有し続けてきた。Caevalho氏は「このことはブラジル人にとってノーベル賞に値する」と述べている。しかし、ブラジルのインフレ率の低下に伴って短期金利が低下した為に、ブラジルから資金を引き上げるためのコストもかからなくなった(投資として魅力がなくなった)。
実は目新しい事など何もない。ブラジルの過去の危機の兆候は高いインフレと膨大な赤字であった。前ブラジル中銀総裁で、現在はヘッジファンドGavea InvestimentosnoのArminio Fraga氏は「表面下では、ずさんな財政政策の問題が進行している」と指摘している。 また、初めに登場した経済学者Dornbusch氏も「危機の炎がゆっくり燃え始めている」と述べ、「(暴落が起きる前に)何らかの調整が為される事が最悪の事態を回避できる」と指摘している。現時点では、ブラジルはまだ危機に至っていない。しかし、もしこうした事態をうまく対応出来なければ、通貨下落が劇的に加速するであろう。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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