2018/08/10 04:47 | 昨日の出来事から | コメント(4)
積み上がる日本の外国証券
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
それは、1979年(第2次オイル ショックの頃)のことである。 Jphn Updikeの小説シリーズにみんなのヒーロー Harry “Rabbit” Angstromは、ペンシルバニアのビール工場で車のショー ルームを経営している。当時のペンシルバニアは沈滞ムードが漂い、地方の繊維工場は閉鎖されていた。ガソリンの価格は急騰し、誰もデトロイトのガソリンばかり食う車を買おうとしなかった。 しかし Rabbit氏は、何も憂うることはなかった。彼はトヨタの販売ラインセンスを持っているからである。かれの車は、1マイル辺りの燃費が最もよく、しかも価格は他社対比で最も安かった。彼は、顧客に、「あなたが車を1台買えば、それはあなたのドルを円に交換している」と言った。
「Rabbitは金持ちである」は、アメリカが初めてライバル(日本)の台頭に神経をとがらせ始めた最初の出来事を象徴するものであった。日本は、アメリカがそれまで世界のリーダーであった繊維、家庭用電気製品、鉄鋼の座を奪い取っていた。そして、アメリカの車もその座を奪われる脅威に曝された。しかし、今日の日本はそうした勢いはなく、世界第2位の座すら中国に奪われている。しかし、ある点(外国証券の保有)に関しては、いまだにトップの座にある。
今週(7月末の日銀決定会合の週)、日銀は概ねそれまでの金融政策を維持する事を決定した。しかし、事前の予想では、日銀は実質的な金融政策の変更が、世界の債券市場に何等かの混乱を引き起こすのではないかとの懸念があった。こうした懸念は尤もである。というのも日銀の突然の変更が、日本を越え世界中に影響を与えかねないからである。
その一つの理由は、日本の世界債券市場に与える影響が年々大きくなり続けているからである。日本の純対外資産(国内投資家が保有する対外証券資産-海外投資家が保有している日本証券資産)は約3兆ドル(日本円で330兆円)になり、日本のGDPの約60%である。
しかし、これは、日銀による異次元の金融緩和の結果でもある。日銀は、しつこいまでの低インフレに立ち向かうために特別な政策を打ち出し、短期金利を-0.1%にまで下げた。 また、1年に80兆円の国債を購入することで10年国債の利回りをゼロ%程度に維持する事を目標にした。更には。毎年6兆円の株式ETFを買っている。
これまでの伝統的な手法ではないにもかかわらず、今や当たり前になってしまっているこうした政策によって、生保や通常の投資家は、国内よりも高いリターンの得られる海外の債券や株を買っている。実際の処は、日本の投資家は短期で海外通貨を借りて(借金をして)外国資産を更に買い増している。日本の外国証券保有額は、2010年にはGDP対比111%であったが、2017年には185%まで上昇している。この資本流出の影響は為替市場に波及し、円は他通対比で安くなっている。弊誌エコノミストが採用している「ビッグ マック インデックス」で見ても、円は、どの主要通貨よりも安くなっている。
また、日本の投資家は、世界の先進国の債券利回りに蓋をしている(金利の上昇を押さえ込んでいる)。JP モルガンによれば、日本は、例えば、フランスが発行している国債の約10分の1を保有し、オーストラリアやスエーデンの国債の15%を保有している。日本の生保は、アメリカの社債を大量に保有しているが、今年に入って、アメリカの金利が上昇してヘッジコストが上昇した為に、彼らはヨーロッパの社債へシフトしている。日本の国外株式の保有残高は、2012年以降、3倍に膨れ上がり、海外で流通している世界の株式の5分の1を占めるまでになっている。
このように日本で起こっていることが、世界の資産価格に大きな影響を与えることになる。金融政策の大幅な変更は劇的な影響を与える。Societe GeneralのKit Juckes氏は、「日本で、ビック マックやラテやi-padを最も安く買えるのは異常である」と述べている。日銀が実質的な量的緩和を終了させるシグナルを市場に送った時、円は急上昇するかもしれない。それは、多くの市場に広がりかねない。ただし、日銀が現在の金融政策を維持する限り、そうした考えは心の中にしまっておくべきである。当面は、世界の資産価格を押し上げ続けるであろう。
Rabbitが忙しく売り歩く姿も、根本的には同じある。1979年に、彼がもはや朽ち果てたと考えたドルは、今、まさしく復活しようとしている。この回復は、FRBによる政策金利の引き上げ要因もあるが、別の処では、日本のせいでもある。1980年に日本は資本の自由化を始めた。投資家は円を売ってドルを買い始めた。その時から始まった日本の外国資産の買い漁りは、いまだ止むところを知らない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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4 comments on “積み上がる日本の外国証券”
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前橋様
もちろん単なる山勘ですが、投機筋は日銀に対して将来的にも金融緩和を解除出来ないように、円高を、折しもトランプの貿易戦争の最中、仕掛けてくるような妄想が…。
私はノーポジ、お気楽なもんです…笑。
リラ、くりっく365で、16円割れの直前、ボードから値が消えましたね…。
珍しいものを見させてもらいました…。
ホルダーも多そうで、なんとも言えませんが、ちとやばい感じですね…。
いつもお世話になります。
仰る通りですね。
ですが、逆に、トルコリラにつられて売られている新興国通貨(ブラジル レアル、人民元等)は、いい買場になるのではないかと考えています。
この水準なら、段階的に買い下がってもいいと思える水準を設定して、買い下がることを検討しています。
よろしくお願いします。
前橋
毎年リオのカーニバルへ行けるように?笑、鋭意検討してみます。