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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2009/10/20 06:57  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

富の本質とは?


おはようございます。

先週の英経済雑誌エコノミストに「The Nature of Wealth(富の本質」と題した記事があり、大変興味深く読みましたので、その要約をご紹介します(少し難しく、お話が長いですがおつきあいください)。

まず、富の定義付けとして、「製品(工場で作られたもの)や教育などの目に見えない商品があり、それに加えて、投資として運用あるいは将来に消費するために先送りされた金融資産」があるとしています。

金融資産の内、まず株に注目すると、「株式の価格が上昇する基本的な理由としては、会社によって提供された商品やサービスが価値を生み出し、その収益が会社の資本を増やし、それが配当の増加をもたらすために株価は上がる。」としています。

しかし、景気の変動(循環)が、この基礎的要因に大きく影響し、株価の本質を分かりづらくしています。株価の上げ下げは、配当の上げ下げに直結し、経済の長期的な成長を正しく反映した価格上昇でなければ、結果として上昇した株価は我々を豊かにしません(理由は、面白い逸話の形で最後に出てきます)。

にもかかわらず、人々は株価を経済の健全性のバロメーターとして、政府や中央銀行の政策によって上昇した株価は、経済が正しい方向に向かっていると見なされます(あるいは見なされてきました)。 こうした考えは、規律のない金融政策や根拠のない繁栄(バブル)を生み出すといった間違った政策に結びつきます。

株の次に、住宅の場合は株よりももっと複雑です。というのも、住宅には、“家に住む”要因と同時に“投資”の要因もあるからです。経済成長率を大きく越えて住宅価格が上昇することは、社会を豊かにしません。 豊かにする代わりに、住宅を取得した人の所得(主に初めて住宅を取得する若い人の所得)が、住宅を売った人(主にリタイアした人)に経済成長以上に上昇した価格が余分に所得移転されるだけです。

理論的には、住宅価格は、もし人々が車よりも家がほしいと望めば、経済成長率よりも早く価格上昇します(需要が集中するため)。 現実問題として、この需要の集中と、経済成長以上に住宅価格が上昇すること(住宅バブル)のもつれを解くことは容易ではありません。 

以前、BBCが放映した番組に、5000ポンド(日本円で約80万円)まで使えるクレジットカードを取得した人が、インタビューに対して「自分が豊かになった気がする」と応えていました(クレジットカードで買ったものは、いずれ支払わなければならないだけでなく、10%以上の金利を支払わされるにも関わらず!)。

同様に、株でも住宅でもオーバーバリュー(価値を越えた)資産の取得は、その人を豊かにするのはなく、逆に貧しくします。

各国の経済刺激策も同じ事が言えます。その国のとっている経済政策が本当に長期的な経済成長を支えるための景気刺激策となっているか?さもなければ、これらの経済政策が(返済や金利の支払いのために)結果的に将来の経済をより制約してしまうのではないか? また、中央銀行が行っている量的緩和政策は、本当に富の創造につながっているか?そうではなくて、単純に引き受けた資産を維持するためのものになっていないか?

中央銀行は過去20年に亘り(日本の事を指している?)、金融市場を助けるために繰り返し介入し、紙切れ資産(価値のない手形やCP)を買ってきました。しかし、彼らは長期的な基礎的要因を反映しないレベルで、ただ価格を維持するために購入してはいないか?

18世紀の資本家 John Lawは、ミシシッピー貿易会社の株価を維持するために考え付いた巧妙なスキームは、結局は破綻しました。 というのも、彼がEl Dorado(エル ドラード:黄金郷:南アメリカの宝の山といわれていた伝説の地)と約束していたデルタ地帯は、実際はそうではなくて、悪臭のする沼地だったからです。

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One comment on “富の本質とは?
  1. ぺルドン より
    本質・・

    富の本質とは?

    ミダス王の手だろう・・

    触れる総てをゴールドに変えられるが・・
    飢えた・・
    愛を失った・・

    故事に回答は既にあるのだろうな。

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