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2018/03/29 05:23  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

「中立化」が中央銀行の間違いを招く?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

10代の若者のように中央銀行は中立化に憧れている。中央銀行の多くは、過去10年に亘り、異常なまでに不安に苛まれてきた。彼らは、金融政策の変更において、政策金利をどうすべきかに自信がない中、ドジをしでかし、混乱し、挙句にバランス シートを肥大化させた。10代の若者たちは、しばしば自分達が、冷静であるかのような振る舞いによって不安や自信のなさを鎮めようとする。中央銀行もまた同様である。

しかし、背景に金融危機のリスクが横這わっている状態で、中立化政策を望むことは、本来の中立化の目的である経済成長を支え、インフレをコントロールすることから外れかねない。国際決済銀行(BIS)は、最近、各国の高官たちに政策金利引き上げについて市場を失望させるようなことは避けるべきであると警告している。 最悪なことは、中立化を急ぎ過ぎたばかりに世界経済を危機に陥れる可能性すらあるからである。

中央銀行が中立化を目指す事は明白である。ECBのチーフ エコノミストPeter Praet氏が、最近の講演の中で、「中立化とは、量的緩和と言った「非伝統的な」、あるいは「通常ではない」手段を終わらせることである」と説明している。つまり、政策金利の変更が彼らの主たる金利政策に戻ることを意味している。

中央銀行は、金融政策の中立化をはばかることなく常に公言してきた。今回、Fedの前任Janet Yellenn氏の後任になったJerome Powell氏は、最初に議会証言で、「彼女の在任中、FRBは金利水準とバランス シートの両面から中立化を始めた」とし、3月21日に、彼は自ら政策金利0.25%を引き上げた。

しかし、ある時代においては「中立」だからと言って、別の時代において「異常」なのだろうか? 昔、中央銀行は1970年代から1980年代のFed議長Paul Volker氏が苦労したインフレを押さえ込むために政策金利は10%台であった。1990年代になると彼の後輩であるAlan Greenspanや、彼の仲間たちは、当時の高い金利から低い金利にうまく誘導した(Great Moderation:偉大なる金融緩和)。

(しかし、その後の)世界金融危機以降は、政策金利はゼロ近辺まで急落し、中央銀行は量的緩和に直面し、更には、マイナス金利に突入し、将来にわたり低金利を継続する約束までした。世界金融危機以降、資産買い上げは先進国で積み上がり、ユーロや日本ではいまだに続き、中央銀行のバランス シートは兆ドル単位で膨れ上がっている。

これは金融危機の遺物に留まらず、寧ろ、将来的に世界経済の低成長が相当長く続くことを示しているようにみえる。先進国の中央銀行の政策金利の過去20年間の平均的な策政金利は僅かに2%に過ぎない。にもかかわらず、Fedは、最近予測した金利水準を2020年までに政策金利の目標を3.5%としている。

政策金利は、通常、下降サイクルに入ると3%以上低下するので、今回のFedの予想の意味することは、次の金利低下局面では、再び、今回のような「非伝統的な」量的緩和をやる必要があることを示唆している。 他の中央銀行に至っては、中立化すら程遠い。イングランド中銀は2021年の政策金利を1%若干上回った水準においている。ECBは毎月30bnユーロの国債買取りの削減の過程にある。日本に至っては、4半世紀以上に亘って異常な低金利政策金利の中で生きている。

これら全ては「中立化」の議論を複雑化させている。 それは、あたかも10代の若者が、自分が、どれ程勇敢であるかを隠して強がりを振る舞っているかのようである。あるいは、中央銀行の銀行マン達は、古き良き時代の中立化をやらなければならない何かに憑(と)りつかれているのかもしれない。しかし中央銀行の政策金利は、低いままである。何故ならば、世界の金利が低いからである(これが現実なのである)。こうした金利は、第2次世界大戦後以降の金利に比べて世界経済の成長率が低いことを反映している。つまり、政府や企業の周りには資本がジャブジャブにあって、いつでも十分に使える故にインフレは低く安定しているのである。

こうした状況はすぐには変わらなさそうである。低い生産性が進行し、高齢化社会が先進国に重くのしかかる。アメリカ政府による予期せぬ多額の借り入れは、すぐさま世界中の貯蓄によって吸い込まれてしまうであろう。従って、アメリカの長期国債の利回りは歴史に低い水準から上昇する事はない。 劇的な世界情勢が変化しない限り、中央銀行は、いずれ経済が耐えうる水準まで政策金利を引き上げるという中立化政策を放棄せざるを得ないであろう。

幾つかの要因、例えば低成長や資本過多(資金がジャブジャブ)がインフレ勘案後の実質金利を押し下げている。従って、中央銀行がコントロールしている政策金利は通常水準にない。インフレは、これら2つ(低成長と資本過多)の間に挟まれている。結果として、より高いインフレは、中央銀行が現在ように実質金利がゼロ金利のように低い水準を十分に上回る高い水準に設定できる環境においてのみ起こりうるであろう。

こうした理由から、エコノミストに中には、中央銀行のターゲットを変更してはどうかと提案している。そうした人々の中の一人、前のFed高官Narayana Kocherlakota氏は、インフレ ターゲットをもっと高くすることを推奨し、別のBen Barnake氏は、中央銀行が現在のようなインフレ ターゲットを設定する長所よりも、一時的に2%以上に上昇するインフレを許容するより柔軟なアプローチの方が望ましいとしている。

それぞれの考えにはそれなりにいい処もある。しかし、いずれも「中立化」に戻るとは書かれていない。 しかし、金利設定者(中央銀行)は、10代の若者が決心するように、中立化とは何かを自分自身で理解する為にも、中立化が可能であり、また、それが本質的に望ましいと考えている。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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