2018/02/15 05:32 | 昨日の出来事から | コメント(0)
「でたあ~!?」
今週号の英誌エコノミストに掲題とした記事がありましたのでご紹介したいと思います。
全てのうまいホラー映画の監督は、人々をびっくりさせる秘訣を知っている。ちょうどヒーローもしくはヒロインが、ほっと安心した時に、何処からともなくモンスターが現れて彼らをびっくりさせる。最近の株価の急落はアルフレッド ヒッチコック監督によって演出されたかのようであった。2月2日と5日に急落したが、それまでの株価は上昇トレンドしかないように思われた。
それまでのアメリカ株が上昇の中にあって、今回の急落は今年の始めの水準にまで引き戻される形になった。2月5日にダウ ジョーンズ インデックスが1,750ポイント下落した事は、下げ幅としては過去最大であるが、下げの比率としては4.6%の下げに過ぎない。 一方で、1987年10月のブラック マンデーでは508ポイント下げたが、その下げ率は23%と今回の下げ率よりも大きかった。
今回の急落が、いまだに世界を震撼させている。1月29日から2月7日にかけて、MSCIエマージング マーケット指数は7.5%下落している。 また、FTSE100指数は1月の高値から8.2%下落している。最近の反発によって、ダウは2.3%上昇(567ポイント)して、やや落ち着きを見せている。
この突然の急落は何を意味しているのであろうか? 恐らく投資家はあまりにもいいニュースに馴染み過ぎて安心しきっていた。最近のサーベイでは、投資家は、株の比率を過去2年で最も高い水準にまで引き上げ、現金比率を過去5年で最も低い水準にまで下げていた。また、別の安心しきっていたサインとしては、投資家はマーケットの下落に対して保険を払う事(ヘッジをする事)を望んでいなかった。そのことは、ボラティリティ、もしくはVix インデックスに表れている。 これまで、こうした指数は非常に低いボラティリティの水準で長期に亘り推移していたからである。
今回の急落は、投資家が市場の見通しや経済について見直す決定をしたことを反映しているのもしれない。2009年以来、中央銀行は、低金利政策と国債を市場から買い取ることで新しい資金を供給する事によって金融市場を積極的に下支えしてきた。それまでは「長期的なスタグフレーション」が市場で語られ、低成長と低金利がほぼ永久的に続くだろうとされてきた。
しかし連邦準備とイングランド中央銀行は今や金利を押し上げている。また、ECBは国債の買い取りを削減し始めている。中央銀行の将来は、今までのように明確でなくなってきた。世界的な経済成長は、当然の事ながら、高いインフレの心配が起こる。世界銀行は、先月、金融市場はボラティリティの上昇に直面する可能性を警告していた。
債券市場の金利は、昨年8月以降、上昇に転じている。アメリカの10年国債の利回りは、2017年9月8日には2.05%であったが、2月2には2.84%まで上昇している。この日、雇用統計は発表され、賃金上昇率が年率2.9%と急上昇した。これは、近い将来インフレがより高まることを示唆している。更に、最近、決定された減税政策では、両院からなる連邦予算委員会によれば、2019年9月までに1兆ドルの財政赤字が発生するとしている。投資家に巨額の国債発行を買わせるにはより高い国債の利回りが必要となるかもしれない。
債券金利の上昇は、市場に取って幾つかの面で困難をきたす。 一つ目は、企業や消費者の借り入れコストが上昇する事によって、景気が失速するかもしれない。 2つ目はアメリカの株価水準が非常に割高になっていることが挙げられる。現在の景気循環勘案後のアメリカ株のPERは33.4ポイントと、過去の平均値である16.8ポイントに比べて非常に高い。これまでの強気の株価は、株とは別の投資対象である国債のリターンに比べて、より高いリターンが得られたことが背景にある。というのも国債のリターンは非常に低くかったからであるが、今後、債券のリターンが高まれば、株に対する魅力が弱まるかもしれない。
ほとんどのアナリストは、最近の株価下落は一時的なものであると考えている。世界で最も大きな資産運用会社ブラックロックは「絶好の買場」と言っている。今後の経済成長見通しは引き続き強い。第4四半期のS&P500の企業の収益は、前年比+13%であり、売り上げも同+8%である。減税が更に企業収益を押し上げ、株の買い戻しによって株価が上昇するかもしれない。こうした考えが、株価下支えの要因となっている。
一方で、インフレ懸念は、まだ顕在化していない。アメリカのコア インフレは、まだ1.5%である。 オイル価格の上昇にも関わらず、Bloombergのコモディティ インデックスはほぼ1年間の水準と変わらない。同様にアメリカのインフレ期待値についていえば、それは債券市場の利回りに反映されている。
以上のことから、アナリストたちが楽観的であることが正しいかどうかわかる。一つには、最近の株の急落は、最近の債券利回りの上昇に対する反応なのかどうか、あるいは、将来的な困難を示唆するものなのかどうかである。
2つ目は、経済学者Hyman Minskyが「経済成長が強い時には、投資家はより多くのリスクを取る傾向があり」と指摘している点である。このリスクは、究極的には2007年のサブプライム ローンが無価値になったように自分たちに跳ね返ってくる。恐らく、ボラティリティを売ったファンドや仮想通貨(暗号通貨)の急落よって、次第に虫歯に苦しむように、いくつかの金融機関に危機をもたらすかもしれない。
今の処、そうした危機は、蓋然性というよりも可能性に留まっている(まだ、具体的に表面化していない)。
しかし、ホラー映画のように、ひとたび投資家がびっくりしてしまうと、彼らは暫く神経質にならざるを得ない事がわかるだろう(今までのように積極的にはなれない事がわかるであろう)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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