プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/01/30 05:28  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

いずれ嵐の日に傘もコートも持たない人が誰か分かる?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

あなたは退屈に時間を過ごしているかもしれない。今の金融市場は儲かるとはいえ、非常に動きが鈍い。アメリカの代表的な株価指数であるS&P500指数は、これまでで最も長く上昇を続け、この間、5%以上も下がることはなかった。債券市場は、最近でこそ若干金利が上昇しているが、それでも、歴史的には非常に低い水準にとどまったままである。 ゴールドマン サックスのようにかつてトレーディングで名を馳せた金融機関は、閑散とした市場によって収益は落ち込んでいる。

これは、偏に2008年の金融危機以降の金融緩和政策が堅持されていることで市場ボラティリティ(値ブレ)が少なくなっていることに起因している。中央銀行は、短期金利を低く押さえ、彼らの量的緩和政策の結果、債券の利回りはマイナス金利にまで押し下げられている。金融資産購入の伝統的な判断手法としては、将来のキャッシュ フローを現在価値に割り引くことが言われている。中央銀行が短期金利を低く維持することで、こうした債券価格も同様に安定的に推移している。

最近、エコノミストHyman Minskyは「長期的なブームは、それ自身の中に崩壊の種を育てている」と考えた。彼は「経済がうまくいっている時、投資家は、より多くのリスクを取る傾向がある」と指摘している。こうした投機的なポジションは、将来のショック、例えば、突然の金利の上昇に対して非常に脆い。

今日のように高度化したマーケットにおいて、投資家は自らの資本の調達や良いタイミングで資産を購入する為に資金調達することに制約はほとんどない。彼らは、デリバティブを使って、自分の買いたい価格で買うことが出来るが、まさしく、そこに市場のボラティリティが存在する。

S&P500の堅調さによって実際にそのボラティリティは非常に低位で推移してきた。しかし投資家はマーケットや相場の急激な変化に備えてヘッジすることが出来る。例えば、オプションを使えば、ある一定の価格で株式を買う権利、もしくは売る権利を行使することでヘッジできる。このオプション価格は、多くの要因によって決定される。 しかし、その中で最も大きな要因は、投資家が、将来に対してどれほど市場がブレることを期待しているかにかかっている。 この計測は、「市場のimplied volatility:価格の中に織り込まれているボラティリティ」と言われ、「Vix: あるいは、ボラティリティ インデックス」の名前で良く知られている。

もし、市場が今後も安定的に推移すると期待すれば、オプションのプイレミアムを稼ぐために投機家はボラティリティを売る。売り手が多くなればなるほど、オプションのプレミアムはますます下がる(つまり、Vixの値は低下する)。 しかし、突然、ボラティリティが上昇すれば、ボラティリティを売っていた投機家は損をすることになる。 これと密接に結びついて入りものとして、投資銀行が使っている手法、所謂、トレーディング ポジションのサイズを決定するValue at Riskがある。これによれば、ボラティリティが下がるとより多くのポジションを取ることが可能となる。 ボラティリティは資産価格が下落すると上昇する傾向があり、それによって金融市場全体にリスクが広がる。

NY連銀が出した最近の2つのレポートでは、このことを検証している。その中で、著者は「低い ボラティリティは長く続く傾向がある。過去のデータからみると、非常に長く静かな時間が続き、危短期間でボラティリティが急上昇する(何らかの危機の発生を意味する)傾向がある。故に、今日の低いボラティリティが必ずしも(将来ボラティリティが上昇する)警戒サインとは限らない。一般的に、今日の極端に低いボラティリティは、将来も低いボラティリティであることを予測しており、将来的にボラティリティが上昇することを意味しているわけではない」と述べている。

ところで、Vix(ボラティリティ インデックス)は、今後、1か月のボラティリティを価格に織り込んでいるに過ぎない。しかしこれを使ってimplied volatilityは2年先のボラティリティまで計算できる。それは、ちょうど短期金利を使って長期のイールド カーブを計算できるのと同じ要領である。 2006~2007年の頃、このボラティリティ カーブは非常にフラットであり、これは、投資家が当時のバラ色の状態が長く続くと期待していたからである。 また、そのことが後のサブ プライム ローン市場の問題によって多くの人が巻き込まれていった事を裏付けている。

今回、ボラティリティ カーブは、当時に比べて立っている(とはいっても1996年に比べて15%程度スティープになっているに過ぎないが)。 このことの意味する事は、投資家は、以前(金融危機前夜)ほど現状に自己満足していないことを意味し、ボラティリティは将来的に上昇すると考えていることを示している。投資家は、現在の11%程度のVixから今後1~2年以内に長期的な平均値である20%まで上昇すると期待しているのかもしれない。

そうした変化のきっかけが金融政策の変更であることは明らかである。Fedは、ゆっくりと短期金利を引き上げて量的緩和政策をUnwindしている。ヨーロッパでは、ECBが債権買取りの規模を縮小しようとしている。 これまでの処、このプロセスは、大きな混乱を引き起こしていない。 しかし、更に金利が上昇した時に、投資家や借り手が問題を引き起こすtipping point(転換点)があるかもしれない。 どんサイクル(環境)においても、他の投資家よりもより多くのリスクを取る投資家が存在する。もし、今年、嵐(金利上昇の嵐)がやって来たとき、世界は「誰が、嵐の中、コートも傘もささずに外に出かけているか」を発見するであろう。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。