2017/11/29 05:33 | 昨日の出来事から | コメント(0)
相続税を巡る議論
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
税金は何に越したことはない。 しかし、そうした考えは時に毒となる。 相続税は、特にイギリスとアメリカでは非常に不公平である。これに対する敵意が所得階層にも侵入してきている。ある調査によれば、相続税や不動産税に反対する人々は、実は、金持ちよりも貧しい階層の人の方が多いのである。
選挙に勝ちたい政治家は、その勝ち方を知っている。 アメリカの死亡成人に相続税がかかる金額は1960年代の頃に比べてその95%と殆ど変らない(寧ろ若干少ない)。 共和党の政治家は相続税の全廃を目指している。下院では、2025年までに相続税の全廃改正法案を可決した。第2次世界大戦前までは、イギリスでは、相続税の方が所得税よりも多かった。ところが、現在は、その割合は全体の5%にも満たない。それは、何もアングロ サクソンだけではない。 1960年代以降のOECD加盟国の相続税に対する国庫収入の割合は急速に減少している。 多くの国でも同様の傾向を取っている。 2004年には、平等主義のスエーデンですら相続税は撤廃すべきとの決定がなされた。
しかし、こうした相続税軽減もしくはゼロにする議論は、しばし考える必要がある。相続税をかける、あるいは撤廃する議論には各々の言い分がある。 その一つは、「政府は人々が遺産をどう処分するかに関与すべきではない」とするものであり、もう一つは「特定の相続人が永久的に相続できるシステムは社会に不健全にし、不公平である」というものである。 では、どちらを選ぶべきであろうか?
人によっては、懲罰的な相続税を主張する人がいる。こうした否定的な議論は、死んだ人は、もはや残された資産を自分の意思で自由に処理することが出来ない(何故ならば、死んだ人にはその権利がないため)。死んだ人が、一体全体、どうやって彼らは、何らかの方法で彼らに残った資産に対して影響を与えることが出来るのであろうか?(何もできないではない)。
しかし、こうした考えは本質をとらえていない。死んだ人の意思を最も寛大な方法で無効(相続)させる方法がある。相続は、極めて個人的なものであり、また、彼らが信じ、彼らが育み、そして愛してきた人たちに対する唯一の贈り物である。多くの人々は、子供達に何も残すことが出来ないことに対して罪の意識を感じるであろう。最後の意思として示されたものであれば、それがどんなものであれ、それは想像以上に重みをもつであろう。
相続税引き上げに前向きの議論としては、相続税は、社会の公正と平等を促進させるというものである。相続人は遺産を貰ったところで、それは殆ど手つかずのままある。自由主義のJohn Stuart MillからTheodore Roosebelt(ルーズベルト大統領)に至るまで、彼らは相続税を徴収する必要があると考えていた。ルーズベルトは「世代間で巨額の資産を移行(相続)させることは、社会に重大かつ深刻な不利益を与える」と主張し、この考えは、今日でも全くもって当てはまる事である。フランスでは、相続額のGDPに占める割合は、1950年代に比べて3倍に増加している。また、ヨーロッパの大金持ちの半分は、親からの相続であり、その数は増え続けている。
しかし、2017年になっても、相続問題がどのように相続エリート達に関わっていくかはっきりしていない。イギリスのデータによれば、子供が50歳前に親を失う可能性が減ってきている。裕福な国では、親は子供の結婚に何等かの資産を提供する仕組みがあり、その事が、エリート同士(金持ち同士)で結び付く傾向を助長している。彼らは、教育、社会的資本、過分な事柄等、あらゆる事に対して有利な立場であり続ける。
たとえ相続税の比率と不平等の関係が明確でなくとも、金持ちは何等かの税金を払うことは出来る。ルーズベルト大統領の時代以降、スエーデンを始め、他の高税率の国々では、政府が税率を引き上げれば引き上げるほど、金持ちはそれを避ける方法を見つけて来た。その結果、彼ら作りだした相続信託は親子3代上に亘って、税を逃れるものまで出てきた。
こうした議論もあれば、その極端に反対の考えが出てくる。 アメリカの税制改革の中で提出されているのが「相続税は完全に撤廃すべき」と言うものである。これは、単に親の資産を子供に相続すべきと言うだけでなく、既に税金を支払って得た労働の対価(資産)は、全て遺産贈与されるべきであると主張している。
更に、相続税の多くは機能していない。 何故ならば、家族企業や農場、更には先祖から受け継いできた家に対しては相続税がかからないからである(相続税の骨抜き)。
全ての税金には、国は関わっている。 もし、2重課税を避ける事はいい政策であると言うならば、政府は消費税を廃止しなければならない。何故ならば、消費税は所得税支払いの所得で買った品々に税金をかけるからである。 しかし、一方で相続税をかけるリスクとしては、相続人が、相続税を払うために自宅を売らなければならない、あるいは持っている会社を縮小しなければならなくなる事態は回避すべきである。
事実、通常の税金を支払っている人は、他の税金を支払っている人に比べて相続税に対してそれほど憎悪感はない。また、反対にどんなに相続税を嫌っていても、税で苦しんでいる人はほとんどいない。というのも所得税と違って、相続税によって仕事のインセンティブが壊れる事がないからである。ある調査によれば、150,000ドル以上の相続を受けた人は、25,000ドル以下しか相続できなかった人に比べて、4倍以上離職する傾向がある(よりいい仕事を求める)。キャピタル ゲイン税と違って、より税率の高い不動産税は貯蓄や投資をしない傾向がある。消費税と違って、相続税は前向きに捉えられるべきである。何故ならば、相続税を引き上げることによって、他の税金をカットする事が出来、税制そのものを効率化できからである。
透明な市場
正しい税のアプローチは税に対する極端な考えを持っている人々のバランスを取る事につながる。しかし世界各国で税率が異なる(それ故にバランスを取ることが出来ない)。そこで3つの基本的な原則が必要である。 一つ目は、金持ちに狙いを付けることである。 つまり不動産や様々な免責条項を設定する事なく相続人に課税する事である。2つ目は、単純にすることである。特定の人々に対して非課税、あるいは特定の人に生涯遺産分配を認めるなどの税逃れを作らないことである。また、ある程度、十分に資産がある遺産に対して相続税を適用する一方で、大量の相続税対象外を設定しないことである(適切な相続対象金額の設定)。3つ目は、高い相続税によって生まれた財政上の余裕資金で他の税金をカットし、多くの人々の負担を軽減する事である。
相続税が様々な反応や反論が起こると、こうした微妙な議論は非常に困難なものになる。極端な議論からは殆ど討論の余地がない(ただ主張し合うだけで意味がない)。公正で効率的な税の仕組において、相続税は排除するのではなく、相続税を含めることが必要である。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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