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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/10/13 05:06  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

全てがブル マーケット?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ウオール ストリートの賢人、ベンジャミン グラハムが、1949年に「賢明な投資家」というタイトルで最初に出版した本は、「margin of safety: 安全領域(策)」という3つの単語で、健全な投資の秘訣について述べ、それに曰く「株や債券の価格は人間に過ちや不幸をもたらし、実に多くの間違ったことが同時に起こる」とある。貿易摩擦や、核をめぐる「ほら吹き」を聞くにつけ、そうした忠告は実に耳を傾けるに値する。しかし、多くの資産、例えば株や債券、不動産からビッド コインに至るまで、今の処、そうした事に対して殆ど影響を受けている兆しを見せていない。

(というのも)殆どの資産は、まだ絶頂期に達していない。 今の処、世界の株式市場で大損をした人は殆どいない。これまでの8年間は、まるでクレジットや不動産市場は20世紀の再現であり、1990年代のドット コム バブルの様相である。これら2つのバブルだけでなく、アメリカのS&P500は過去の高値を更新し、株価は10年サイクル勘案後の収益の何倍もの高さである。クレジット リスクを取っている人は、殆どデフォルト リスクに対する保険(プレミアム)を要求してない。それは、ジャンク ボンドにおいてすら同様である(リスク プレミアムがほとんどない状態)。 また、世界中の不動産価格は、異常なまでに割高になっている。アメリカの住宅価格は金融危機以前の水準にまで回復し、賃貸利回りは、長期的な平均賃貸利回りを下回っている(割高になっている)。 イギリスの賃貸不動産市場に至っては猶更である。 カナダやオーストラリアでは不動産価格は成層圏まで上昇している(非常に高い)。これに加えて仮想通貨バブルが加わり、世界は、まるで全てがブル マーケットだらけとなっている。

資産価格の上昇は結構なことでるが、同時に不安を伴う。足元では2つの懸念材料がある。一つには、多くの市場は、異常な金融緩和を背景に価格が上昇していることである。中央銀行は2007~2008年の金融危機以来、短期金利をゼロ近辺まで引き下げ、それに伴って11兆ドル(約1200兆円)の長期国債を購入し、世界中の長期金利を押し下げた。しかし、今や、こうした政策をUnwind(解除)しようとしている。アメリカ連邦準備は今年に入って2度政策金利を引き上げたし、早晩、保有国債を売却し始める。 他の中央銀行も最終的にはこれに追随するであろう。もし、今日の資産価格が、中央銀行の金融緩和によって膨れ上がっているならば、その価格は大きな調整を迎えることになる。2つ目は、より高い利回りを求めているファンド マネージャーが、リスクに対して警戒感が希薄しているように思えることである。 考えてみて欲しい、例えば、投資家が、こぞって7%程度のイラク、ウクライナやエジプトのユーロ建て債券を買っている事を。

しかし、注意深く見てみると、現在の(高い)資産価格にも、それなりの根拠がある。 その一つに世界経済が改善傾向にあることがある。 世界経済の今年の第2四半期GDPは2010年以来、最も高い水準であり、発展途上国の景気回復がヨーロッパやアメリカの成長に弾みを付けている。 また、我々が今週号で述べているように、発展途上国の経済はこれまで以上に力強く成長している。

より重要なことに長期金利動向がある。長期金利は1980年代から低下し続け、今もって歴史的に低い水準にある。そのことが他の資産価格を下支えしている。一般に広がっている懸念としては、Fedや他の中銀が債券市場を歪め、買い入れ資産を長期化した事にある。 ベン グラハムの信奉者であるウオーレン バフェットは、今週、「もし金利が1%の上昇に留まるならば、現在の株価はこの3年の中で最も安く見える。 しかし、もし3%以上金利が上昇するならば、そうは見えない」と述べている。 もし、短期金利や債券利回りが不条理に低い水準であるならば、インフレが起こる。しかし、実際には、金融政策の領域を越えた他の要因が現在の長期金利を低い水準に留まらせている(長期金利が低い水準で推移している背景には、金融政策だけではなく、他にも要因がある)。 それは、最も重要なことでもあるが、高齢化に伴って多くの人々が、退職後の為に現在の所得から貯蓄により多く回していることである。つまり貯蓄を増やせば増やすほど、需要が低下するのである。低い賃金の伸びと製品価格の下落によって企業は(設備をせずに)キャッシュを積み上げる。これら全てが、金利を歴史的に低い水準に留まらせる要因となっている。

「強気に気を付けること」
投資に関するアンチ グラハムのモットーに対して最も危険な考えは、「今回は(これまでとは)違う」と考える事である。資産価格が(いつまでも)高い状態を維持すると考えるのは正気の沙汰ではない。中国の債務危機やアメリカが引き起こす貿易戦争、あるいは朝鮮半島の紛争といったような多くの偶発的な出来事が経済や金融市場をひっくり返す。また、次に景気後退期に入った時、 これまでの景気後退期以上に、政治家による財政出動や金融緩和政策には限界がある。故に、慎重な姿勢は、投資に対する警戒に直結する。

(こうした危機を回避する)一つの選択肢として、中央銀行が市場の予想を超えてもっと急激に金利を上げて市場を揺るがし、世界に市場がもっと価格変動に満ちている事を知らしめる方法がある。しかし、これは、当然のことながら危険を伴う。過度な金融引き締めは、経済をリセッションに陥れる。 また、中央銀行のインフレ目標を下回る水準で、金利を急激に上げると、彼らのインフレの目標水準との整合性が失われてしまう。

寧ろ、緩やかな政策金利の変更が必要である。 混乱を最小化する為に、量的緩和政策の巻き戻しは極力先送りすべきである。Fedは保有債券を引き下げる為に、非常にゆっくりとしたペースで、しかも市場に対して事前に周知しながらそのプロセスを経ている。時間が経てば、他の中銀もFedの政策運営に追随するであろう。 この中にあって、ECBは最も困難に直面する。 何故ならば、実質的に、ユーロ圏の債権の購入はストップし、他に購入できるユーロ圏内の代替物が不足しているからである。

安全領域(策)は銀行に取っても投資家にとっても存在する。 苦い経験によれば、債務を担保にした資産は、損失が増幅されやすく、金融危機を引き起こす。 こうした理由から、銀行は、現在のような高資産価格や低いデフォルトに対して辛抱強くなければならない。銀行、特にユーロ圏の銀行は、アメリカ財務省が行っているような非常に骨の折れるストレス テストをするだけに留まらず、銀行の非常に低い資本金を引き上げる必要がある。 しかし投資家は最終的には、将来的な低いリターンや高い価格が示す将来的な損失から逃れる事は出来ないかもしれない(資産を保有しているのは最終的には投資家だから)。故に、投資家や規制監督官庁は、「賢明な投資家」の言葉を引っ張り出し、自分たちが安全領域(策)を持ち合わせているかを確認すべきである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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