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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/10/06 05:16  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

次の金融危機は中央銀行の引き締めから


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ロンドンのバスの様に、金融危機を見逃すかどうかを心配する必要はない。何故ならば、次のバス(金融危機)はすぐにやってくるからである。ドイツ銀行が行った長期的な資産の収益動向を研究したところ、先進国の市場では、ここ数十年で金融危機が日常茶飯事のように何度も起きている。しかも何の予兆もなく起きている。

ドイツ銀行は、ある国のマーケットが、次のような状態で苦境に陥ることを危機と定義している。 それは、株価が15%以上下落する、あるいはその国の通貨もしくは国債が10%下落する時であり、更には、財政破綻をする、もしくは10%以上のインフレに見舞われた時である。19世紀には、単年でこうしたデータを伴ったショックで経済が苦しんだ国が半数以上あるが、それは殆ど稀にしか起きなかった。しかし1980年以降、半数以上の先進国で数年に亘ってこうした苦境に苦しみ、しかも頻繁に起きている。

その理由について、ドイツ銀行は、金融システムに原因があるとしている。かつての金本位制、それに続く制度であるブレトン=ウッズ体制では為替が固定されていた為、信用創造に限界があった。 一国がマネー サプライを急拡大すると、貿易赤字に苦しみ、それが為替レートに反映される(通貨安に苦しむ)。 従って政府は、金融引き締めによってこれを押さえ込もうとする。 その結果、インフレに直結するような金融バブルは抑制される。

しかし、1970年代以降、多くの国では為替変動相場制度を導入した。 これによって政府は金融危機に
対して柔軟に対応できるようになった。また、他の国の通貨ペグ(基軸通貨にリンクさせる制度)を維持する為にそれに追随する必要もなくなった。 そのことが、同時にトレード不均衡をより増幅させることにつながり、政治家がこれを抑制する機能を失い、また、逆に、貿易不均衡の調整機能として、為替が政治家に使われるようになった(為替が、本来の経済調整機能から政治の道具になってしまった)。

同様に、1970年代中旬以降、政府の債務はGDPの拡大に合わせるように拡大し続けている。そこには、財政赤字と予算をバランスさせるための市場からの圧力は殆どなかった。日本は1966年以降、毎年財政赤字を拡大させている。 フランスは1993年以降同様である。イタリアに至っては、1950年代以降、財政黒字になった年はたった1年だけである。また、民間の個人や企業もまた債務を増加させ続けている。

結果として、信用の拡大とその崩壊を繰り返してきた。国の債務(国債)は、資産を購入する手段として使われてきた。国債はそれを買って担保にして、更に資金調達する(借り入れる)ことが出来るので、その利便性の高さから国債の価値が上昇した(価格が上昇し、利回りは低下した)。 しかし、時として、貸し手が借り手に対する信用を失った時、あるいは支払能力に信用を失った時、貸し手は貸し出しを止める。この時、借り手は資金調達手段を失い、資産を投げ売りする事でこれを解消する(資産価格の暴落)。

中央銀行は、資産をマーケットから直接購入して金利を引き下げて、これに対応する(特に2008年以降)。これによって一時的に危機を止めることが出来るが、危機の度に危機を食い止めるための購入資産額や国が発行する国債が更に増加していく。

これら全ては、一つの金融危機が次の金融危機の引き金となって増幅している事を示している。ドイツ銀行は、ここから導かれる幾つかの可能性について、中国の債務に関連した危機や、人気取りの政治集団の台頭から債券市場の流動性低下に至るまで言及している。

中でも、急落が最も起こり得るきっかけは、中央銀行が金融緩和をやめる時である。とりわけ、2009年以降、世界経済とマーケットを守るために金融当局が行ってきた信用創造をやめる時である。アメリカでは、FRBが政策金利を引き上げ、市場からの国債の買取り額を減額している。ECBは来年から市場からの国債買取りの減額を実施しそうである。イングランド中銀は10数年ぶりに初めて政策金利を引き上げるかもしれない。

勿論、中央銀行はこうしたリスクをよく知っている。故に、先進国の経済がここ数年拡大しても政策金利を低い水準に留めているのである。しかし、金融緩和の撤退はリスクを伴う。1994年には、Fedがそれまでの貯蓄銀行危機問題で低金利を維持していた政策金利を引き上げた時、アメリカ国債が暴落した。

高い水準にまで積み上がった中央銀行買取り資産を通常の水準に戻すことは危機を伴うとドイツ銀行は言い切る。 もし、そうなれば、中央銀行は政策変更を余儀なくされ、再び金融緩和をせざるを得なくなる。しかし、それには時間がかかる。何故ならば、中央銀行が市場に対してあまりにも従属的であると見られたくないからである(中央銀行が最も嫌がる事の1つ)。

多くの投資家は、過去にもうまく乗り切ったように、こうした値ブレを乗り切りたいと望むであろう。しかし問題は、資産を買ってそれを担保に資金調達して投資家そのものにある。いまや、アメリカのこうした投資家の借入残高は、世界金融危機が起きた2008年の水準を既に越えている。 最も大きな問題は、「資産危機が起きた時、最も脆い資産はどれか?」といった問題である。2008年の時は、モーゲージ バック アセットが最も売られた。しかし、今回は、それとは何か違ったアセット(資産)になりそうである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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