2017/08/22 05:30 | 昨日の出来事から | コメント(3)
投資家は、政治的な分析で良かった例(ため)しがない
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。 折しも、先週末に、私が、グッチーポスト講演会でお話した事に関連しています。
金融市場では英知が集結し、情報はいかようにも得られ、それらは価格に反映されていると考えられている。 また、投資家は将来を見通す能力があり、例えば、経済が失速すれば、債券利回りは低下すると予測する。
しかし、投資家は政治に対しても同様に賢明であろうか? しばしば、政治的なリスクが大きなギャンブルとなる。 昨年、投資家はイギリスのユーロ離脱の是非をめぐる国民投票では残留を期待した。また、アメリカの大統領選挙では、ヒラリー クリントン氏が大統領になることを期待した。しかし、これらは全て間違った。イギリスの離脱に関しては、ユーロ離脱派が勝利し、富裕層を代表する残留派は敗れた。 この裕福な残留支持派は、恐らく金融関係の仕事をしている人が多かったに違いない。その結果、多くの投資家は、マーケットの急落を受けて、その対応に駆けずり回らなければならなかった。
(アメリカの)大統領選挙前、ウオール街では、トランプ大統領誕生はマーケットに取って悪いニュースと捉えられていた。しかし、選挙結果が出たとたん、市場のトーンは変わり、ドルは買われ、アメリカ株は大きく上昇した。 アメリカ株に関しては、その後、何度も史上最高値を更新し、トランプ氏は、この株高はトランプ大統領のおかげであると自慢している。しかし、実際はそうではない。もし、トランプ氏のおかげで急上昇するならば、トランプ政権は、景気刺激策をいち早く議会を通過させたであろう。 更には、減税をインフレ投資も実行したであろう。その結果、アメリカ景気は拡大し(株価が上昇し)、これを受けてFRBは政策金利を引き上げ、ドル高になったであろう。
しかし、実際は、景気刺激策は手つかずで議会を通過する目途もたっていない。アメリカの第1四半期のGDPは+0.3%で、第2四半期は+0.6%であった。勿論、数字そのものは悪くない。しかし、この数字はユーロの経済成長率を変わらないのである(トランプ効果ではない)。 更に、6月にIMFは、2017年のアメリカの成長率を2.1%に下方修正し、2018年も同じ水準(2.1%)に据え置いた。
おかげでドルは他通貨対比で売られ、今や、トランプ政権誕生前の水準にまでドルは下落している。これは、単にアメリカが悪いのではなく、ユーロが、以前にもまして経済成長し、更に、政治的には、フランス大統領選挙でマクロン氏が当選した事で政治的リスクが低下したからである。
この為替市場の価格変動は、株式価格を複雑なものしている。ユーロ株は、ウオール ストリートでは、アメリカ株以上にアウト パファームしている(株高とユーロ高の為)。逆の見方をすれば、ユーロ圏から見れば、アメリカ株は下落しているのである(ドル安がアメリカの株高を相殺)。
しかし、アメリカの投資家から見れば、そんなこと(米ドル安)など気にしておらず、アメリカ株の上昇を謳歌している。しかし、アメリカ株の中には、通貨安で弱くなっている株もある。それ等の企業は多国籍企業であり、これらの企業収益はドルベースで低下している。その一方で、アメリカ株の中で、最もパフォーマンスのいいのはIT関連企業であり、単に国内だけに留まらず、グローバルに展開している企業群である。その一方で、10年国債の利回りは今年の初めの水準より低下しており、このことはこれまでの加速していたアメリカの経済成長が、将来、失速する事を示唆している。足元的には株はまだ上昇するかもしれない。しかし、投資家は、そうした株価上昇の要因をもはや期待することが出来ない(見当たらない)。
更には、今年、初めには投資家はトランプ政権に対して馬鹿正直に期待過ぎたきらいがある。大統領候補として、トランプ氏は、具体的な経済プランを持ち合わせていなかった。更には、他の候補者が持っていたような候補者を支援する強いアドバイザーも持ち合わせていなかった。彼は、減税を約束すると同時に、保護主義を引っ張り出し、メキシコや中国を始め、他の国々を脅した。もし、彼が、これを強く推し進めれば(まだ、その可能性が残っているが)、株式市場は急落するであろう。
このように、政治に関しては、投資家はいまだに希望的観測に固執している。イギリスのユーロ離脱は、ロンドンに拠点を置く金融機関に対してビジネス リスクをもたらし、アメリカでも同様の事が起きるかもしれない。共和党は、より良いアメリカの為に減税と金融規制緩和を約束している。しかし、これらはウオール街の住人にとってはいい話であり、また、こうした夢が実現すると期待しても驚かない。
しかし、投資家が、誰もが知らない政治の事も知っていると考えるのは間違いである。選挙前、投資家は、ただ世論調査の結果を頼ったに過ぎない。また、企業のバランスシートを分析するのは、選挙で選ばれた人の政治的宣言を理解するより、ずっと容易いことである。逆に、リーダーがトランプ氏のように予測不可能な場合、(政治的な分析は)非常に困難である。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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3 comments on “投資家は、政治的な分析で良かった例(ため)しがない”
前橋 にコメントする コメントをキャンセル
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の数字はどこが出展でしょうか?
前橋さんのお説はもっともだと思います。
投資家が政治のことなんかわかるわけないです。
要するに政治要件というのは
基本路線を外さなければいいだけの話であって
情報過多は判断を誤ると思います
トランプが過去に何をやったのか
そして
彼が70であることを勘案すれば
昔と方向性が違うことは
まずやらない、と思っておけばいい
とは考えています。
起業家時代のトランプと今、
何も違わないのに
揣摩臆測でヤイノ、ヤイノというのは
アホらしいとは思います。
過去の行動と今、比較すれば
かれほどわかりやすい人はいないとは思いますけど
それに反する事実は捨てるだけ
そう考えると一本筋は通っていると思います。
でも、しょせん、投資家は政治は素人
と考えれば、どうでもよくなる話です。
いつもお世話になります。
今回の記事は英誌エコノミスト(8/12-8/18)からの抄訳であり、それによれば、IMFが6月に発表した世界経済に関するレポートからの数字と思われます。
よろしくお願いします。
前橋
これのことですね
http://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2017/07/07/world-economic-outlook-update-july-2017
この数字を採用する記者はあまり、gdpのことがわかっていないのですね、と個人的には思います。