2017/08/17 05:54 | 昨日の出来事から | コメント(0)
米国IT株、2000年のITバブルに迫る
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
S&P500によるIT株指数が天井を付けたのは、ビル クリントンが大統領に就任し、トニー ブレアがイギリス首相に就任し、ウラジミール プーチンがロシアの大統領になった時であった(2000年)。そして今、再びこの水準までIT株は買われている。
1996年を100とした時、2000年のピーク時には550ポイントまで急騰した。 しかしその後2003年にかけて1996年の水準にまで暴落した。確かに、dot.comバブル(当時はそのように言われた)は、2007~2008年にかけての金融危機程深刻ではなかったが、投資家の中には、かなりの痛みを被った。そして、今、歴史は再び繰り返すのであろうか?
この間(2000年から2017年にかけて)、世界もIT産業も大きく変わった。1990年代後半のITに対する熱狂は相当なもので、企業収益など、そっちのけの状態でIT株は上昇した。当時のマイクロ ソフトやオラクルの株価は、企業収益の20倍の価値まで株価は上昇し、まさしく収益そっちのけであった。 しかし、現在は、Facebookの株価を除いては、IT株の株価は当時よりずっと低い水準で取引されている。
1990年代後半に何がIT株を押し上げたかと言えば、インターネットの普及に全ての人が飛びついた。会社も個人もコンピューターを買い、インターネットに接続した。そのことがIT企業の業績を押し上げた。しかし、その一方で、そこには大きな弱点もあった。大学を卒業したばかりの学生が、こぞってdot.comの世界に参入した。その結果、供給過剰になり、投資家は、長きにわたりIT株の損失を抱えることになった。
以来、投資家は、Googleのように独自のセクターで支配的な影響力をもつ企業の「network effect:ネット ワーク効果」に熱狂するようになった。 従って、足元の株価上昇は数少ない企業の株価上昇によって持たされている。 これらの企業は、時としてFAANGs(Facebook, Amazon, Apple, Netflix, そしてGoogle)と呼ばれ、これらの企業の株価はS&P500の約40%のウエイトを占めるまでになっている。そして、これらは、今年に入って最もパフォーマンスがいい。
ファンド マネージメント会社Eaton VanceのEddie Perkin氏は「今年の初め、投資家は、「トランプ トレード」と言って、新大統領の政策に沿った企業が収益を上げるであろうとの期待から、高い税金を払っている企業、あるいはインフラ関連企業の株式取得に熱狂した。 しかし、新政権が発足後は、こうした期待は萎み、代わりにIT株が急騰した。 結局の処、トランプ大統領の見通しにも拘わらず、こうしたIT企業の業績の方が、より大きかったのである」と述べている。 ちなみにS&P500のIT関連企業の第2四半期の収益は、年率10%台と好調である。
投資家は、自らの収益を拡大する為には、IT企業を無視することは出来ない。 Bank of America Merrill Lynchの定期的なリサーチによると、2009年以来、80%の世界のファンド マネージャーはIT企業を好んで取得してきた。しかし、最近の調査では、こうした熱狂は過ぎ去ろうとしている。 ファンド マネージャーの38%が、「IT企業に投資するのは、もう満杯状態」と答え、全体の9%のマネージャーは前月よりもポジションを落とした」と回答している。
今や、IT業界が直面しているリスクは、2000年の頃とは違ってきている。当時の多くのIT企業は、収益をえるまでの初期投資の負担が大きかった。 しかし、現在のこの業界はキャッシュ リッチである(手元に豊富な資金がある)。 例えば、アップルの最も成長が著しかった時期は既に過ぎ去った。また、2000年当時は、IT企業は尊敬の眼差しで見られたが、最近は、これらの企業に対して疑いの目が向けられている。
ドナルド トランプは反アマゾンをツイッターでつぶやき、EUはアメリカのIT企業に対して罰金を科している。今後、規制の動きが、こうしたIT企業の長期的な成長を妨げるかもしれない。
このように、歴史は、全く同じ形では繰り返さない。また、21世紀の変わり目であった当時のような株式市場の陶酔感はない。あるいは、当時のように、儲ける為に日中売買だけをしている人は少ない。 更には、犬の餌を売るフランチャイズのようなdot.comを立ち上げる(馬鹿げた)人もほとんどいない。
しかし、今のIT関連株価の上昇には、間違った方向(株価下落)に向かう多くの要素がある。 株式市場の巡回サイクル勘案後の現在のPER(price-earning ratio)は30倍であり、この水準を越えたのは1929年の世界恐慌の時と1990年代の時だけである。 もし、FRBが、余りにも積極的に金融を引き締め、あるいは、アメリカ経済が景気後退に陥った時、IT企業に投資している投資家は、前回(2000年のITバブル崩壊)を同じ思いを再びするであろう(この点では、歴史は繰り返す)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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