プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/08/15 06:09  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

国と企業のバランス シートを比較するのは意味がない?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

経済学者を冷笑させる最も簡単な方法は、国の財政と家計の財政を比較させるときである。この両者は似て非なるものであるにもかかわらず。政治家は、よく「国家はその手段(調達能力)にあった運営をしなければならない」と主張する。

しかし、National bureau of Economic ResearchのPatrik Bolton とHaizou Huangによってなされた報告では、政府の資金調達と企業の資金調達では異なる比較を行っている。 一般企業の資金調達は、以下の3つの方法がある。 1つは内部資金(利益)を通じて行うものであり、2つ目は借り入れを通じて行うものであり、3つ目は株式を発行して資金を調達する方法である。 最初の2つは国家の資金調達にも同様に当てまめることが出来る。つまり、1つ目の収入から調達するとは税収を引き上げる事であり、2つ目の借り入れは国債を発行する事である。

しかし、この報告の最も物議をかもす考えは、国が(企業の)株式を発行する事とは法定不換紙幣(fiat money)と同等であるとしている点である。政府は借り入れや税金決済する為に使われる紙幣を発行することが出来る。この「fiat」と言う言葉は「強制的に決済させる」というラテン語から来ている。企業株式の保有者は、企業の資産や収益に対して意見を主張することが出来る。しかし、その国の通貨の保有者(国民)は、国によって提供された財やサービスに対して(株主のように)意見を主張する事が出来ない。

インフレーションは、この両者のもう一つの類似性として説明される。もし、企業が、新規の投資家に対して実際の価値を伴わない新株を発行すれば、既存に発行された株式の価値は薄められてしまう。同様に、国家においても、実際の購買力を伴わない国債を発行すれば、既存の国債の保有者の価値は薄められてしまう(国債でいえば、金利が上昇し、価格が下落する)」と著者は述べている。

また、著者は、企業ファイナンスの考えでは良く知られている、Franco ModiglianiとMerton Millerが提唱した「Modigliani-Miller定理」を引用している。 即ち、税や企業破綻のような複雑な概念を取り除けば、企業の価値は、資金がどのように調達されたかについてはその影響を受けない。

このことから言えることは、企業の事業価値は、その株価と債券によってあらわされる。債券保有者はその事業のキャッシュ フローをまず要求する(利払いと元本の返済を要求する)。 もし、企業が突然、大量の債券を発行すれば、その企業の株のリスクは高まり、株価は下がる。しかし、事業価値そのものは変わらないのである。

これら幾つかの思い付きのような考えによって、著者は国の財政においても同様の議論を展開している。もし、国が、この国の生産性を改善する為に投資をしたとする。 その際、これらの投資に対する資金調達としては、外貨でお金を借りるか、fiat money(法定不換紙幣)を発行するか選択できる。もし、経済的な軋轢がないならば、国は、この2つのどちらも選ぶことが出来る。何故ならば、「Modigliani-Miller定理」を当てはめることが出来るからである。

勿論、実際問題として、経済的な軋轢は存在する。その一つとして、インフレの副作用である。しかし、これは理想的な経済においては問題ではないかもしれない。例えば、株式について考えてみる。今、ある企業が1000万株の株を500ドルで取引されていたとする。そこへ新たに1000万株の株式を発行すると、その株価は250ドルに下落する。しかし、企業の株式全体の価値は変わらない。つまり、だれも損をしないのである(勿論、既存の株を持っていた人の株価は半分に下落する)。

同様に、もし政府が新しく発行した法定不換紙幣を国民に“平等”に分配すると、同じ考えを当てはめることが出来る。しかし、実際には、政府が法定不換紙幣を発行する一方で、その得た資金で新しく金融資産(国債)を買うか、財やサービスを買う。即ち、政府が得た資金は“平等”には分配されないのである。つまり、富が誰かから、他の人に移るだけなのである。これこそが法定不換紙幣発行のコストなのである。

また、実際の処、借り入れはリスクを伴う。国家が、余りにも高い割合で外国から借り入れを行うと、デフォルトになるリスクを伴う。その結果、経済危機が起こり、より高い金利を支払うことになる。あるいはクレジット マーケットへのアクセスを失ってその国の経済にダメージを与える。だから、政府が投資に対して資金調達する際には、インフレによって引き起こされる再分配リスクをとるか、あるいは外国債務によって引き起こされるデフォルト リスクを取るかのどちらかを選ぶことになる。

今回の議論は、2008年に起こった金融危機以降の中央銀行による量的緩和を議論する上で興味あるものである。 今回の一連の量的緩和では、多くの人々が懸念していたインフレが起きていない。そのことから、経済学者の中には、「中央銀行がより積極的に法定不換紙幣を発行する事に対して、先進国の政府支出を抑制させる要因はほとんどない(もっと多く資金を調達することが出来る)」と主張している学者もいる。 しかし何を持ってそれを確信できるであろうか。各国は、彼らの債務を保有してくれる人、あるいは、その通貨を保有してくれる人を躍起になって探している。既にいくつかの国において、これ以上は(国の債務を)受け入れてもらえない国が出てきている。経済学者であれ、そうでない人であれ、もうこれ以上(国の債務を)受け入れられないという事態がいつ起きるかを予想する事は非常に厄介な仕事である。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。