2010/04/27 05:29 | 昨日の出来事から | コメント(3)
ギリシャ問題の今後 〜 デフォルトも一つの選択肢に〜
本稿は、ウィークリー ミーティング426に記載予定でしたが遅れてしまい、今日付けの「昨日の出来事」として掲載させて頂きます。
先週号の英経済雑誌エコノミストに今後のギリシャ問題についての記事かありましたので、ご紹介します。
読者の皆様も御存の通り、EUとIMFはギリシャからの支援要請を受けて、30bnユーロ(日本円で約3.5兆円)の支援を決定しました(期間3年利率5%)。 支援に際して金利が非常に高いのは、ドイツが「現在のギリシャの実勢調達金利に貸出金利を設定すること」を強く主張した為です。 と言いますのも、ただでさえドイツ国内でギリシャ支援に反対する声が大きい中で、更に金利面で優遇することに国民の理解が得られない事情が背景にあったようです。
さて、目先的には、資金不足を解消することが出来ましたが、今後安定的に再建するためには、当初は75bnユーロ近い金額が必要と見込まれていましたが、ギリシャが今回の財政再建計画通りに計画を実行することが出来れば、当初見込み金額の75bnユーロから67bnユーロに減らすことが出来るのではないかとの見方が出ています(歳出の削減と、当初想定された6%の金利負担が5%に下がった為)。 しかし、よしんば今回の計画が予想通りに実行されたとしても、債務の水準は2014年に150%を若干下回る程度と、引き続き厳しい財政状態であることには変わりはありません。
また、今回のギリシャ問題が、ヨーロッパにとって大きな問題になっている理由の一つに、ギリシャの国債発行残高の内、70%はギリシャ以外の国、特にユーロ圏内から調達されていることが挙げられます。 例えば、フランスは、ギリシャの海外投資家保有残高の約25%(金額にして約27bnユーロから52bnユーロ)を保有していると言われています(具体的な統計がない為、雑誌エコノミストが推計)。 同様に、ドイツは14%程度(同15bnから30bnユーロ)、 フランス、ドイツを除くユーロ圏で19%程度(同20bnから39bnユーロ)となり、EU参加国全体でその58%を占め、金額にして62bnから121bn(日本円で7.5兆円から15兆円)ユーロと巨大な金額になっています。 更に、ユーロ圏以外のヨーロッパの国であるスイスで21%近く保有し(金額にして22bnから44bnユーロ)、イギリスでも4%(総4bnから8bnユーロ)となり、ヨーロッパ全体で80%を占めています。 つまり、ギリシャの借金構造は、全体の7割を外国からの調達に頼り、更にその8割をヨーロッパ圏内から調達していることになります(ここが日本と大きく違っているところで、御存じのように日本の海外投資家からの調達は僅か6%程度で、残りの約94%は国内で賄われています)。
更に、この問題を悪化せるような話題が起こります。国際的な格付け機関の一つであるフィッチが、ギリシャの格付けをBBB−に格下げると発表しました。 このBBB−はこれまでの格下げと事情が大きく異なってきます。何故ならば、あと一段階格付けを下げられますと、所謂、ジャンクボンド(ジャンク債)となり、投資適格債券から外れてしまうからです。 保有者の多くは銀行や、保険、あるいは政府機関等の公的機関であって、もしギリシャの格付けが更に下げられてしまいますと、彼らはもはや保有することが出来なくなり、強制的に売却を迫られることになります。
また、銀行は、基本的にはギリシャの国債を担保に出して資金を調達していますが、これ以上格下げされてしまいますと担保としての価値を相手から見てもらえない(もしくは額面通りに借りられない)事態になります。 更に、ECB(ヨーロッパ中央銀行)からお金を借りる際にも担保は投資適格債券に限られる為、ギリシャの国債がジャンク債なってしまいますと、中央銀行からも資金調達が出来なくなり、価値のない債券を非常に高いコストで調達することになり、それでは採算が合わず、一気に市場での売却圧力が増すことになります。
このように、ギリシャ問題は目先的に解決したのではなく、実は「終わりの始まり」がその緒についたと考える方が正しい認識のようです。
加えて、今回のギリシャ問題は、ギリシャ一国の問題に留まらず、今、大きく問題になっているイベリア半島の国ポルトガルとスペインまでも含めてこの問題を捉えると、この3国全体の国債発行残高は1.2兆bnユーロ(日本円で約145兆円)となり、その発行残高の内、ドイツが226bnユーロ、フランスが210bnユーロ、イギリスが107bnユーロ保有し、ユーロ圏全体で925bnユーロを占め、全体の78%をヨーロッパで保有していることになります。
一国の財政危機問題は、実は一国の問題に終わらず、ヨーロッパの銀行全体の問題に発展しかねず、そうなった場合(デフォルト)には、リーマンショックどころのインパクトではない大きな影響を与えることになります。 故に、目先的には、ギリシャがデフォルトにならないように資金をつけ(具体的には貸し付け)、その一方で、来るべき時(デフォルト)に備えて、各銀行は、一斉に保有債券の売却、あるいは貸倒引き当てに奔走しているのが現状です。
こうしたことを見越して、市場では、今回の目先的な付け焼刃的な対処方法の次の段階(デフォルト)を視野に入れた議論が出始めています。
過去の経験によれば、デフォルトは常に煩雑で非常に苦痛を伴うものであり、また、一度デフォルトを起こしますと、資本市場から多大なペナルティを課せられ、次に資本市場から調達できるようになるまで(市場からの信用を回復するまで)、相当の時間と労力が必要となります。
しかし、過去においていくつかの例外もあります。
まずは、あの有名なアルゼンチンのデフォルトが挙げられます。これは通常のデフォルトに比べて時間的に非常に早く解決し、政府と投資家が一緒になって債券放棄の比率を協議された例です。
また、2003年のウルグアイのデフォルトのように、既存の債券のクーポンはそのままにして償還日だけを5年先送りし、新しい債券と交換して財政再建した例があります。
しかし今回のギリシャ問題は非常に厄介な問題を抱えています。 それは、CDS(クレジット デフォルト スワップ)の扱いです。例えば、完全にデフォルトにしてしまえば、そのまま額面通りのCDSですが、部分的あるいは条件付きのデフォルトの場合、それをどうCDSに反映させるかという厄介な問題が出てきます(この問題はリーマンショック以降、様々なCDSのデフォルトの判断基準をめぐってあちこちの法廷で争われる事態となり、おかげでCDS市場はその存在意味を問われてマーケットは枯渇し、死んでしまいました)。
最後に英経済雑誌エコノミストは「ギリシャがデフォルトした場合、ギリシャはユーロから去らなければならないか?」との命題に対して、「その必要はない」としています。 何故ならば、「こうしたデフォルト問題は、今後、ユーロでしばしば起こりうるもの」だからであるとしています。 また、デフォルトの度にユーロの切り下げや、新しい通貨に交換する必要もないとしています(何故ならば、もし、やればそれこそ悪夢のような混乱事態となりからです)。 そして、「一度デフォルトした国は、その後の資金調達には市場の信頼を得られず、国内の財政再建に非常に困難と苦痛を伴い、こうしたユーロのメンバーのデフォルトは、今後のユーロの『通貨としての現在のステータス』に対してボディーブローのように効いてくるであろう。 しかし、そのことがユーロ通貨の終わりを意味するのではない(ユーロはそれでも存在し続ける)。」としています。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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3 comments on “ギリシャ問題の今後 〜 デフォルトも一つの選択肢に〜”
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イギリス流・・皮肉・・シニカルな・・・
さすが、ベルドン様、 そうなんです。このイギリス流のシニカルなオチは、渋くて痺れるというか、笑ってしまうというか、、、。
私もこれを目指しているのですが、遠く及びません。
英語で書かないと・・恐らく・・・