2017/04/21 05:05 | 昨日の出来事から | コメント(3)
金は、なぜ値上がりしないのか?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
アメリカがシリアを攻撃し、アメリカとロシアの関係は悪化した。北朝鮮が核弾道ミサイルを開発し、トランプ大統領は、もし必要とあらば、単独でこれを阻止すると誓っている。そのアメリカでは世界経済を押し上げる減税などの景気押し上げ政策が取り沙汰されている。
これら全ては、金や貴金属にとって、政治的不確定要因やインフレ期待が高まれば、いい話(買われる話)である。しかし、11月にトランプ大統領誕生後、金は売られており、去年の7月の高値をかなり下回ったままである。金は、インフレの番犬のように吠える(上昇する)ことに失敗している。
金塊は2001年から2011年にかけて上昇マーケットを満喫し、その間に1オンス1,898ドルまで上昇した。 この上昇には2つ事柄と密接な関係がある。 一つ目は、中央銀行が量的緩和をし、その結果、高いインフレが発生する事は避けられないと考えられた事、2つ目は、ユーロ危機によってユーロの単一通貨が維持出来なくなる懸念とヨーロッパの銀行の安全性に懸念が増大した事にある。 しかし2013年までには、量的緩和にもかかわらずインフレ懸念は払しょくされ、ヨーロッパの銀行の安全性に関する懸念も後退した。その結果、金は急落し、その後は狭いレンジで取引されている。
去年、トムソン ロイターが行った調査によれば、一連の金の下落の38%は、インドで物品税が導入されたことによって貴金属加工が減少したこと、また、下落の17%は、中国の中央銀行による金の購入額が7年振りに低い金の購入に留まったことが要因であると分析している。
更に、2000年以降、金市場で大きく変わった事と言えば、金のETF(exchange trade funds)が増大し、一般の投資家でも、金を保管する心配もなければ、あるいは金が盗まれる心配もなく保有する事が出来るようになった。シティ バンクによれば、ピーク時には金のETFの残高は2,500トンまで上昇し、金額にして1兆ドルまでになった。
金のETFは、投資家が伝統的なトレンド フォローの売買手法によって買われた(上がるから買う)。2013年に、ひとたびトレンドが変わると投資家は慌てて金のETFを売却し、ETFによる金の保有残高は1,800トンまで減少した。
金の本質的な問題は、金の価値を測る手段がないことである。つまり貴金属は何も生まない(金利や配当などのリターンがない)。確かに、金は目先的にはインフレヘッジにはなるが、中期的(1980~2001年)にはこうした機能を十分に果していないことがわかる。というのもこの間に金価格は80%も下落したからである。
一般的に、これまで金はドルの代替物とみなされてきた為に、ドル高の時には金塊は売られた。また、金は弱い通貨に対してはパフォーマンスが良かった。例えば、Brexitの際には、金塊はスターリング ポンド対比で10%上昇した。また、別の要因として、金は実質金利の側面もあった。実質金利が高い時には金の保有コストも高かった。逆に、非常に低金利の時には、金を保有していても損失は殆どなかった。
こうした2つの要因が、どうして「トランプ のトレード(減税や大型インフラ投資)」が金にとって良くないかを説明している。 大統領選挙の直後、投資家は減税を期待し、その事がアメリカ経済を回復させると期待し、その結果、FRBは政策金利を引き上げると予想した。また、それによってドル高になると予想した。 こうした考えはいずれも金にとってネガティブのものであった。
更に、トランプ トレードは、その後もうまくいっていない。大統領は、議会によって税制改革の観点から問題点があると反対されて、オバマ ケアの廃案に失敗した。 金は今年に入って若干上昇したが、4月11日の時点で僅かに1.6%の上昇に留まっている。 インフレに関しては少し上昇しているが、1970年代のように金が急騰した頃のような2ケタ台のインフレには遠く及ばない。
従って、地政学的な問題が起こっても、金属はいいパフォーマンスをしなかったし、今後もしないかもしれない。恐らく、トランプ氏は、(これまで対立姿勢を鮮明にしていた)中国との政治姿勢を選挙前の段階に戻すかもしれない。シリア攻撃も今回限りかもしれない。また、北朝鮮への声明も十分な効果とアメリカの怒りを示しており、もうこれ以上何もないかもしれない。Rex Tillerson(ティラーソン)氏やJames Mattis(マティス)氏らのアドバイスに従って市場の予想に反して、これまでの大統領が行ってきた伝統的な外交政策に変わっていくかもしれない。
故に、金塊を買う事は投機的に事態が悪化する事に賭けるようなものである。つまり、中東や北朝鮮で事態が更にエスカレートして悪くなり、あるいは中央銀行が金融政策のコントロールを失う事に賭けるようなものである。 勿論、それも有り得る。しかし、金の現状(安い価格で低迷している現状)は、人生に対してそう悲観的でなく、寧ろ、みんな仲良くやろうとしている事を示している(悪いことは起こらない事を示している)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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3 comments on “金は、なぜ値上がりしないのか?!”
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これ昨日載ってたのと一緒ですかな??
いつもお世話になります。
日によっては、前日の記事をそのまま継続して掲載させていただくことがあります。
よろしくお願いします。
前橋
そうでしたか。
初心者なもので大変失礼致しました。
いつも勉強させて頂いております。