2016/09/27 05:13 | 昨日の出来事から | コメント(0)
低金利の世界
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
過去10年以上に亘り、世界の中央銀行は金融危機を回避すべく政策金利を引き下げ続けてきた。 特に2008年のリーマン ショック以降、先進国の中央銀行はゼロ金利にまで政策金利を引き下げ、今やマイナス金利政策に至っている。
今、こうした中央銀行の金融緩和政策に対し、預金に対して手数料がとられ、あるいは生保や銀行が利ザヤを確保できないことに対して批判の声が上がっているが、こうした批判は間違いである(例えば、ドナルド トランプ大統領候補がFRBの政策を批判し、ドイツの財務大臣がECBの金融施策を批判している)。 というのも中央銀行がこうした金融政策を取っているのは、彼らがそのようにしたのではなく、経済のファンダメンタルズの結果としてこうなっているからである。 つまり、現在の世界的な低金利は全世界的に高齢化社会を迎えていることと、1990年代前半から中国を西側世界に取り込んだことによるデフレ圧力がかかっていることが背景にあるからであり、加えて、その中国が投資をせずに多額の貯蓄を抱えているからである。
こうしたおかげで、世界各国のインフレ率は、それぞれの中央銀行が目標としたインフレ率を大きく下回ったままであり、日銀に至っては、直近の政策決定で目標の2%を越えても緩和政策を継続する姿勢を示した。 また、Fedは未だに政策金利を引き上げることを躊躇っているのである(それほどデフレ圧力がかかっている)。
今や、この低金利の世界を安心して暮らすためには、もう中央銀行だけに頼るのは限界にきている。成長を促すための構造改革を行う必要があるが、これは政治的に遅々として進まない。デフレに立ち向かう為には、今後は中央銀行から政府にシフトさせる財政出動を行わざるを得ない。 こうした状況は、実は1960年代から1970年代の状況は似ており、当時は政府が責任をもって需要喚起(多額の公共事業投資)をした。しかし、問題は、政治家が減税をし、支出を増大した為に、もう需要を喚起する必要がなくなってもこれを抑制することが出来なかった。
今回も、次世代の為のインフラ投資(高速道路や、鉄道や空港などの整備)をすべきであるが、これらを作ることは決して安くない。また、政治家が全てを官僚に任せてしまうと無駄が多くなり、歯止めが効かなくなる(The risk of White elephant project)。 これらの回避するためには、民間のパートナーを参加させるべきである。 具体的には、政府のプロジェクトに生保や年金などの長期投資を必要とする民間企業に参加させ、プロジェクトに監視機能を持たせ、その見返りに長期に亘る安定的な配当を約束する(小さな政府の下、大きな公共投資)。 また、これを監視する機関、例えば、イギリスのBritain’s Office for Budget Responsibilitiesのような機関も必要である。
とはいえ、こうしたインフラ投資で全てがうまくいくかと言えばそうでない。目先的な景気の循環や失業対策、あるいは突発的な金融危機に対して、こうしたインフラ投資は対応不能であるからである。結局の処、こうした危機に対しては減税や給付金などの支給も必要となる。
そして、次の世界的な経済危機がやってきた時には、(もう中央銀行の出番はなく)政府の財政出動が絶対に必要となる。民間の資金を取り込み、政府の支出を出来るだけ抑えた公共投資が、次にやってくる景気後退に立ち向かう有効な武器になる。 今や、政府が中央銀行に対して低金利の責任を咎めるのではなく、寧ろ、政府が彼らを助ける時である。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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