2016/06/28 06:13 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ヘリコプター マネーは言葉ほど過激ではない?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
(抄訳)
ヘリコプター マネー(政府の支出の不足分や減税によって足りなくなった支出を紙幣の発行によって資金を調達する事)は、既存の金融政策を革命的に破壊するであろうか? これを主張する人々は、世界経済を押し上げるためには必要な戦略であると主張している。 その一方で、これに反対する人は、それ(ヘリコプター マネー)は財政規律の放棄であり、ハイパー インフレーションへの途を辿ると反論している。
Columbia Theadneedle ファンド マネージメント グループのToby Nangle氏は「ヘリコプター マネーは世間一般の人が考えているほど過激なものではない」と述べている。彼によれば「資金は、2つの方法によって創造されている。一つめは、最も割合の大きいものでもあるが、銀行が企業や個人に貸金をすることによって資金が創造される。 その資金(貸出資金)は、銀行が手元資金のある企業や個人から「預金」という名目で借りてきたものである。Nangle氏はこれを「Inside Money」と呼んでいる。 これに対して、「Outside Money」と言って、政府や中央銀行によって創造される資金があり、それは我々が使っている紙幣やコインも含まれる。
Nangle氏はこのOutside Moneyをこれまでとは違った見方をしている。伝統的には、政府は民間セクターから税金を集め、それを支出に回している。その際、収入に不足があれば国債を発行してこれを補填している。彼は、これをMonetary Lense(資金の視点)を通じて考察している。即ち、政府は支出や公的セクターの賃金、あるいは防衛費を支払うために資金を創造している。もし、これを無制限に行えば、通貨の信用を失うことになる。そこで政府は、この通貨の拡大を相殺するためにSerilization(不胎化)によってその拡大を押さえ込む。即ち、税金や国債発行によって資金を金融システムから吸い上げる。
では、QE(量的緩和)について考えてみる。こちらは、市場から国債を買って資金を供給するものであり、実質的には、資金の不胎化の反対を行うものである。本来の目的は、市中の資金が急速に逼迫する事を抑制するために行われて来たが、1986年以降のイギリスのInside MoneyとOutside Moneyの推移を見てみると、リーマン ショック以降に急激なInside Money(民間の貸し出し)の減少が起こり、これを補う形(もしくは急激な資金の減少を緩和させる形)でOutside Moneyが増加している事がわかる。
更に、QEは、少なくとも中央銀行が保有し、政府が償還金や利息を支払っている限りにおいては、民間セクターの国債の残高を減らす効果がある。会計的には、一方(中央銀行)が国債を買い、もう一方(政府)が、その債務を負うことになり、例えば、ネット ベースで日本における国債のGDPに対する比率は減少し、上昇することにならない。
ただ、唯一、現在の状況とヘリコプター マネーとの違いは、理論的には、中央銀行が長期的に保有している国債をUnwind(この場合は、保有国債を減らす)ことを計画した時、政府は、国債を民間セクターにそれに見合う分を発行しなければならない。もしくは、中央銀行がマーケットに国債を売却することになる。そうでないと、国債が償還する際には再投資(国債を借り換え)が失敗することになる(デフォルトになる)。
しかし、リーマン ショックが起こって以来8年が経過したが、どの中央銀行もまだQEをUnwindしていない。このような状況下で、ヘリコプター マネーを使うことは大きな政策変更であろうか?
以上がNangle氏の論文であり、確かに彼の議論は巧妙である。 しかしこの考えには多くの疑問が起こる。もし、ヘリコプター マネーが、QEとそれほど変わらないのであれば、じゃあ、それ(ヘリコプター マネー)は本当に効果があるのか? 兎にも角にも、これまで多くの先進国が何度もQEを拡大してきたにもかかわらず、リーマン ショック前の成長率を回復できていない。そして、ヘリコプター マネーによる資金供給の拡大が恒久化されると同時に、もっと即効性のある効果があることになる(が、実際にはそのような効果が出ていない)。
その一方で、政府が国債を発行して資金を無制限に拡大することは、市場の国債保有者を恐怖に陥れる。何故ならば、それ(ヘリコプター マネー)は直ちに政府を中毒化させる薬であるからである。 と言うのも、もし友好的な中央銀行が政府の支出のすべてを調達することを約束するならば、政府は、増税などの人気のない政策や債券市場に対して寛容である必要はないからである。
そして、ヘリコプター マネーを採用しようとする際、最初に政府が考慮すべきは通貨価値の下落である。緩やかな通貨価値の下落ならば結構なことであるが、急激な通貨価値の下落はそうではない。
結論としては、Nangle氏はヘリコプター マネーに反対している。 理由は、ヘリコプター マネーは、QEよりも政策を転換させるのが困難だからである。(ヘリコプター マネー政策を転換する際は)国債を売却する代わりに、中央銀行が短期金利を引き上げなければならなくなるだろう(恐らくかなりの水準にまで)。そして、これが最も中心的な政策ツールとなるであろう。そのインパクトは、中小企業や借り入れをしている債務者を大きく損なわせる。
しかし、この議論(ヘリコプター マネー導入の是非に関する議論)は、なかなか決着を見ていない。現在は長短金利が歴史的に低い水準にまで低下しており、もし更なる金融政策の刺激策が必要とされても、中央銀行のできることは限られている。(ヘリコプター マネー導入に対する)市場の疑念を押さえ込むだけのもっとより多くの洗練されたヘリコプター マネーにとって有利な議論を期待したい(今の処はない)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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