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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/06/09 05:25  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

生産性が低いのは何故?


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

(抄訳)
経済成長は2つの要因によって成長が妨げられる。即ち、多くの労働者を過度に投入している、もしくは、有能な労働者を効率よく働かせていない(もしくはよりよい仕事をさせていない)のどちらかである。ベビー ブーマーの世代がリタイアするまでの20年間(2005年頃まで)は、先進国の多くは生産性の向上に沿っていた。 

しかし、最近の先進国の生産性の進展は非常に失望させるものがある。グラフにも表しているように、最近の生産性の進展は20世紀末を大きく下回っている(グラフによれば、日本の生産性は、1970~1996年は3.5%強、1996~2004年は2%、そして2004~2014年は1%を割り込んでいます。 一方で、アメリカは、1970~
1996年で1.75%、1996~2004年で2.2%に上昇し、2004~2014年は1.6%程度となっています)。

1996~2004年にかけて一時的に生産性が上昇したのはITバブルのあったアメリカとカナダぐらいで、その他の国々では軒並み生産性は落ちている。僅か1%程度の生産性の上昇と労働力の低迷は、現在の非常に弱い経済成長に直結している。

最近、OECDが生産性の低迷の謎に関するレポートを発表している。そこには、納得できそうな多くの生産性に関する説明がなされている。 例えば、「成長は終わった」的なテーマを紹介している。 あるいは、「現代のIT革命は、かつての電気や自動車のような経済のすそ野まで広がるような革命ではない」と言った説明もある。更には、製造業からサービス業への労働シフトが生産性を低下させた」(例えば、自動車メーカーで働いていた人が、サービス業に転職することで生産性が落ちた)と言った説明である。また、生産性の測定に問題があるのと指摘もある。 例えば、無料で見ることのできるインターネットの検索エンジンはGDPの統計には計上されない(売り上げがないため)。また、サービス産業の生産性を計測するのは困難との指摘もある。

確かに、テクノロジーの役割は生産性の核心に関わる問題である。1990年代後半から2000年にかけてのインターネットの普及はモノや代金の受け渡しコストを大きく引き下げたし、企業にとっては、売り上げや在庫をリアル タイムで把握できるようになった。 更に、今後は、3Dプリンターや無人トラックなどのテクノロジーの導入によって更に大きくコストを引き下げる事が可能になるかもしれない。しかし、大半の企業は、21世紀初頭のIT革命以来、GDPの伸びほどテクノロジーに対する投資をしていない。しかも政策金利が記録的に低い水準になったにもかかわらずハイテク生産に興味を殆ど示さない。

(生産性が低迷しているのは)1996年~2004年にかけてアメリカで生産性が上昇したITテクノロジーだけの問題ではないのかもしれない。「グローバル サプライ チェーン(Global Supply Chain)」と言って、多くの国にビジネスのネット ワークが出来ていることと関係しているかもしれない。つまり、グローバル バリュー チャーン(Global Value Chain:世界基準の価値でつながったつながり)の一部であることを望む企業は、出来るだけ効率よくなければならない。さもなければ、競争相手に自分のポジションを取られてしまうからである。世界的なトレードは1990年代から2000年代初めに大きく拡大し、バリュー チャーン(価値のつながり)は構築された。 そこへ、2008年の金融危機以降、世界的なトレードの成長は世界のGDPの成長率を下回っている。 これが、バリュー チャーンとその生産性の発展を阻害しているのかもしれない。

更には、新規ビジネスに対してあまりコミットしていないことも挙げられる。中期的には、新規ビジネスは、以前のビジネスよりも効率的であることが期待される。最近のデータ(2012~2013年)によれば、金融危機以降、多くの国の企業において、新興企業の割合はより縮小傾向にある。

別の観点としては、労働者のスキルと産業が必要とする労働力の間にミス マッチが起きているとの指摘がある。2008~2009年のリセッション初期に多くの労働者が、より賃金の低い仕事に転職せざるを得なかった。2013年に行った調査によれば、先進国の20%以上の労働者が、現在の自分の仕事は、自分の能力に応じた仕事ではないと答えている(イギリスと日本ではその30%以上の労働者がそう考えている)。(また、これまでは失業者が多かったため)、労働力を必要とする企業は、設備投資よりも(賃金の安い)雇用によって労働力を賄ってきた部分もあったかもしれない。

その一方で、企業家は、労働者のスキル不足に対して不満を持っている。恐らく、現代ビジネスが求める若い卒業生に対する西洋教育のシステムが合わなくなってきており、今はその転換期にある。 従って、政府は労働者に対して職業訓練を推奨する必要があるのかもしれない。

OECDは、生産性の低迷は、ミス マッチよりももっとファンダメンタルズ的な要因にその理由があると考えており、それらは、発展国だけでなく、長くそして延々と続くエマージングの国々の生産性の低さに影響を与えている。

低い生産性は先進国が直面する大きな問題の一つである。しかし、この問題がこれまで公に議論される機会が少なかった事には驚かされる。むしろ、大統領候補ドナルド トランプ氏が「海外から物も人も海外から引き上げて国内生産をより効率よくする」と示すのも一つの議論になる(それがいいか悪いかは別にして)。しかし、政府は、生産性を改善しようとした時(特に、フランス政府が労働市場の改革を迫ろうとした時)、多くの政治家は非常に大きな抵抗に直面する。 実は、このことが問題の先送りになり、いつまでたっても生産性が改善されない最も大きな理由である。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “生産性が低いのは何故?
  1. パードゥン より
    豪大陸は大規模消費国になれるはず

     原則を理解しない英誌の質の低下にも困ったものですね
    イギリスは、いつも根本を理解していて感心させららたのに

     ”生産性は改善に過ぎません。  基本は消費規模ですよ”

     オーソトラリアは、現在の生産性のままでも、大量移民で規模を拡大する
    だけで世界に貢献できる人類に残された大陸
    ヨーロッパの大量移民の全員を受け入れても問題は起きない領地があります

     ここが、大消費国になる事で世界の製造業は恩恵を受けれます
    規模を大きくするだけでいいのです。
    今は、人口が大陸としては不足しすぎで、農業競争力ばかりが突出して
    世界に迷惑をかけています   

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