2016/02/23 06:14 | 昨日の出来事から | コメント(0)
世界的な株価下落の背景
先週号の英誌エコノミストに今年の年初からの世界的な株価下落の背景には、銀行株の下落、特にヨーロッパの銀行の株価下落が背景にあるとの記事がありましたのでご紹介したいと思います。
今年に入ってから、アメリカ株は19%下落し、この間、日本の銀行株は36%下落し、イタリアの銀行株は31%の下落、そして、最も下落幅が大きかったのはギリシャの銀行株で60%も下落しています。ヨーロッパ全体の株価指数が24%の下落でしたので、如何にこれらの国の銀行株の下落が大きかったかわかります。
また、先週にドイツ銀行やソシエテ ジェネラルが大幅な赤字決算の発表をした際には、僅か数時間で株価が10%も急落しました(バークレーズやクレディ スイスでも同様の事が起きています)。特に、投資家が失望したのは、2007年に始まった世界的な金融危機の後(リーマンショックの後)、2014年までに間にヨーロッパの銀行は2500億ユーロの資本を増強し(日本円で約30兆円)、しかもECBがユーロ圏内の主要銀行130行を管理監督し、過小資本に陥っている銀行はごくわずかだったにもかかわらず、今回、大手銀行が大幅な赤字決算を発表したからです。
では、どうして大幅な赤字決算をしたかと言えば、その理由は、ファンダメンタルズ的には、世界経済の低迷であり、そして、次にはECBがマイナス金利を導入した事による業績の悪化があります。更に、1月29日の日本銀行がマイナス金利を導入した事で、3月のECBの理事会で、更にマイナス金利の引き下げを行うとの思惑から、「ヨーロッパの銀行の業績が一層悪化する」との連想が働き、ヨーロッパの銀行株は急落しました。そこに追い打ちをかけるように、2月11日のスエーデン中銀がマイナス金利をそれまでの-0.35%から-0.5%に引き下げました(日経平均株価指数は翌2月12日に今年の安値14,865円を付けています)。
そもそもヨーロッパの銀行には、こうした問題(世界景気の悪さやマイナス金利導入)以前に、もっと根深い問題を抱えています。 それは、ヨーロッパにはあまりにも多くの銀行があって、それぞれの銀行の収益性が低く、これまでのビジネス モデルでは立ち行かなくなってきていることが挙げられます。 また、ヨーロッパの投資銀行は、アメリカの投資銀行のように自国マーケットにより深く根差したビジネスを展開できる優勢性をもっていない問題も抱えています。
こうした根本的な問題が表面化したのがイタリアの銀行です。世界で最も古い銀行であるイタリア第3位の銀行(Monte dei Pschi de Siena)は、地元のパートナー、特に創業家との政治的な結びつきから来る経営ガバナンスの欠如が表面化して株価が56%も下落しました。また、この銀行に限らず、イタリアでは景気の低迷が続き、2015年末の時点のGDPは2008年のリーマンショック前のピーク時を9%も下回ったままです。これによってイタリアの銀行では貸し出し全体の18%(EU360bn:日本円で43兆円)が不良債権化し、その内、EU200bn(24兆円)がより深刻な不良債権となっています。
しかし、こうした根本的な問題は何も今に始まったことではなかったのですが、今年から問題銀行に対する新しい取り組み(今までは、税金による銀行救済が行われてきましたが、今後は、銀行が倒産した際には、10万ユーロ以上保有する銀行債の保有者や預金者にその負担を求める)が導入されたことで、問題が一気に表面化しました(尚、こうした取り組みは一部の国では2015年から適用されています)。
更に、厄介なのは、一般的には銀行が発行した社債(銀行債)は他の金融機関(生保や保険会社)によって保有されることが多いのですが、イタリアの場合は、2011年までは政府よる優遇措置のせいで個人投資家がイタリアの銀行債を200bnユーロ(日本円で約24兆円)も保有しているのです。こうした問題は、去年に4つの小さな銀行が救済された時、税金を投入するのではなく、債権者(銀行債の保有者及び大口預金者)にその負担を求めたことからも取り沙汰され、中には、これを苦にして自殺者も出たほどでした。
こうした事から、イタリア中銀のIgnatio Visco 総裁は「新しいスキームを直ちに導入することは好ましくない」と表明し、事態の収拾を図るために「政府による専用銀行(Bad bank)が不良債権を買い取り、銀行債の保有者にその元本を保証する仕組み」を提案していますが、投資はこれに対して疑心暗鬼です。
そもそも、この新しいスキーム(税金で銀行を救済するのではなく、銀行債や大口預金者にその負担を求める仕組み)は、これまでさんざん国民の税金をギリシャ救済のやめに投入させられてきたドイツによって提案されたものであり、ここにきて、再び、EU内で(怠け者の)南ヨーロッパの国々と(勤勉な)北ヨーロッパの国々との亀裂が表面化しています。
英誌エコノミストは「イタリアの銀行問題はヨーロッパ周辺国の問題であるが、政治的には、決して周辺的な問題で済まない」と警告しています。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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