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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/02/16 06:04  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

マイナス金利にも限度がある!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

(抄訳)

考えても見てほしい。例えば、(本来は、税務署は還付金の払い出しを嫌がるが)、その税務署が人々に還付金請求を急がせることを。  あるいは、大手スーパーが仕入れ先に対して、(本来は売掛金の支払いは数か月後が通常であるが)、その商品が棚に届く前に支払う事態を。更には、今までは、スポーツジムの年会費を先払いすれば割り引かれていていたものが、今度は毎月毎に支払うよりも割高になることを。 一見、こうした事は素晴らしいことにように見えるが、実に馬鹿げたことである。しかし、日本の中央銀行が1月29日に銀行の日銀の当座預金に対して金利を-0.1%に引き下げた時、これに近いことが起こりうるのである。

EUを始め、デンマーク、スエーデン、スイスのように、日銀は、銀行の当座預金に対して(マイナス金利の導入によって)コストを徴収することにしている。これによって世界のGDPの約4分の1の国々において、マイナス金利を導入したことになる。彼らは伝統的な金融慣習を否定したにもかかわらず、今のところ、マイナス金利導入は、中央銀行の有効な金融調節手段であることを証明している。 一般的には、最低預金金利は、中央銀行によって決められた短期金利を基準として設定され、また、貸し出し金利もそれによって決まる。 しかし、今、((マイナス金利の導入によって)ヨーロッパの借り入れ金利は急落し、そのことがデフレ退治と通貨安に役立っている。

大胆なことに、日銀の黒田総裁は、先週、金融緩和手段に限界がないことを主張した。 しかし、少なくとも、政策金利については、その考え(マイナス金利に限界がないという考え)は間違いである。確かに、金利の限界はゼロではないかもしれないが、その限界は必ず存在する。

最近までは、もし、預金金利がゼロ以下になれば、銀行や預金者は単純に預金を現金に換えると広く考えられていた。何故ならば、(現金で保有すれば)受け取り利息がない代わりにコストを徴収されることもないからである。しかし、1年以上も前にマイナス金利が導入されたヨーロッパでは、預金は引き続き安定的に銀行に残っているのである。商業銀行は、小口のインターネット預金にコストを徴収しなくても、現金を安全に管理するコストに比べれば、コスト的に耐えうると考えてきたし、個人の預金者にコストを転嫁させるのは非常に厄介だと考えてきた。

しかし、その結果、銀行の収益を圧迫することが避けられない事態となり、特に、ユーロ圏では、全ての商業銀行の準備預金(当座預金)に対して-0.3%の金利が適用されているのである(尚、スイスやデンマークのように、日本は、今回の適用金利の影響を最小限にとどめる為に、マイナス金利は新規に預け入れられた当座預金に対してのみ適用される)。しかし、もし、マイナス金利が更に大きくなれば、収益は更に圧迫されることになり、中央銀行は、銀行を救済する事態になりかねない。あるいは、銀行が十分に収益を上げる事が出来なければ、業務を維持する為の十分な資本金を積むことが出来なくなるかもしれない。

こうした背景が顧客にコストを転嫁する圧力となり、既にそうした動きは始まっている。ヨーロッパの銀行では、大企業の預金に対してマイナス金利を転嫁し始めている。その結果、大企業は、預金をする代わりに大量の現金を国債に振り向けているが、その国債も既にマイナス金利となっており、スイスに至っては、短期債から10年債まで全てマイナス利回りになっている。次のターゲットは富裕層の預金である。スイスのプライベート銀行のボスJulius Baer氏は、先週、「もし、ヨーロッパで更なるマイナス金利が進めば、預金者にそのコストを転嫁せざるを得ないかもしれない」と言っている。

小口顧客は、コスト転嫁に対して、より抵抗的である。 何故ならば、彼らは預金が小口故に、マットレスの下や家の金庫に保管できるからである。あるいは、銀行預金に対してある程度のコストを払うことに対して我慢するかもしれない。しかし、更にマイナス金利が進めば、コストを避ける方法を探すかもしれない。 単純に現金化することが最も単純な解決方法であるが、同時に、銀行券で保有することを避ける方法も考えなければならない。それは、たった一つの方法ではなく、ありとあらゆるプリペイド(現金先払い)の方法が考えられる。 例えば、ギフト券に替える、あるいは、長期購読代を先に支払う、あるいは公共交通カードにチャージする、あるいは、携帯電話のSIMカードにお金をチャージする、など等、これらは銀行預金を避ける方法となり得る。

こうした話は、決してめちゃくちゃな話の始まりではない。もし、マイナス金利が相当進み、更に長期化するようであれば、安全保障会社のスペシャリストが現れて、大口預金者のために現金を保存する貯蔵庫を建て、預金者間の現金のやり取りを行うかもしれない。 企業は、支払いを急ぎ、現金を出来るだけ遅く受け取ろうとする。あるいは、税務署は、早期納税割引や、事前納税を嫌がるかもしれない。 既に、スイスのある州では、早期納税割引制度を中止し、税金を出来るだけ遅く受け取ろうとしている。 もし、(中央銀行がマイナス金利を更に推し進めて)貸し出しをより促そうとしても、銀行は、預金の減少によって、貸し出しを拡大することが困難になる可能性がある。

マイナス金利を避ける方法が閉ざされたとしても、人間の能力は、他の方法で受取利息を確保しようとする。確かに、最低預金金利はゼロではないかしれないが、世の中には預金金利に結び付く方法は、まだ他にもある。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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