2015/12/11 06:30 | 昨日の出来事から | コメント(0)
何故、2つの大銀行は倒産したのか?
先週号の英誌エコノミストに2008年にイギリスのリテール銀行HBOSとアメリカの投資銀行リーマン ブラザースが倒産した背景に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
(抄訳)
2008年金融システムが崩壊した際、REBの前任の議長であり自由市場のチャンピオンと称賛されたアラン グリーンスパン議長が、「『銀行やその他の組織にとって、株主やその他のステーク ホルダーを守る事が出来る一番いい方法は自らの得意とする業務をすることである』と考えていたことは間違いであった」と彼のそれまでの考えの過ちを認めました。 また、 彼は言葉を変えて「何故、彼ら(破産した企業)は自らの主たる生計の糧(得意とする業務)を破壊してしまうのであろうか?」とも言っている。
このグリーンスパンの問いかけに対する幾つかの答えのヒントが、自らの破綻によって(世界の金融市場を)最悪の危機にアメリカの投資銀行であったリーマン ブラザーズの倒産に関する本や、最近になって発行されたイギリスのリテール銀行であったHBOSが政府に支援を要請した姿を描いた本の中に見つけることができる。この2つの銀行は違った歴史を持っているにもかかわらず、彼らは同様の過ちを犯したのである。
まず初めに、両者は自らの本来の得意とする業務から逸脱してしまった。HBOSは、小口モーゲージ ローン会社のHalifaxとスコットランドの2大銀行の一つBank of Scotlandが合併して作られ、この合併した会社は、イギリスにおけるマーケット シェア拡大とHSBCやバークレーズのような競争力を欲していた。 当時、ビジネスを拡大する最も簡単な方法は、小口でリスクの高い借り手に金を貸すことであり、世界の金融市場が曲がり角に差し掛かってきた2007年には新規の貸金が50%も増加していた。
一方で、当時のリーマン ブラザーズは債券売買で非常に良く知られていたが、彼らは不動産に対する貸し出しに大きくシフトしていった。BNC モーゲージという子会社を通じて、全米で11番目に大きなサブ プライム ローンの貸し手となり、ウオール ストリートのどの会社よりも多く不動産担保ローンを引き受け、究極的には不動産会社そのものまで金をつぎ込んだ。
当時の両者の経営者は、これによって他社に比べてより多くの収益を上げる優位性を確保でき、更には、同業他社が躊躇う中、更に多くのリスクを取ることによってマーケット シェアを獲得できると考え、最終的にはこのビジネス モデルは成功すると考えた。 特にHBOSに至っては2007年には「貸し出しから撤退することは会社のフランチャイズそのものにダメージを与える」と考えていた。 つまるところ、両者は、まるでサメのように、ただ「前に進むこと以外に生き残る方法はない」と考えるようになったのである。
唯一、リスク コントロール システムだけが、経営者を彼らの過ちから救う事が出来る筈であったが、結果としてはそれが機能しなかった。 リーマン ブラザーズは400名近くもリスク コントロールの為に人を雇い、その中にはかつて監督庁に働いていた者もおり、2005年には、そのリスク マネージメントに対するアプローチは当時の監督省庁であったSEC(Security exchange Committee)から称賛されるほどであった。 しかし、チーフ リスク オフィサーは、リスクを既定の水準より越えさせ、リスク リミットは無視され、 商業貸し出しやプライベート エクイティの中には、内部のリスク ストレス テストから除外されるものもあった。
HBOSも自らの不動産ポートフォリオについて独自のストレス テストを行っていた。しかし、使われる不動産価格下落に関する前提条件が、1990年台前半に起きた景気後退期のリスクより緩いものであった。2005年に外部のコンサルタントによって行われたストレス テストでは、5000年に一度の確率で3年分の収益が一気に吹き飛んでしまうと計算されたが、実際には、その3年後にHBOSは債務超過の危機に陥り、政府に財政支援を要請することになった。
そして、両者に共通しているのは、業者間で取引されている短期金利市場から大量の資金を調達している事である。 この市場では、借り手はちょっとでも投資家(資金の出し手)からの信頼を失うと、たちまちに調達が非常に困難になるのである。このことがこれら2つの銀行が自分たちの不良債権を償却させることを遅らせたのである。 つまり、損失などの弱みを認めることは、市場の評判を落とすことに直結するのである。故に、彼らは倒産する前の数か月間において何とか自己資本を増やそうとしたが、現実には、彼らが望むほど自己資本を増強できなかった。
結局のところ、どちらのケースも経営メンバーはそれぞれのマネージャーをコントロールできなかった。リーマン ブラザーズの3分の2以上のマネージャーは銀行に関する重要な知識を持っていなかったし、HBOCのレポートにおいても、経営メンバーは、その専門知識とバンキングに関する経験がなかった。 否、正しくは銀行経験のある上級管理者を採用することが困難だったのである。つまり有能な人材は競争相手の企業で働いていたのである。
こうしたコントロールできていなかった点については、より広い他の問題についても当てはまる。 例えば、リーマン ブラザーズは、2009年に子会社として登記さえた法的組織(ペーパー カンパニー)は7000を超え、その資産残高はUSD700bn(日本円で約8500億円)となり、これだけ複雑で大量の資産を管理することは困難であり、結局は「ほったらかし」の状態であった。
更には、2000年以降の長期間にわたる健全な経済成長と不動産価値の上昇によって、HBOSとリーマンの経営者は共に安全にして間違った感覚に陥り、当時の彼らは「自分たちは優秀であり、いかなる状況もうまく経営出来る」と信じていた。 事実、2008年までは彼らラッキーであった。 しかし、この論文の最初に出したグリーンスパンの失敗の教訓に当てはめれば、彼らは、自らの得意とするビジネスにフォーカスしなかった。そして彼らは「バランス シートを拡大し、収益を上げ続けることができないならば、他の業者に自分たちの地位を取って替わられる」と信じたのである。そして(倒産という)トラックにぶつかるまで、彼らはそのトラックが見えなかったのである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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