2013/10/29 15:06 | 昨日の出来事から | コメント(2)
今年のノーベル 経済学賞とは
先週号の英誌エコノミストに「(今回の)ノーベル経済賞は、我々が如何にマーケット動向について何もわかっていないかを述べている」と題した記事がありましたのでご紹介したいと思います。
そもそもノーベル経済学賞は、アルフレッド ノーベルが1896年に設立した科学、物理、医学と違って1968年に設立されたもので、その設立の意義に疑問の目がこれまで何度も向けられてきました。
今年のノーベル経済学賞の一人目の シカゴ大学のEurgene Fama氏は、市場の効率性を強く信じていることで知られ、 彼は、我々(英誌エコノミスト)が執拗なまでのバブルに関する警戒は発した事にうんざりして、本誌の購読の更新をやめてしまった(彼によれば、市場は効率的であるが故にバブルは起きないのである)。 しかし、バブルは現実問題として存在するのである!
その一方で、エール大学のRbert Shiller氏は、 反対に1990年台と2000年台のバブルについて気取った調子でバブルを警告していたことで知られている。
この相反する二人が、シカゴ大学のLars Peter Hansen氏の下で、アセット価格に関して経済学としては驚くほど小さな経済理論を確立したのである(これが今回のノーベル経済学賞受賞の根拠)。 この3人はお互いにマーケットがどう動くかについては意見の違いがあるものの、彼らが行った業績そのものは、相受け入れられないものではない。 しかし、これを確認するために、この3人の業績によって収益を得た投資家以外には確認のしようがないのも事実である(実際にこれによって本当に儲かったかどうかはわからない)。
Mr Fama氏は、1960年代に彼の博士論文において、市場は効率的であるとの仮説の下で資産価格の研究を行った(有名な市場効率仮説)。 即ち、「すべての株価は、取得できるあらゆる情報を瞬時に内包してしまい、更には、短期的には市場の価格予想は不可能である(ランダムである)」としました。
彼の言わんとすることは、「市場が十分に効率的であれば、数日あるいは数週間単位では、市場価格の予想は困難であり、従って、トレーダーは売買にかかるコスト勘案後では、株価予想から収益を上げることはできない」という事になります。
また、かれの共著者も、重要なニュースが出た後、市場価格がどう推移すするかの「イベント スタディ(event study)を行い、株価は、瞬時に動いた後は、再び、予測不可能なものになったとしています。 これは、1970年の「Efficient Capital Market: the Journal of Finance」 として発表され、その後の証券価格分析に大きな影響を与えています(現在の証券価格理論もこの前提に立って行われています)。
次にShiller氏は 1981年にAmerican Economic Reviewの中で「Do Stock Price Move Too Much to be justified by Subsequence Changes in Dividends?」というタイトルの論文の中で、「効率市場理論によれば株価は、株式によって生み出される直近の配当に関する情報に大きく影響される。しかし、実際の株価は、その配当以上に値段が乱高下する」と結論付けています。 このShiller氏の言っていることは(別の言い方をすれば)「人々が、将来の株価に影響される情報を与えられると、人々は将来の株価を予想した行動をとる」ことを意味しています。 また、彼は、株価に対する「modified price-to-earnings ratio for shares」を考案し、現在の企業業績の替わりに10年間の企業業績の平均値で配当を計算する方法を取りました。
これによって、彼は、将来の株価が過大評価されている時には、特に、1990年台と2000年台のこれらの時期に、当時の株価を「バブル」として警告しました。 特に、彼が、当時のFRB議長であったアラン グリーンスパン氏とのインタビューの後に、「(当時の)株価は、非合理的な水準にまで熱狂的である」と警告しました。
このように、Fama氏は、短期的には株価は予測不可能であることを示す一方で、Shiller氏は数年単位の期間において、資産価格は予測可能な方向に動くことを示しました。Fama氏も、Shiller氏の見解に全く同意しないというわけではなく、「短期的な金利水準は、長期的な株価市場の影響を受ける」としています。
更に、Shiller氏は、個人と集団心理の役割について、Daniel Kahneman氏(心理学者から経済学者に転向し、2002年にノーベル経済学賞受賞)の業績を引用しています(英誌エコノミストはこの辺りについてもノーベル経済学賞の在り方について疑問を投げかけています)。
さて、3人目のMr Hansen氏ですが、彼は1982年に「generalized method of moments estimation」 として知られる非常に影響力のある統計的技法を開発しました。 これは、計量経済学者が、統計的に非常に強い結果をもたらす様々な情報を明らかにすることによって、投資家が、現在、持っているあるいは持っていないにかかわらず、最もすぐれた情報が何であるかを調べ、そして作り出す方法です。
これによって、ミクロの資産価格とマクロの総消費などの様々なマクロ経済指標の間において、長期間にわたってその関連性を理解することが出来るようになり、現在は、マクロ フィナンシャル モデルとして急成長しています。 特に彼が注目したのは、景気循環が資産価格にどう影響し、逆に資産価格が景気循環にどう影響するかという問題でした。
彼の理論では、人々は、自分たちの欲しい情報を与えられることなく、また将来に対する確たる確信もなく、自らの資産売買に関する決定をしなければならないことを明らかにし、 それが故に資産価格は、ある期間においては、比較的効率市場仮説通りに推移することもあれば、全く非合理的な価格を形成することもあるとしています。
最後に英誌エコノミストは、今回のノーベル経済学賞受賞後に、取材記者から、「あなたは 『エコノミストは、どれくらい資産価格について理解しているか?』と訊かれた時、 『我々エコノミストは、そのこと(資産価格)についてほんの少しだけ理解を深めることが出来た。 しかし、まだ、やるべきことはまだまだ多い」と答えたことを引用して終えています。
9月の「ぐっちーポスト」のセミナーでもお話しましたが
価格=F(理論):とするのは証券アナリスト試験だけの世界です(Fama氏の考え)。
価格=F(理論、情報) としても、まだ不十分です(Shikker氏の考え)。
価格=F(理論、情報、(不確実性の中で判断しなければならない人々の)感情) によって形成されていることをお話しましたが、これは、まさしくHansen氏のそれと同じです。
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2 comments on “今年のノーベル 経済学賞とは”
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三本の矢・・
強い・・折れない・・当たる・・・(笑)
セミナーを拝聴していたのに、最後の最後になるまでセミナーの内容との関連性に気づかなかった… なんてアホだw
つまり、お話にあった三式を代表する提唱者三人がノーベル経済学賞を受賞した、ということでしょうか。やはりナンかおかしい感じがしますね。三つの式とも正しいなんてw
それより、三連複の一点買いで前橋さんはぶっちぎりの予想王? w