2012/10/28 08:19 | 昨日の出来事から | コメント(2)
スペインとポルトガルの現状
ここの処、EUの信用不安に関しては、9月にECBが加盟国の国債が売られた時には無制限でその国債を買い支えることを表明し、更にはEU域内の銀行の管理監督に関する合意が年内を目途になされること、加えて、スペインの財政支援に関しては、スペイン政府が更なる財政削減を受け入れることでEU、ECB,そしてIMF(トロイカ体制)からの財政支援を受けるとの見方から、市場は落ち着きを戻し、通貨ユーロは買い戻しが入り、スペイン、ポルトガルの10年物の国債もかつては10%台まで売られていましたが、現在は、10年物のポルトガル国債で7,7%、同じくスペインの10年物国債で5.5%台まで金利は低下(価格は上昇)しています。
これまで、スペイン、ポルトガルは、ともに2009年には財政赤字がそれぞれの国のGDP対比10%近くありましたが、 その後の財政削減と増税によって2012年時点では、6%近くまで低下してきたこともここにきて市場が落ち着いてきたことの要因です。 しかし英誌エコノミストはこうした財政削減の努力を評価しながらも、今後、両国が更なる増税と財政削減を推し進めることには懐疑的です。 今回はそのことについてお話したいと思います。
まず、ポルトガルですが、10月16日にポルトガルのVitor Gasper財務大臣が発表した2013年の予算では、EU,ECBとIMFからの財政削減目標を達成するために更なる大幅な増税を行うとし、例えば、所得税を上げて平均的な家計の所得税を33%まで引き上げるとしています。 これに対して、国民は当然の事、これまでは反対してこなかったエコノミストや政治家までが、今回の増税案に対し「財政原子爆弾」とか「中間層に対する残酷な犯罪である」と一斉に反発を強めています。
当のGasper財務大臣は「EUからの要請を受け入れる為には、これを実施する他はなく、そうでなければ財政は破綻するしかない」と反論しています。 これを受けて、国民側も(ギリシャの惨状を見て)「財政破綻は避けなければならない」ことには同意していますが、その一方で、「これでは、ポルトガルの中心的な勤労者世帯を、大幅な増税によって、ただ苦しめるだけでなく、肝心絡めのポルトガルの経済成長も殺してしまう」と反発を強めているのです。
と言いますのも、IMFの最近の調査では、現在の世界的な低成長経済の下、大幅な財政削減や増税は、平時の財政削減や増税よりも、より大きなマイナスインパクトがあるとし、これは暗にポルトガルやスペインの現在の苦境を示しているとの指摘も出ています。 加えて、ここにきて、これまで財政削減に対して1枚岩であった連立政権に政治的な亀裂が入り始め、これ以上の財政削減と増税を推し進めることが出来なくなってきています。
ポルトガルは、ギリシャと違って、これまでの財政削減や増税の取り組み姿勢に対して、EUやドイツから高く評価されてきました。 従って、今後の財政削減や増税案に対しては、「スペインと協力しながら、EUやECB、更にはIMFと掛け合う時期に来ているようだ」と英誌エコノミストは指摘しています。
次にスペインですが、スペインは、ポルトガルと違って、最初から厳しい財政削減と増税には政府を上げて「しぶしぶ」の態度でした。 この根底には、北ヨーロッパ諸国、特に、ドイツに対する反発があります。 また、かつては7%台まで売られていたスペインの10年物国債は、ECBによる「売られている国債を無制限に買う用意がある」と表明した事や、市場が「スペインは最終的にはEUからの財政支援を受けるであろう」との見方から、10年もの国債の利回りが5.5%台にまで低下してきた為、「この程度の金利水準であれば、持続維持可能であり、何も敢えて、ただでさえ失業率が25%のリセッションで苦しんでいるのに、更なる再生削減を推し進めてEUからの財政支援を受ける必要がないのではないか」と言った考えも出始めています。
また、スペイン政府が出した2013年の予算に関しても、経済成長率を楽観的に見積もって+0.5%としていますが、IMFの見通しでは、2013年のスペインの経済成長率はマイナス1.3%であり、現在の財政削減を推進することすら怪しい状況です。
更には、政治的な背景もスペインの場合は大きく影響しています。 もともと独立色の強かったカタロニアの選挙が11月25日に行われる予定で、これまでの政府の財政削減と増税の影響でナショナリズムや、独立の機運が地方のあちこちで起こっており、 こうした政治的な動きがこれ以上の財政削減と増税を推し進めすことを躊躇わせています。
また、先程、ポルトガルの更なる財政削減の処でもお話しましたが、IMFの調査でも、現況下の世界的な低成長の下、厳しい財政削減と増税を行うことはかえって経済成長の妨げになるとの指摘もあり、スペインやポルトガルにこれ以上の財政削減と増税によって財政再建をすることには限界があるところまで来ているというのが英誌エコノミストの考えのようです。
では、「今後はどうすればいいのか?」と言えば、EUはスペインやポルトガルに対して、時間がかかることではあるが、「財政削減」よりも「構造改革」を推し進めさせることにコミットさせるべきと英誌エコノミストは指摘しています。 その一方で、現在の財政削減機運の後退したスペインの現状に対して「これまでの様々な施策のおかげで辛うじて現在の小康状態があるのであって、(財政削減)をむやみに遅らせることは、決して現在の小康状態維持にはならず、いずれパニックがやってくる」と警告しています。
故に、いつのことかわかりませんが、スペインがパニック売りに直面した時、「通貨としてのユーロは2012年の7月24日の94.10円の安値よりも更に売られるのではないか」という思いを私は持っています。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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2 comments on “スペインとポルトガルの現状”
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>>過去に侵略された歴史のあるドイツに対する反発・・
ドイツが・・スペイン侵略・?
ありましたっけ・?
西ゴート族・?
日本には・・ポルトガルの窮状・・流れてこない・・
静かに追い詰められている・・十一月のゼネスト・・切っ掛けになるか・?
西班牙GDT20%占めるカタルニア・・
選挙で・・独立進めば・・
スペイン崩壊・・ユーロ下落・・瀬戸際・・切欠になるか・?
でなくとも・・
失業率25%・・何%が・・分水嶺になるか・?また不明・・
ラホイ有能でないことは・・周知の事実・・
IMF・・
ユーロ崩壊の下手人にされる・・恐れ・・方向転換・・水中回転・・シンクロ・・足を出す・・
英国・・EC脱退・・可能性・・育っている・・・
いつもお世話になります。
英誌エコノミストには単純にドイツに対する反発とあったのですが、それを読んだ私が、第2次世界大戦にドイツナチスが、スペイン北部の町ゲルニカを無差別空爆したことを思い出してそのように書きましたが、根拠が今一つ明確ではありませんので、その部分については削除せていただきました。
よろしくお願いします。
前橋