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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/09/25 06:23  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

大花火を打ち上げた後のEUの今後


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストでは、8月にドラギECB総裁がぶち上げた「EUを守る為にECBの出来ることは何でもやる」と発表し、9月上旬にはその具体的な計画として「一定の条件の下、財政再建危機に直面している国の国債を無制限に買い入れる」と発表したその後の動きについて関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

今回の一連の行動を受けて、それまで7%台で取引されていたスペインの2年物国債利回りはは3%台まで急低下し(債券価格は上昇し)、5年物のCDSマーケットのスプレッドはポルトガルを中心に大きく低下しました(500bp以上のスプレッドの縮小)。 これを見る限りにおいては、ドラギ総裁が打ち上げた大花火は、EU信用危機を落ち着かせることに成功したと言えます。

また、9月12日に発表されたEU域内の銀行を一元管理監督する計画が発表され、その実現に向けて大きく前進しましたが、このこともEU信用危機を落ち着かせることに大きく寄与し、ヨーロッパの株式や通貨としてのユーロは大きく買い戻されました。

しかしながら、問題はここからで英誌エコノミストは、今後の展開に次の懸念を示しています。
(1) ECBが、今後、財政再建危機に直面している国の国債を無条件に買い支えることを表明した為に、市場ではECB対して売り向かう向きがなくなり、債券市場の適正な金利水準がなくなり、こうした国債の利回りを基準にした社債やデリバティブ債券のスプレッド市場が枯れて死んでしまった(債券の発行、流通市場が実質的に機能しなくなってしまった)。

(2)  一方で、ECBが無条件に財政再建危機国の国債を買い支えるためには、当該国はECBからの厳しい財政再建条件を受け入れなければならないが、果たしてその国の政治家は、国民にその厳しい条件を説得させて遵守させる事が出来るのか。

(3) 一方で、ECBにも問題があり、もし、財政再建国がECBの要求した財政再建計画を遵守できなかった場合、ECBは本当に当該国支援をやめることが出来るのか? (ギリシャは、結局の処、財政再建計画を遵守できなくなっても、EUやECBは支援し続けている)。 更には、もし、ECBが支援をやめた場合には、再びEU崩壊懸念が再浮上することになる。

(4) 新しい組織EBA(European Banking Authority: ヨーロッパ銀行庁)が、域内の銀行を管理監督する対象銀行数は6,000行を越えるが、果たして実務的にこれを管理監督することが出来るのか。

(5) また、このEBAはEU域内の銀行のみを対象としているが、これらの銀行は、域外の国の銀行とも取引しており、こうした銀行との取引をどう監督管理するのか。

(6) 最後に、EUの多くの銀行は、EBAの管理の外にあるイギリスのロンドン市場でかなりの部分の業務を行っており、イギリス金融庁との縄張り争いを避けて通ることが出来ない。

以上のことから、次の関心事は、EBA設立に関する提案(法案)が、EU委員会が希望している年内にEU各国政府及びEU議会で採択されるかどうかにかかっていますが、どう考えてもその採択は来年にずれ込みそうです。その時、市場は、、、、、

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One comment on “大花火を打ち上げた後のEUの今後
  1. あしゅ より
    またまた参考になるお話、ありがとうございます。

    懸念点だけで(6)まであるんですねw
    それと、講演だったかメルマガだったか、はたまた、ブログだったかコメントだったか思い出せませんが(失礼)、(3)については、一旦始めた支援を続けることを躊躇すれば、それまでに買い上げた国債の市場価格が毀損していくので、財政再建計画を遵守できない国への支援(国債買い入れ)をやめることができない泥沼…ってポイントもあったですね…

    某国の尖閣諸島へのチョッカイもそうですが、なんかいやな話が多くて困りますね…

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