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2012/09/20 06:41  | 昨日の出来事から |  コメント(2)

金融緩和をしてもうまくいかない理由


おはようございます。

昨日、日本銀行は、市場の予想に反して更なる金融緩和を行いました。 今月初めにはECBが財政危機に直面している国の国債の買い入れを決定し、先週にはFRBがQEIIIを決定しましたので、日本銀行もこれに追随しないと急激な円高懸念が出ることからこうした動きがあることは予想されましたが、これほど迅速に追随する(あるいは、せざるを得なかった)とは市場は予想していなかったようです。

先週号の英誌エコノミストに「金融緩和をしてもうまく行かない理由」と題して、中央銀行が金融緩和をしても思うほど効果が上がらない理由に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

今回のECBによる金融緩和(ヨーロッパ周辺国の国債購入)は、通貨としてのユーロ危機を軽減することを主たる目的としています。一方で、FRBのQEIIIは、失業率を引き下げ、経済成長率を3%にまで引き上げることを目標としていますが、失業率の改善は極めて緩慢で、ただ中央銀行のバランス シートだけが膨らんでしまっています(この点に関しては日本銀行も同じ)。

このように金融緩和による失業率の改善は、「もし、失業率の上昇が景気循環的な要素で上昇しているならば、金融緩和はこれを低下させる有効な政策になりうるが、もし、これが構造的な要因による失業率の上昇ならば、金融緩和はそれほど有効な政策にならない」との指摘がスタンフォード大学やコロンビア大学などの研究によってなされ、現在のアメリカの高い失業率は、構造的なものである可能性が高く、今回の金融緩和では効果がないとの議論があります。

一方で、プリンストン大学の教授(Markus Brunnermeiner &Yuliy Sannikov) は、こうした金融緩和の理論的な正当性を主張しています。 例えば、金融緩和を行えば、企業家を刺激し、家計は消費を拡大し、将来に対する投資を拡大することは確かであり、こうした金融緩和による「再分配効果」があることも事実である。 例えば、預金利息が低下することによって、個人の利子所得が銀行にシフトし、それによって銀行の貸出余力が増大しますし、また、金利が低下することによって年金の運用利回りが低下する一方で、債券以外の投資機会を求める機会が増大します。

しかし、シカゴ大学のAmir Sufi教授は「こうした金融緩和効果も、本当に債務超過になっている家計にとっては、消費を増やすこともできなければ、借りたくてもお金を借りることも出来なのである」と指摘し、アメリカにおいて、債務超過に陥っている家計の多い州では、いくら金融緩和を行っても個人消費は更に弱くなり、自動車販売も悪化の一途を辿っていると指摘しています。

そして、何よりも今回の各国による一連の金融緩和の最大の問題は、ECBにおいては、ドイツやオランダなどの債権国の所得をギリシャやスペインなどの債務国に移転し、アメリカにおいては、個人の預金者の利息収入が不良債権を抱える銀行に転嫁されていることの是非が問題であり、その結果として、債権国の国民や個人の預金者は、益々、消費を控え、更には将来の投資に対して消極的になってしまっている」と英誌エコノミストは指摘しています。

でも、これって、私達日本人に取っては既に経験済みで、日本では過去20年間において、本来、私達が得るべき利息収入(一説には200兆円超)が銀行の不良債権処理に使われ、その結果、銀行の不良債権処理は、ほぼ終息しましたが、この間、嫌というほど痛めつけられた私達は、将来の消費や投資に対して慎重であり続けていることからも容易に理解できます。

と同時に、それは、ちょっとナイーブな言い方かもしれませんが、過去に“コテンパン”に痛めつけられた私達の、この国(もしくは中央銀行)に対する物言わぬ復讐という事も出来るのではないでしょうか。

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2 comments on “金融緩和をしてもうまくいかない理由
  1. ペルドン より
    失業率の上昇が景気循環的な要素か・?

    構造的な要因による失業率か・?
    前者から・・後者に・・移行した・・
    かくして・・苦渋の二十年・・
    物言わぬ復讐・・国民の・・

    その結果・・
    自民党政権から・・民主党政権に・・移行した・・
    その結果・・
    国民は・・裏切られ・・
    復讐・・再び・・物言わぬ復讐・・炎上・・

    恐怖する・・首相・・
    あえて・・尖閣国有化で・・中国に放火・・炎上・・
    国難の最中・・首相を変えるのは・・国益に反する・・と主張する・・愚策を・・
    選択したのでは・??

    これを生かすも・・殺すも・・
    次の自民党総裁次第・・
    誰が・・選ばれるか・・総裁選・・
    その方が・・日本を握っている・・輪廻の世界・・

    我々の・・物言わぬ復讐・・何時?
    遂げられるのだろうか・・・??

  2. st より
    構造的な要因

    簡単に構造的な要因と言っても、物凄い奥の深いものなんでしようね、金融緩和ごときで対処出来るものではなく、政治行政をもチェンジしないといけない段階まで来ているのかもしれません、特に感じる構造変化は社会生活です、日進月歩の技術革新、文明開化と言っていいぐらいのデジタル革命で経済までもが一新しました、アメリカ経済も人為的な金融立国で一新しました、欧州経済も人為的な通貨統合で一新しました、こう言ったトップダウン方式が正しかったのかどうかも問題ですが、それらに政治行政が対処しきれていないように感じます、日本を見ても社会生活的な構造変化に政治行政が対処しきれていません、チェンジが厭でも既成政党を潰して日本維新の会に政治行政を任せないといけない時代に入ってるんだと思います、諸行無常だと思えば日本維新の会に不安がることなんかありませんよ、大阪で実証済みです。

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