先週号の英誌エコノミストに今、ドイツを中心に水面下で画策されているギリシャをＥＵから放出する実行可能性（フィージビリティ　スタディ：Feasibility Study）に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。　英誌エコノミストは、様々な観点（特にコスト的な観点からも）こうしたフィージビリティ　スタディをするよりも、よりユーロ統一の深化を図るべきであるとの立場ですが、万一、こうした可能性を模索するとどういう問題点が出てくるのかを列挙しており、その幾つかをご紹介したいと思います。

（１） マースリヒト条約そのものを改正する必要がある。
そもそもＥＵの基本憲章には、ＥＵ参加に関する条件を定めていますが、離脱に関する条件を設定していないのでこれを定める必要がある。　また、通貨ユーロを離脱してもＥＵに残ることは、理論上は可能ですが、今回のケースでは通貨ユーロを離脱すればＥＵからも離脱させられる可能性があり、そのプロセスを取る為の法的整備ができていない（とはいっても、ＥＵの現状は、既にＥＵ設立当初の姿からかけ離れたものに変質してしまっており、この期に及んで設立当初の精神に立ち返り、議論を本気でする国は既になく、事態打開の為には何でも「アリ」の状態になっていると英紙エコノミストは指摘しています）。

（２） ギリシャ国民はＥＵ離脱を望んでいない。
先の選挙の結果、ギリシャ国民の大半は、身勝手な話ではあるが、ＥＵの離脱を望んでいない。これを強引に切り離すと、ドイツを初めとする切り離し側と、切り離された側の軋轢が生じ、様々な政治的な問題（あるいは国民感情論的な問題）が起きる可能性がある。特にドイツは、ギリシャだけでなく、他のＥＵ加盟国から反感を買う可能性が高い。

（３） ギリシャ通貨ドラクマを復活させるためには数か月かかる。
過去の事例として１９９３年にチェコ＝スロバキアが、チェコとスロバキアに分離した際、通貨を分離させるために、６か月の期間を要した。　現在は、当時に比べて電子マネー化が進んでいるので、それほどの期間を要しないかもしれない。　また、この機会にギリシャのアングラマネーを一掃できるいい機会と考えることが出来るかもしれない。

（４） ギリシャ切り離しの秘密情報管理が、事実上、不可能である。
実際問題として、ギリシャ切り離しの決定報道は金融市場の閉まっている週末に発表されることが考えられるが、ＥＵのような集合組織体の中でその為の事前準備が外部に漏れるリスクが非常に高い。もし、この情報が漏れてギリシャ国民が預金引出しの為に銀行に殺到した場合、ＥＵはギリシャの銀行を閉鎖し、通常は法律で禁止されている預金封鎖を実行しなければならない（尚、ＥＵ参加国の銀行業務の免責条項（get out clause）として、６か月までの銀行閉鎖は認められてはいますが、その間、人々はどうやって経済活動を行うのか？　まさか「物々交換で生活しろ！」とでも？）　

（５） 本当にギリシャだけで終わるのか？
万一、膨大な犠牲と混乱を伴いながらギリシャを通貨ユーロから切り離したとしても、これで通貨ユーロの信用問題が終わるわけでない。　「第２、第３のギリシャ（具体的には、アイルランド、ポルトガル、キプロス、スペイン）は、大丈夫なのか？」といった問題が残る。

以上のように指摘しています。

市場では、こうした事を見越して（そう簡単には、ギリシャを窓外放出（defenestration）する事は出来ないと見越して）、ユーロは買い戻されています。