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2012/07/08 08:46  | 昨日の出来事から |  コメント(2)

キプロスを小国と侮ることなかれ!?


おはようございます。

6月末のEU首脳会議で、スペインがEUに対して財政支援要請をし、これに対してEUは支援することを決定しましたが、それと同時に、EU加盟国の一つキプロスもEUに対して財政支援を要請しました。メディアは、EUで4番目の経済大国スペインの財政支援に話題が集中し、人口80万人の小国キプロスについては「EU加盟国17か国の中で5番目の財政支援要請国」と紹介されるに過ぎませんでした。

しかし、先週号の英誌エコノミストは、今回のキプロスの財政支援要請は、金額の規模こそ小さいけれども、この国が財政支援を要請した意味は、ギリシャ、アイルランドやポルトガルのそれと違って、EU の根幹的な問題に影響を与える可能性が高いと指摘しています。

その前に、1983〜1984年に私がエジプトでアラビア語の研修を受けている期間中にキプロスを旅行した時の思い出話をさせていただきたいと思います。 この国は、元々、イギリスの植民地であり、その後、大半の部分は独立し、現在はイギリス連邦国(オーストラリアと同じコモンウェルスの加盟国)になっています。 現地住民はギリシャ系住民とトルコ系住民が混在していますが、主に島の北部はトルコ系住民によって占められ(キプロス・トルコ共和国:これを承認しているのはトルコ共和国だけ)、それ以外の地域にはギリシャ系住民が住むキプロス共和国(世界192か国で承認された国)で構成されています。

当時のキプロスは、かつてのソビエト連邦(現在のロシア)とは目と鼻の先で、多くのロシア人が表向きはバカンスでキプロスに訪れていましたが、本当の理由は、ソビエト国内にある自分の資産を国外のキプロスの銀行にせっせと運び出すのが本当の目的と言われていました。

当時、イスラム教の国エジプトでアラビア語研修を受けていたあの頃の私は、まだ20代と若く、カイロ空港から飛行機に乗ってキプロスに着いた時は「お〜!! あの砂漠のアフリカから脱出して、とうとうヨーロッパに来た!」と仰々しく感動したものでした。 更に、感動した?!といいますか(興奮してしまったというのが正しいのかもしれませんが)、滞在したホテルのプライベート ビーチに出た時のことです。 何と、ビキニ姿の女性のほとんどが胸もあらわにトップレスでビーチに横たわって日光浴をしている姿に、私は度肝を抜かれ、目のやり場に困り、顔はそちらを見ないように違う方に向けても、目だけはいつの間にかそちらにくぎ付けになってしまっている自分に気づき、ホトホト困ったことを思い出します。

さて、そんな他愛のない話はさておき、今日のテーマであるキプロスの財政支援に関してですが、英誌エコノミストは次のように指摘しています。

まず、キプロス政府は、2010年以降のギリシャの財政破綻危機の煽りを受けて、キプロス国内第2の銀行の財政支援を行ってきましたが、それでも資本が足りず、昨年にはロシアから2.5bnユーロの資金支援を受けて銀行再建に取り組んできました(ロシアが資金支援をする理由は、先ほどもお話しましたが、キプロスにはロシア人金持ちや政府要人の預金が大量にあり、キプロスの銀行が破綻されては自分たちが困る為)。

そもそも、キプロスは人口80万人、GDPは僅かに18bnユーロとギリシャGDPの10分の1しかなく、支援要請額も10bnユーロとESM(European Stability Mechanism:ヨーロッパ安定機構)の支援能力500bnユーロから見れば僅かですが、今回のキプロスの財政危機にはEUの根幹的な部分に関わる問題を含んでいます。

といいますのも、キプロスの財政状態は、今でこそ、年間の財政赤字は国家予算の6.3%で、財政赤字の残高はキプロスのGDP対比72%となっていますが、2008年にキプロスがEUに参加した時には、財政赤字は3.5%しかなく、しかも財政赤字の残高も59%と、EU加盟の条件であるマースリヒト条約(財政赤字3%、財政赤字の残高はGDP対比60%)をクリアしていたのです。 にもかかわらず、僅か4年で財政支援を要請するまでになってしまったところに、EUの根幹的部分であるマースリヒト条約そのものの正当性とその有効性に疑問を投げかけています。

更に、問題を困難にしているのは、先月末に、EUは域内の銀行の管理監督の一元化に同意しましたが、その管理監督のルールを決めることが如何に困難かを、キプロスの銀行は示しています。 といいますのも、キプロスの銀行の規模は、キプロスのGDPの7倍もあり(ユーロ域内の平均的な銀行の規模の2倍)、これらの銀行を支援するために、ヨーロッパ北部の国々の国民の税金(具体的にはドイツや北欧の国々の税金)を投入せざるを得ず、当然のことながら、彼らにすれば「何故、自分たちと関係のない人々の預金(キプロスの場合は、主にギリシャ人の預金とEUには関係のないロシア人の預金)を守る為に自分たちの税金を大量につぎ込むのか?」と言った反発が当然の事ながら出てくるからです。

しかも、6月末のEU首脳会議で合意した域内の銀行の管理監督については、ECBがその全ての管理監督の責任を負われることになりますが、 「本当に、ECBは資本支援を必要とする銀行の細部のどこまで把握できるのか?」といった基本的な問題があります。

前月末には、EU首脳会議の合意を受けて大きく反発したユーロですが、こうした合意内容の実効性を検討してみた時、「ユーロは、再び、実効性のない政策を打ちだしたに過ぎない」ことをマーケットは見透し、先週末のユーロ急落に関してはECBが政策金利を引き下げたこともありますが、ユーロは再び他通貨対比、売られる時間帯になりつつあります。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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2 comments on “キプロスを小国と侮ることなかれ!?
  1. ペルドン より
    キプロスを侮るな・・見かけは小さくとも・・すぐ大きくなる

    キプロスに・・
    過ぎたる物・・銀行・・
    と歌われた・・
    今は・・過ぎたる債務・・

    希臘の植民地めいた・・キプロスの銀行・・
    希臘国債を・・膨らませたお腹に抱えている・・不動産投機もある・・
    例によって・・
    詳細が発表されず・・その大まかな数字も・・手入れされていないのか・・不明・・

    露西亜を横目に・・ユーロの悩みが・・増え続ける・・・

  2. あしゅ より
    素晴らしい!

     ぐっちーさんともCRUさんとも全く異なる着眼点とその詳説…
     ロイターにもbloomberg(英文字にしたのはぐっちーさんへの配慮のつもりです(笑))にも、(日本版では)触れられていなかった(か、大きな国では無いので、私が見落としたか)重要な点と思います。
     有料会員でなくて申し訳ありませんが、ブログのみでも本当に面白いです。ありがとうございます!
     欧州問題の出口が見えない原因の一端が、こんなとこにさえ、深〜くあるのですね…

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