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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2011/09/11 10:14  | 昨日の出来事から |  コメント(9)

国債は円安誘導の為に発行するものではありません!


最近の円高やスイスフラン高に対して「円安(もしくはスイスフラン安)にしたければ、それぞれの国債を大量に発行すればいい」といったメチャクチャな暴論が、私の身近でも行われている事に強い違和感を覚えます。

そもそも、それぞれの国が発行する国債は、その国の歳入がその国の歳出に不足した場合、その不足分を補うためにやむを得ず赤字国債を発行するものです。 つまり、本来の国債発行の目的とその役割は、歳入不足を補うために借金をするのであって、為替水準の云々は全く関係ありません。 従って、自国の価値を下げる為に国債を発行して、この国の価値を下げて為替安に誘導する議論は、本末転倒も甚だしいと言わざるを得ません。

更に、ドイツとスイスでは、国債の発行に関しては、憲法で厳しくその発行条件が規定されています。 「じゃあ、憲法を変えればいいではないか?!」おっしゃる方もいるかもしれませんが、ドイツやスイスは、第一世界大戦後処理の多額の賠償請求に耐えきれずに超ハイパーインフレが起こり、その為に経済が壊滅した苦い経験からこうした憲法条項が出来たのです。 こうした歴史的背景を無視して、目先のスイスフラン高を是正する為に憲法改正すると言う議論は、論点のレベルがあまりにもずれており、とても国民の賛同を得る話ではありません。

それでも、百歩譲って自国の為替水準を安くするために国債を大量に発行したとしますと、どういうことになるでしょうか。 まず、本来は借りる必要のなかった借金に対して、その金利を支払わなければいけません。 「現在は借入金利が低いのだからそれでもいいではないか?!」という人もいるかもしれませんが、ゼロではありませんので、やはり本来は支払う必要のないコストがかかることには間違いありません。

更に、無駄な借金をして、何もしないで置いておくならまだしも、その内、いろいろと話をこじつけては、とんでもないものにお金を浪費し始めます(これは、歴史の証明するところです)。 例えば、 あの忌々しいバブルの時期に、この国が何をしたかを思い出していただきたいのです。 国民生活の向上と将来の為と称して、日本国中に、日帰り温泉施設を作ってはカラオケ コーナーを設け、静かな山間のウグイスや美しい山鳥の声をかき消すように、「昭和枯れススキ」をガナリ立てては吠えるように謳われて、何が国民生活の向上ですか?

あるいは、中身も何もない文化会館等のハコものばかり作り、その地域で一番立派な建物と言えば、県庁や市役所となって、それの何処が国民生活の向上ですか? 挙げ句には半径100km以内に飛行場を2つも3つも作ってどうするんですか?!

結局、無駄な借金をすれば、それにたかる政治家や業者の私腹を肥やすだけで、一般国民にはその所得配分の恩恵を受けることが出来ず、不公平や格差が拡大するだけで何もいい事はありません。
そして、最終的には自分たちが浪費に浪費を重ねて作り上げた大借金を、子や孫の代にその返済を押しつける行為を、本当に、まともな人間として、そのような事が許されるでしょうか?! 
自分が飲み食いしたツケ払いを子供や孫に支払わせておきながら「お墓は守るように!」と言った処で、誰が面倒を見るでしょうか?!

一方で、視点を変えて、今回、政府の言う「円高で困っている事業者」について考えてみたいと思います。そもそも、「円高で、困った、困った」と言っている人に、「じゃあ、何処まで円安になればいいのか?」とアンケートで聞けば、何の事はない、自分たちがその年の予算で設定していた為替水準まで円安になってくれればそれでいいだけの円安なのです。それって、結局のところ、「自分の都合で為替水準を言っている」だけに過ぎず、 そこに「何か長期的なビジョンがあって、それを達成する為にどうしても円安である必要があるのだ!」といった議論は全くないのです。

私に言わせれば「現在の円高で、どうすれば国内産業の空洞化が起きないようにできるか」?という命題そのものが間違っているのです。 産業が空洞化するのは、過去の円高のファンダメンタルズや現在の世界経済、そして先進国の置かれている状況を考えれば、止むを得ないことなのです。 しかも、それは日本に限らず、世界の先進国共通の問題でもあるのです。 

そうした現状認識をきちんとした上で、「じゃあ、我々は何をすべきか?」の議論をしないと、「ああ、昔の円安の頃に戻ってほしい」と言うのは、現実から目を逸らした「ないものねだり」に過ぎません。

それでは「現状を踏まえたうえで何をすればいいか?」と言えば、円高対策と称して、実質的には選挙目当てのバラまきばかりするのではなく、これから社会人になっていく子供たちの教育(外国語の教育と世界に通用する数学や理科などの基礎知識)をつけさせることに大量の資金を配分すべきです。 そして「日本の国内だけでなく、世界中のどこでも仕事を見つけて、活躍出来る人材を養成すべき」なのです。 これこそが本当の円高対策です。

例えば、今、私の住んでいるオーストラリアでは、多くの小学校が日本語を教えています。 また、中学になれば、中国語、ドイツ語そしてフランス語を教えています。 その理由は、この国の社会の仕組みとして、大地主や、オーナー企業の子孫はそのまま、農場や事業を継承しやすい仕組みになっていて、所謂「金持ちはいつも金持ち」なのです。 その一方で、「金持ちでない」一般の市民は、どうすればいいかと言えば、自分で仕事を見つけて稼ぐしかないのです。 

元来、農業と鉱山以外には、さしたる産業のないオーストラリアの「金持ちでない」一般市民の子供たちは、英語が母国語であることを武器に、更に日本語、中国語、ドイツ語等の語学勉強に力を入れ、数学や理科の基礎知識をしっかり身につけて海外で仕事を求めていきます。 そして、若いうちは、海外で仕事をしてお金を貯めて、定年後は自分の故郷であるオーストラリで年金生活をする事が彼らのライフ パターンになっているのです。

日本の若者も、近い将来、オーストラリアの若者のようになるのではないでしょうか?
国は、こうして海外に自分の仕事を求めて出て行く若者を積極的に支援すべきです。

そして、もういい加減に円高対策と称して、税金をバラまくことはやめるべきです!
更に、「円安にするにどうしたらいいか?」等といった「ないものねだり」の議論で時間を浪費するのもやめるべきです!

その分、将来の子供たちの為の語学教育や、基礎知識習得の為に税金を使い、彼らが、外国で積極的に仕事を得て、生き生きと活躍できるように社会が支援する仕組みに変革すべきです(といいますか、本当は、もっと早くから、そうすべきでした!)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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9 comments on “国債は円安誘導の為に発行するものではありません!
  1. tadao@Santa Barbara より
    スカッとしました

    全くその通り、読んでスカッとしました。

  2. ベルドン より
    さりながら・・

    修正出来ない・・
    我が国・・
    それとも・・
    かすかな・・希望を持ってみますか・・・?

  3. 円高対策?

    日本国内のみならず、海外で活躍できる人材育成が必要との所論は賛成である。しかし、すべての日本人がそのような選択ができる訳ではない。また、海外で活躍した後で帰国して年金生活するというが、その年金は誰が払うのだ?海外で高所得を得て、金を貯め、年金は日本に残って仕事をしている人達の所得をあてにする?そういう人材が海外で高所得を得たら、現地政府に納税した後で日本にも納税する?そもそも年取って年金生活するにしても、目ぼしい産業が空洞化し、納税者が減れば国家が衰退して医療その他生活インフラも維持すらできなくなる。質の悪い外国人ばかりになって帰ることもできなくなる。この意見には、何か肝心な部分がすっぽり抜けおちている。

  4. 前橋 より
    ヤマモト シゲル  様

    いつもお世話になります。

    ヤマモト シゲル 様の質問が当然出てくると思っていました。

    その答えは、オーストラリアの所得税制度にあります。

    日本では、海外で働けば、所得税は、その働いているところ(国)で税金を納めることになっています。

    しかし、オーストラリアのように、多くの若者が海外で働き、所得を得ている国では、世界中のどこにいても、全てのオーストラリア人は、オーストラリア政府に対して税金を支払うことになっています(ここが日本の所得制度と大違いです)。ちなみにアメリカ人も同様です。

    更に、所得を得た後の、金利収益、キャピタルゲインに対しても、その年の所得に加えた総合課税方式なのです。
    (日本のような分離課税ではありません)。

    従って、海外にいるオーストラリア人もアメリカ人も、海外でたくさん稼いだ分だけ、自国政府に所得税、社会保険料をたくさん払っているのです! ですから、リタイヤ後に自国に戻って、年金暮らしをしたからといって、政府の重荷になるのではありません!
    (何故ならば、彼はきちんと自国政府に対して税金を納めてきましたから)

    寧ろ、政府としては、海外でたくさん稼いで税金をたくさん納めてもらう方が、有難いでのです。

    一方で、オーストラリアの若者の中には、国内にとどまる若者も多くいますし、国内にいてもそれなりの仕事はあります。

    しかし、やはり自己のスキルの低い若者は、所得の低い仕事しか得ることができません。

    それゆえに、オーストラリアの若者は、仕事をしながらでも、自己のスキルアップに余念がありません。また、政府もこうしたスキルアップを積極的に支援しています。

    どうか、今の日本の既存の仕組みの延長線上で物事を考えるのではなく、既存の仕組みをも変えていくことを前提に物事を考えないと、こうした根本的な問題解決はできないと思います。

    このことは、これまでの政権が、既存の制度の延長線上で「変革」を言って来ましたが、それらが全て破綻してしまっていることからも明白です。

    貴重な御意見、ありがとうございました。

  5. 裁定不能 より
    専門能力の内外価格差と日本の英語教育

    エンジニアと医者の所得は日本と欧米で2-3倍の開きがあります。特にエンジニアに関して言えば、発展途上国と比較しても尊敬の程度が日本は著しく低いのが実情です。

    日本が加工貿易立国で成り立っていく以上、人材移動の裁定を働かせないためには、従来どおり故意に英語を出来なくさせる国策を変えることはないのではないでしょうか。

  6. 鳴沢 より
    年金は必ず貰えるものではない

    原則的には保険料を支払わないと年金は貰えないと思いますが。
    時代に合わせて、自立した生き方ができる教育は必要だと思います。
    様々な事情で出来ない弱者には、社会保障が必要でしょうが。

  7. st より
    放漫な財政

    どうしてこんな放漫財政を続けたんでしょうか、なぜ歯止めが掛けられなかったんでしょうか、今度の震災と原発事故でほとんどの国民は財政破綻を実感する事になった、これから身分相応の暮らしに変えていかないといけない、この方がなんか落ち着ける気持ちもある、贅沢な暮らしよりも文武両道に励む暮らしのほうが充実しているのは明らか、テレビよりはインターネット、戦争と原子力と麻薬には絶対手を出さない、希望と解放感と生きてる悦びを感じる大切さが分かればいいと思います。

  8. 一般の製造業者 より
    お金しか考えていない

    このままでは日本は老人と子供だけの
    過疎の村になります。
    海外で働いて日本に納税?馬鹿らしい。
    あなたは日本人が家族と暮らせない
    「出稼ぎ大国」にしたいのか?
    それとも日本は捨てなさいとでも?
    伝統文化は?国防は?政治家の無能さは?
    税金の無駄づかいは?そのまま放置ですか?
    財政破綻した国が貨幣を輪転機回して
    刷りまくり、そのツケを払わされているだけ
    。歪んだ円高は断固是正すべき。

  9. 前橋 より
    一般の製造業者様

    いつもお世話になります。

    お言葉ですが、オーストラリアやアメリカでは、海外で若者が仕事を求めて行く時は、自分の家族を連れて行きます。したがって、従って、老人と子供だけの過疎の村ということはありません(老人だけならわかりますが、、、)。

    また、過疎の問題は、人口減少の問題であって、日本の若者が海外で働くからといって、人口が更に減少するとは限りません。家族を連れて海外で働いて豊かかな暮らしをすれば、日本人の子供の数は増える可能性は十分にあります。

    また、「日本を捨てるのか?」とおっしゃいますが、海外で仕事を求めて働くことの、何処が「日本を捨てる」事になるのでしょうか?

    自分の可能性とよりよい機会を求めて海外で仕事をすることは、むしろいいことではありませんか?、私は、この点について非常に理解に苦しみます。

    また、オーストラリでは、海外に若者が働きに出かけても、国防はしっかりしています。
    日本の国防(自衛隊)の必要人数が、海外に若者が働きに出かけたからといって人員が不足するほど大量な人数は必要としていません(アメリカのように軍事大国を目指すのであれば別ですが)。

    更に、オーストラリアでは、多くの若者が海外で仕事をしても、オーストラリア人の愛国心と彼らの伝統を重んじる精神は、世界トップクラスです。それに比べて、多くの日本人の若者は国内にいますが、彼らの愛国心は、先進国諸国の中で最も低水準にあります(こうした問題は、教育の問題であって、若者が海外で働く(もしくは国内で働く)かは関係ありません)。

    また、政治家の無能さについてのお話ですが、これこそ、円高、円安の問題とは、全く関係ありません。 

    また、税金の無駄遣いについてですが、これまで円高対策と称して、ばらまいてきた税金こそ無駄遣いでした。 これまでの円高対策の結果、それで円安になりましたか?
    私が申し上げたかったのでは、今までのような円高対策を今後も、だらだらとバラマキ続けるのではなくて、たとえ時間はかかっても、本当の意味での円高対策をすべきだと申し上げたいのです。

    前橋

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