2010/11/25 05:59 | 昨日の出来事から | コメント(1)
ジャパン シンドローム(The Japan syndrome)
今週号の英誌エコノミストにジャパン シンドローム」と銘打って18ページの特集が掲載されていましたのでご紹介したいと思います。 と言いますか、書かれている事はこれまでにも既に指摘されている事であり、読者の皆様は「あ、またか、」と少々うんざりされるかと思いますが、お付き合いください。
まず、今の経済の停滞とデフレの根本的な処にあるのは、少子高齢化にともなる人口減少であるとしています(読者の皆様は「そんなことは、言われなくても周りを見渡せば分かる!」とおっしゃると思われますが、ここからが、いつものエコノミスト節が始まります。
(1)労働人口の減少について
現在、日本の労働人口(15歳から64歳)は、1995年には8,700万人でしたが、2050年ごろには5,200万人にまで減少し、この水準は第2次世界大戦後の日本の労働人口であり、「2050年頃の日本のGDPは、このまま推移すれば、インド、ブラジル、インドネシア、メキシコ、そしてトルコに追い越される」とのゴールド マンの試算を紹介しています。
今のご時勢は「2番じゃあいけないんですか?!」に象徴されるように、日本のGDPが将来的に何番であっても、そんな事はどうでもいいのかもしれませんが、それでも、何とか日本のGDPを下げないようにするための処方箋として、英誌エコノミストは「一人当たりの生産性をあげて労働人口の減少分を補う必要があり その為には、労働者のスキルを上げるか、賃金を引き下げてより競争力のある製品を作って海外に売り込む。」とお決まりのセリフがでてきます。 教科書的には、そうかも知れませんが、読者の皆様、これをわが身に当てはめてみたらどうなるでしょうか? 例えば、「スキルを上げろ!スキルを上げろ!」と言われても、何をどうすればいいか分かりませんよね。 じゃあ、仕方ないから「TOEICでもやるか」となりそうですが、それはやらないよりはましかもしれませんが、そんな事をしてスキルを上げてもそれが報われる仕事をしなければ、意味がなく生産性も上がりませんよね! こうした英誌エコノミストの指摘は、一般論的には正しくても、その具体性となると色々と問題があり、ただ読んでいる人を不愉快にさせるだけの議論の様な気がします(私は、正直イライラしました)。
また、「企業が国際的な価格競争力をつけるために労働者の賃金を下げろ!」と言われても、「何で、そんなことに自分が付き合わなければいけないのか?」と読者の皆様は釈然としないと思います。 更に、「規制緩和をして新規企業活動をやりやすい環境を作れ!」と続きます。 ですが、これも小泉内閣の時に問題を抱えながらもそれなりにやった規制緩和の結果が、郵政民営化の実質再国有化議論であり、非正規雇用を製造業まで拡大した結果が、今や、全ての労働者の3分の1は非正規雇用者となり(男子18%、女子は約50%)、労働者格差社会を生み出す結果となっています。 今、国民に「規制緩和」を、再び訴えようものなら選挙では勝てません。
また、更なる処方箋として「労働人口減少を補うために、女性の労働市場への進出を促進せよ!」とし、日本の企業文化(男子中心の企業体質)の改善を強く訴えています(そんな事は言われなくても分かっていますが、これをどうすれば改善できるかについては書かれていません! 特に、昨今のようにポストがどんどん削減されていく中で、ただでさえ男子だけでやっている厳しいポジション争いに、更に女性も参加してくると益々競争が激しくなるので、既得権益者(男子正規雇用者)が、これを何が何でも女性に開放しないのもある意味、分からない話でもありません。たとえ、それが企業の最適且つ効率的な労働環境でない事と分かっていても)。
挙句に「退職者の年齢を65歳まで完全に引き挙げよ」とありますが、これも教科書的には正しいし、そうあるべきなのでしょうが、現実問題としては「ただでさえ、若者(特に将来、家庭を持たなければいけない男子)の正規雇用がなかなか確保出来ず、あるいは大学卒者の3割以上が就職できない今のご時勢にあって、そんなことをすれば、益々、若者の雇用が確保出来なくなってしまい、世代間格差の問題を更に助長しかねません。
(2)社会保障負担の問題について
労働人口の現象は、社会保障負担の問題に直結してきます。10年前は、4人の現役労働者が、一人の65歳以上の社会保障(医療、年金、福祉、雇用保険)を負担していましたが、10年後には、2人で1人のお年寄りの社会保障を負担しなければなりません(OECDの平均は4人で1人のお年寄りの社会保障負担)。 また、1990年の日本全体の社会保障額は11.5兆円でしたが、2010年には27.2兆円に達し、その70%以上を65歳のお年寄りの社会保障費に充てられている現実は、あまりにも無茶苦茶で由々しき事態です(こうなることが分かっておきながら何もしてこなかったツケと言ってしまえばそれまでですが、かく言う私も、あと10数年後には65歳になってその仲間入りをし、この数字を見て複雑な気分になってしまいました。 これでは、65歳以上のお年寄りになる事に罪悪感すら覚えてしまいます)。
そのくせ、65歳から受給できる年金の金額ですが、平均的モデルで退職前所得の47%しかもらえません(ちなみに他の先進国では退職前の72%が年金として支給されます)。個人事業主や専業主婦の様に国民年金だけの受給であれば、御存じのように年間84万円しかありません。 先程も述べましたが、日本の65歳以上のお年寄りは「国の社会保障全体の70%以上を使っている!」と言われて肩身の狭い思いをした挙句、 年間84万程度の年金だけを支給されて、「これでどうやって生活するんじゃあ!?」となるわけです。 ここに至って、現役労働者も年金受給者も誰もが不幸な今の日本社会の姿が見えてきます。
ところで、この社会負担の財源ですが、大半は赤字国債であり、御存じのように日本の国債発行残高は900兆円を越えています(これは何も社会保障費だけではなく、道路やいらないダム、飛行場、そしてその他諸々のバラまきも含まれます)。 幸いにして、その調達財源の95%は国内から調達されており、ギリシャやポルトガルのように、赤字国債原資の80%を海外から調達しているわけではありませんので、早々に昨今のギリシャやポルトガルのような事態になることは考えられませんが、しかし、今の日本のような安定的な調達が未来永劫に出来る訳ではありません。 このまま財政赤字の垂れ流し状態が続けば、将来、必ず、いずれかの時点で調達が困難になり、破綻する危機が訪れます。
(3)少子高齢化が消費者需要を低下させる問題について
少子高齢化は、消費者の需要を減退させます。 これをGE ジャパンの社長によれば「年寄りは早く寝るので電気を使わない! また、旅行もさほどしないので、特に航空機会社に打撃を与える。 唯一、(年寄り向け)健康関連の電気製品は売れるが、その売れ行きは緩慢である。 何故ならば、年寄りは新しいIT技術に適応する事にはあまり関心がない」だそうで、 読者の皆様の中には、苦笑された方もいらっしゃるのではないでしょうか。 私も、悔しいですが、幾つか思い当たる節がありました(既に私は年寄りか?!)
このように、人口が減って消費者の数は減ってくるわ、その中身が年寄りばかりになってくると、企業としては、新規の工場を立てることを躊躇います。 何故ならば、戦後の日本の高度成長期のように、人口が増え、若者の数も増えてくる時代であれば、多少、工場設備や労働者が余っていても、近い将来に需要が拡大することでこれら余剰設備等を吸収する事が出来ましたが、今は、少しでも余剰設備があれば、これを閉鎖する(あるいは労働者を解雇する)方が、より効率的であると企業は考えます。 また、少しでも手元資金に余裕があれば借金の返済をします(何故ならば、表面上の金利は殆どゼロですが、それでも深刻なデフレの為、実質金利は高い状態ですので、借入を返済するのは正当な行動です)。 おかげで、今、日本の企業部門の手元資金はGDP比10%まで現金を持っている状態(キャッシュ リッチ:Cash rich)であり、今後も現在のような人口減少と、円高と低い経済成長率が続けば、15年後には企業部門のネットの借り入れはゼロになるとの試算もあります(つまり、優良企業の銀行からの借り入れがゼロになり、銀行から資金を借りているのは、銀行から借金をし続けないと倒産する可能性のある効率の悪い企業、所謂、「ゾンビ企業」だけとなってしまいます)。
(4)結論
英誌エコノミストは、結論として、日本は、このままの状態が続くと「東(アジア)のアルゼンチン」になると警告しています。 アルゼンチンは、20世紀初頭には南アメリカでもっと豊かな国で、アルゼンチンの首都ブエノスアイレルは南アメリカのパリと言われるほど繁栄し、1929年には世界5位の富裕国でしたが、その後は軍事クーデターと経済混乱を繰り返す時代が続き、IMFの統計によれば、2008年のアルゼンチンのGDPは約31兆ドルで、その経済規模は神奈川県並みに留まっています(一人当たりのGDPは14,413ドルで世界ランキング29位)。 そしてご存じのように2001年にはアルゼンチン国債がデフォルトしました(これにならって、日本も50〜70年先にはデフォルト?!「まだまだ、先の話!」と笑わないでください。 今、日本には40年債国債も発行されているのですから)。
最後に、英誌エコノミストは、東のアルゼンチンにならない為にもこう締めくくっています。
「今の日本が抱えている問題は、将来的には先進国の直面する問題でもあり(特にドイツ、フランス、イギリス)、日本がこれにどう対応していくのか注目されている。 この問題の解決の為には、何よりも日本の政治家のリーダー シップの下、誰もわからない領域に踏み込まなければいけない」と、綺麗事をいっては拍子抜け気味に終わっています(日本の政治家のリーダー シップの下、誰もわからない領域に踏み込む事など、今の日本の政治家にのっけから出来ない事を知っておきながら)。
ここからは、私の個人的な考えですが、何とかすれば、「東(アジア)のアルゼンチン」ではなくて「東(アジア)のオランダ」になれないものかと考えています(願っています)。
と言いますのも、御存じのようにオランダの繁栄は16世紀にイギリスとスペインが世界の覇権をめぐって英西戦争(1586−1604年)の最中に、漁夫の利宜しく海上貿易に進出し、17世紀初頭に東インド会社を設立して海上帝国を築き、繁栄を極めたのでした。 その巨万の利益の投資先のなかったオランダは、あの有名なチューリップ バブルを引き起こし、黒のチューリップ(実際にはそんな球根はなくペテン)の球根1個で一軒の家が買えるほどの狂乱バブルとなり、そのバブルが崩壊して、経済は大打撃をこうむります。 更に、イギリスがスペインに勝利を収めた後、今度はイギリスと海上支配権を巡って3度の英蘭戦争をして、オランダは敗北して、世界の檜舞台から引きずり降ろされたのでした。 現在のオランダのGDPは6,789億ドルで世界ランキング19位です(一人当たりのGDPは40,431ドル)。
これって日本と似ていませんか? 日本も、第2次世界大戦後の東西冷戦の最中、漁夫の利宜しく世界の檜舞台に躍り出て、1980年台には世界第2位の経済大国まで繁栄して大幅な貿易黒字が積み上がり、行き場のなくなった手元資金と銀行の過剰融資で日本の土地バブルが起こり、銀座4丁目で一平方メートル当たり一億円と途轍もない値段まで高騰した後、1990年代初めにバブルが弾けたのでした。
今の日本の一人当たりのGDPは34,115ドルで、このまま何もしなければ「東(アジア)のアルゼンチン」となって、一人当たりのGDPは14,413ドルとなる可能性があります(現在の半分以下)。 一方で、色々と大変でしょうが、うまくして「東(アジア)のオランダ」になれば、一人当たりのGDPは40,413ドルまで引き上げる事は十分可能だと私は思います。
その為の方向性は、オランダや他のヨーロッパ諸国が苦労しながらも歩んだ自由貿易主義であり、規制緩和でした。 日本もこれしかありません。 ましてや、日本は、オーストラリアの様に鉱業資源があるわけではないのですから。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “ジャパン シンドローム(The Japan syndrome)”
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おぉ・・当方・・死亡・・
前橋さんも・・ぐっちーも・・多分・・死亡・・もしくは・・死亡同然・・
その予測には・・
不可避の・・科学の発達が・・入れられていない・・
四十年後・・英エコノミスト・・存続しているのか・・・??