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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/09/26 05:06  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

世界に広まる日本発の低利回り


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

農林中金がどれ程浮かぬ顔でビジネスをしているか想像するのはとても難しいかもしれない。農林中金は、1世紀前に日本の農家から預金を集め、そしてお金を貸す為に設立された共同組合である。今年の初めに、農林中金が、リスクの高い企業に金を貸す為の資金プール(CLOS: collateralized loan obligations)の貪欲な買い手とわかるまでは、世間から注目を浴びる事はなかった。 農林中金は今年の6月末時点で76bnドル(日本円で約8.1兆円)を保有している。

この農林中金のとっぴな行動はある教訓を示している。その一つは、金利が、これまでの日本のように長期間ゼロ近辺で推移すると、通常の収益源が十分に確保できなくなる。 その一方で、長期的に収益を押し上げなければならず、その為に利回りが高い危険な海外の証券を買う事になる。何も農林中金に限ったことではない。日本の銀行や保険会社は、社債の投資適格(BBB)の債券同様に、CLOSのAAA格の大手買い手であった。

これは、偏に債券の利回りがマイナスになっているせいである。9月19日の日銀の理事会が開催された時、現在の-0.1%の政策金利の引き下げは予定されていない。しかし、逆に政策金利の引き上げは長期間に亘り見たことがない。日本の金利が低位で長く貼り付けば張り付くほど、他の国の金利の上昇も困難となる。金利収入に絶望的な日本の銀行や生保の債券買いが、他の国の金利上昇に蓋をし続けている。

1980年に資本の自由化が行われて以来、日本による世界資産の支配が続いている。1990年には、ニューヨークのロックフェラー センターや、カリフォルニアのゴルフ コースであるぺブル ビーチのようなアメリカの象徴的な不動産を買い漁った。そして、1990年代はアメリカのIT企業の株を買い集めた。両者は、その後、酷い目に合うのだが、それでも日本の外国株の買いは経常黒字が積み上がるにつれて増加し続けている。

日本は世界で最大の債権国である。純海外資産(政府、家計、企業が保有する海外資産から外国に対する負債を引いたもの)は約3兆ドル(日本円で約320兆円)に上り、この国のGDP対比約60%である。その事が、世界の資産市場に影響を与えている。2012年以来、日本の経常収支は、債権、負債共に急激に増大し、日本の投資家は、資産を買うために外国から多額の借り入れをしている。

こうした日本のインパクトは、アメリカやヨーロッパの社債クレジット市場では、最大の関心事となっている。退職者に定期的に支払を続ける必要がある日本の年金や生保は、他の世界の同業他社と同様にある程度の利回りのある債券に飢えている。 しかし、利回りを確保する事は、日本の銀行の悪あがきによって殆ど絶望的である。債券の利回りがマイナスになれば、資金を調達して政府に金を貸すこと(国債を買う事)は非常に厳しい。高齢化と高い貯蓄によって、民間の借り入れ需要は殆どない。だから、銀行は苦しんでいる。昨年、金融庁が出したレポートによれば、日本の地方銀行の半分は貸し出しビジネスで損をしている。

ヨーロッパの利回りはアメリカの利回りよりも低いが、通貨リスクをヘッジした後のスワップ利回りでは、日本への投資が魅力的である。殆どの通貨ヘッジは1年未満であり、その多くは3か月である。そのヘッジ コストは外国の通貨の短期金利借り入れコストにリンクしている。イールド カーブが順イールドであれば、その通貨は理想であり、収益を上げる事が出来る(短期で調達するコストは低く、長期で運用する利回りが高い為)。こうした理由から、通貨ヘッジをした日本の投資家は、短期金利が比較的高いアメリカよりもヨーロッパの社債やクレジット債を好んで買っている。

ヨーロッパやアメリカの地元の投資家は、ヨーロッパやアメリカの社債が、まるで安全資産(国債)と同じように扱われていることを嘆いている。 デフォルトするかしないかを分析しているアナリストの努力は無駄である。その債券に価値があるかないか関係ない。こうした状態は異常である。アナリストの一人は「日本の買いは、クレジット リスクに関係ない」と愚痴をこぼし、「彼らの関心事は、その表面利回りだけである」。

また、別のアナリストは「日本は、一例に過ぎない」という。低金利におけるその過程は、他の先進国にも当てはまり、他の債権国はそれに追随し、またそうした動きから逃れられない。この日本の問題は、他の国にも直接影響を与えている。お互いがお互いに世界の資本市場に影響を与え合っている(自己増強的に金利上昇を押さえ込んでいる)。こうなれば、それ以外の事はあり得ず、他に予想も出来ない。日本の農家や漁師がいざというときの為に預けた預金がアメリカやヨーロッパのレバレッジのかかった買い上げ資金に使われていると誰が考えるだろうか?

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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