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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/08/20 05:35  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

返り討ちにあう米ドル?!


おはようございます。

先々週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

フロリダに拠点を置くSouthern Shrimp Alliance(南部エビ協同組合)は関税に注目している。彼らは、外国の競争相手が補助金(税金)で対抗していると繰り返し述べてきた。そして今、彼らは新しい事を表面化させた。それは、商務省が為替操作国からの輸入に対して関税をかける事を可能にする法案である。エビなどの甲殻類の漁業者はこの法案に熱心になっている。

歪めた為替レートに不満を持つアメリカの企業は、早晩、強力な武器を持つかもしれない。人工的に自国通貨を弱くすることでアメリカに損害を与える国々をトランプ大統領がツイッターで厳しく非難して数週間後、金融アナリストたちは、財務省が為替安定基金(ESF: Exchange Stabilization Fund)を使うかもしれないと憶測している。民主党の次の大統領選候補Elizabeth Warren氏も、また、シンクタンクPeterson Institute for International EconomicsのJoseph GagnonやFred Bergstenの提案を引き合いにして、輸出を守るためにドルを管理することを要求している。

これに対し、一部では「一理ある」という人もいれば、他国の通貨操作は必ずしもドル高の理由にはならないとの見方もある。 IMFが7月17に出したレポートによれば、ドルは6~12%割高であると述べているが、同時に、為替介入は、ここ数年、禁じ手であったことも述べている。アメリカの財政赤字とドイツやオランダのように財政に厳しいスタンスの違いこそが、ドル高の犯人であることは明らかである。

現在の為替の対する不満は見当違いであるけれども、為替操作を抑制する多国間のシステムも実に意味がない。2007年にIMFは、中国がGDP対比10%の経常黒字を生み、毎日2bnドルの米ドル資産を購入していたにもかかわらず、中国の為替操作国の宣言を控えた。将来の為替切り下げ競争に備えていたとい点では悪い考えではなかったのかもしれない。

しかし、今、ワシントンの周りで出回っている提案は悪意に満ち満ちている。商務省の提案は、たとえ人工的な通貨安でなくても為替操作国宣言を可能にするものである。外国の企業に不公平を要求している企業は、間違いなくロビー活動を強めている。

BergstenとGagnon氏が提案している手段は、トランプ大統領に金融武器を持たせることを可能にするものであり、それは危険であり、彼のどんな武器でも使いたがる性格は、貿易戦争を戦うための道具となる。彼らが考えている事は、財務省がESFを使って他国が行っている為替介入と反対の事を行って中立化させるものであり、初期段階において介入を阻む。しかし、これには数兆ドルの資金が必要であることは間違いない。現在のポートフォリオは9.5兆ドルあり、その内2.3兆ドルは既にドルである(資金的に余裕はない)。

更に、単独行動は他の中央銀行の報復を引き起こすかもしれない。ESFを管理していた前財務省高官Mark Sobel氏は「もし、投資家が安全資産を求めてドル資産に流れれば、為替抗争はかえってドル高を招くかもしれない」と懸念している。スタンダートチャーター銀行のStephen Englander氏も「アメリカの政治家は、介入をやった後、自分がどう感じるかを考えるべきである(介入後の効果を考えるべきである)」と述べている。更に、このスキームの介入では不人気の通貨を買う事になる。Bergsten氏とGannon氏によれば、彼らのスキームは財務省の資金で割安通貨を買いあげる事になる、その資金でヨーロッパや日本のマイナス利回りの国債購入する事は、即、損を実現することになる。

気を付けなければならないもう一つの理由は、ただでさえ脆くなっている多国間システムを更に劣化させる可能性がある。前政権では、為替レート安くして輸出している国の輸出品は国が補助金を出しているのと同じであり、自国通貨を割安に操作している国からの輸入品に関税をかける事を検討した。 しかしそのような行為はWTO違反であるとして思いとどまった。逆に法を犯す危険、あるいは報復関税といった問題を招くかもしれない。しかし好戦的なトランプ氏は、そんなことは気にしていない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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