2011/11/15 06:04 | 昨日の出来事から | コメント(2)
EU委員会の草案は格付け「D」!
今週号の英誌エコノミストに、EU委員会内で今、検討されている金融改革草案に関する記事を掲載していましたのでご紹介したいと思います。
昨年来、ギリシャ問題、そして、PIIGSと言われる国々の財政危機に関する格付け会社による格付け変更に振り回されてきたEUとしては、先週のフランスの長期格付け変更の誤送信に至って、その不満がピークに達したようです。
EU委員会が現在検討している様々な金融改革に関する草案には、主要格付け会社(ムーディーズ、S&P,そしてフィッチ)に対して、ヨーロッパの国や企業に対して「格付けを変更する際にはESMA(European Securities and Market Authority)に事前に届けさせる」、あるいは「ダウン グレードを禁止させる」、極めつけは「格付け行為そのものを禁止する」等の案が出されています。 この他にも、EU委員会では、ヨーロッパ内の株式の空売りを制限し、更には、デフォルト スワップ マーケットを厳しく取り締まる案等も検討されています。
昔から、ヨーロッパに限らず日本でも、戦(いくさ)の際、相手の使者を射殺することは「恥ずべき行為」とされていますが、今、EU委員会の考えているこれらの案は、「本来、市場に対して信用の度合を伝達する使者である「格付け会社」を射殺する行為」と英誌エコノミストは厳しく批判しています。
その一方で、格付け会社の方でも、サブプライム ローンを担保にした証券化商品では極めて杜撰な格付けを行い、その後のリーマン ショックに至る過程で本来の格付け会社の信用を大きく毀損しました。 更には、今回のフランスの長期格付け引き下げ誤送信事件に見られるように、格付け会社の資質そのものが相当落ちてしまっている事も事実です。
更には、本来の業務であるこれらの格付け会社のヨーロッパの国々の格付けも非常に歪んでいます。 例えば、フランス国債が、ドイツ国債よりも150bpも売られて取引されているにもかかわらず(金利が上昇しているにもかかわらず)、同じ最上位の格付け(AAA)とはどういうことか? また、ヨーロッパの他の国々の格付けは、ヨーロッパ以外の地域の同等の財政状態の国々に比べて6ノッチ近くも格付けが高いのは何故か? 等など、色々と問題はありますが、かといって、EUが、格付け会社に対して、投資家が望むそれぞれの債券や企業の信用度を公表することを制限し、あるいは格付け行為を禁止することは、いくら何でも馬鹿げています。
こうした批判を受けて、EU委員会としては、これらの格付け会社に対抗するために独自の格付け会社の設立も検討しており、その新しい格付け会社(パングロス:Pangloss)という名前の会社で呼ぶことにします(その言葉の意味は、「饒舌的で楽観的」という意味です)。 このEU委員会の鳴り物入りで出来た新しい格付け会社パングロスは、EUのご意向に沿った格付け行為を行う筈ですのでEUにとっては都合のいい格付会社かもしれませんが、それは自己欺瞞に過ぎず、ヨーロッパ以外の投資家は(場合によっては、ヨーロッパ内の投資家も)、誰も相手にしないに違いありません。
最後に、英誌エコノミストは、「今回のEU委員会の金融改革に関する草案を格付けすれば、それは格付けD(desperation and disingenuousness: 自暴自棄かつ腹黒)」であると切り捨てています。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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2 comments on “EU委員会の草案は格付け「D」!”
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格付け会社を・・
格付けする・・
格付け会社が必要になるか・・
にしても・・
英は・・
欧州に対し・・相変わらず・・辛辣ですね・・・
いろんな手で格付け会社を騙そうとするわけだから、その上を行く分析能力を持たないといけないわけで、サブプライムローンや大王製紙やオリンパスの経済事件を見ていると分析にも大きな限界があるんでしょうね。