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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/07/09 05:40  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

通貨戦争前夜?!


おはようございます。

先々週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

2010年、ユーロ圏では財政赤字問題が取り上げられ(ギリシャ問題)、ユーロは対米ドルで1.45ドルから1.19ドルまで急落した。その後、アメリカでは、間髪を入れずFRBによる量的緩和IIが発表された。これは偶然のことであったのだろうか?ユーロ圏の多くの人々はそう考えていない。というのも、良く知られていることであるが、QEIIの意味する処はドル安誘導を意味しているからである。こうした政策に対する不満はヨーロッパを越え、ブラジルの財務大臣Guido Mantega氏は、自国が国際通貨戦争の中にいると発言した。今、再び、アメリから不満が起こっている。6月18日、ECB総裁マリオ ドラギ氏が、ポルトガルのSintraで「ユーロ圏の経済が改善されないならば、更なる緩和政策をとる」と述べた。これを受けて債券の利回りは低下した。通貨ユーロも同様に下落した。これに対し、トランプ大統領は、ツイッターで「不公平な為替操作である」と述べた。 また、今月初め、トランプ政権の財務長官ムニューシンが、中国の為替政策に対して警告を発し、「もし、中国が人民元を買い支える事をやめれば、人民元安になると思われるし、そうすべきである」と述べた。

しかし、お互いの(為替に関する攻撃の)拳銃は再び拳銃ケースに収まった。先月末の大阪のG20サミットでは、トランプ氏と習近平氏が「少なくともこれ以上貿易戦争を悪化させない」ことで合意した。貿易休戦は為替レート戦争の言葉の応酬も控えなければならない。 しかし、それは長く続かない。今や、金利は低く、財政出動は債務の多さから制約がかかっている。そうなると、景気を引き上げる為の数少ない手段は、通貨安しかない。現在の低い経済成長の世界は、通貨戦争前夜である。

ドラギ氏の懸命の努力にもかかわらず、世界の為替参加者の関心は、米ドル対人民元であって、米ドル対ユーロではない。人民元は、世界の為替レートにおけるプレゼンスが高まっており、更には、金融市場にまで及んでいる。中国は、2015年8月以降、ある程度のマーケットからの圧力に対して柔軟に対応してきた。しかし、それは、対ドルに対してかなりタイトなレンジで維持してきた。こうした小さな変動が問題なのである(中国政府が介入している)。中国にとって貿易相手国の大手はユーロ圏であり、人民元の乱高下を抑制してきた。対米ドルの人民元の相場は重要な政策判断になっているように思われる。もし、人民元はレンジを壊れるようなことがあると、他の通貨も共に安くなるであろう。

中国政府は、人民元がそのレンジを越える事に対して、手を打つ準備をしているのかもしれない。BNY MellonのSimon Derrick氏は。これについて2つの事例を提示している。一つは、5月後半に、有名なSouth China Morning Postに掲載されたアメリカとの貿易に関する記事である。それは「中国政府が人民元に対して固執している事は、通貨の柔軟性であって、輸出に有利になる事ではなく、安定性を確保することである」。しかし、こうした考えにアメリカは共感してない。もう一つは、6月7日の中国人民銀行の総裁Yi Gang氏がBloombergに対して「柔軟な通貨とは、経済を自動的に安定させることである」と述べた。また、彼は、人民元に red line (越えてはならない為替水準)は設定していないとも言っている。

通貨戦争に対しては、全く混乱したロジックがある。勝者とは、通貨価値が下がる通貨である。そのような競争では、投資家は、(通貨が売られた)ボトム水準では敗者を支持する(安くなった通貨を買う)。相場の混乱期には、投資家は円、スイス フラン、金に逃避する。これらは戦争懸念が起こると相場に現れる。米ドルは、今の先進国の基準でいえば高金利であり、経済も強い。従って米ドルは強い。しかし、成長が失速する時、金利は下がる。他の要因がゲームの中(為替相場の中)に入ってくる。ソシエテ ジェネラルのKit Jucker氏は、「これらには貿易収支や通貨価値の議論等」も入って来ると述べている。

特に円は際立っている。日本は経常黒字である。また、円は物価勘案後、例えば、弊誌エコノミストで大まかな指標として使っているBig Mac インデックスから見て安い。スイス フランも大量の経常黒字に裏付けされているが、こちらは通貨としては高い。金は、ドル以外にあまりいい選択肢がないが故にその対象として検討される。

2010年に、安い米ドルはアメリカ以外の全ての人を立腹させた。そして、今、高い米ドルが、アメリカ人、少なくともトランプ大統領を悩ませている。現在の緩やか通貨戦争において、アメリカは被害者と加害者の両方である。Juck氏は「もし、あなたが、あなたの最大の貿易相手国と貿易戦争を始めれば、相手は、自国通貨を安くし、あなたの国の通貨を強くするであろう。もし、トランプ大統領が安いドルを望むのであれば、貿易平和宣言をすることが一番いい方法であろう。さもなければ、アメリカは自ら通貨戦争に突入するリスク(自ら痛手を被るリスク)を負う事になる。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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