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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/06/07 05:26  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

イギリス、次の痛手は!?


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

イギリス人は、自らの持っている“不文”憲法に誇りを持っている。アメリカ、フランス、ドイツは物事を白黒はっきりさせるルールを必要とする。議会の根底には、アイルランドの独立問題を除いて、クーデターや、革命、市民戦争もなく、民主主義が300年以上も花開いてきた。その政治は、最高権威の議会の下、伝統や、慣習、そして法律を進化させてきた。その安定した政治によって、イギリスは、その政治スタイルが、何世紀にも亘ってその根本に横たわってきたcommonsense adaption:良識の採用の上に築かれてきたことを世界に示してきた。

しかし、こうした考えは時代遅れとなっている。Brexitの嘆かわしい考えは、連合王国の憲法を揺るがす一本のダイナマイト爆弾になってしまった。そして、弾頭には憲法改革の難しさが備わって、弾頭の信管を外すのは殆ど困難となっている。やがてイギリス人は、今後、採用されるイギリスの憲法を見た時、それが、混乱に満ち溢れ、世論は分断され、連合王国そのものを危機にすることに気付くであろう。

メイ首相が保守党のリーダーを辞任した3日後の6月10日に、彼女の後任レースが正式に始まる。候補者の中には、有利に進めているボリス ジョンソン氏がおり、彼は、EUがイギリスの望むことを与えないならば、10月31日に強制的な離脱をすると宣言している。12.4万人の保守党員は、感情や自分たちの意思だけで、国民の代表にふさわしくない首相を選び、国を分断している今回の問題を解決させるであろう。

更に悪いことに、イギリスの最高権威である議会が、何の取引もなしにEU離脱を決定すれば、イギリスは一層苦しむことになるであろう。議会は、何の交渉もせずにEUから離脱する、しないに関わらず、一層策謀だらけになることは間違いない。イギリス憲法は、首相や議会が何をやっても不確実なものになる。また、EU離脱に関してどう選んだとことで、やはりイギリスの憲法は不透明になる。

こうした不透明さの背景には、イギリス憲法が無数の法律や伝統やルールの中で右往左往してきた事実がある。今週号で我々が述べているように、議会の投票や下院のスピーカーの問題発言でいとも簡単に修正されている。これは、殆どのイギリスの国会議員が、拙速稚拙な判断に走り、民主主義のルールそのものを失いつつある。恐らく、彼らは、これまで自制することに慣れてしまっていたからであろう(党の方針に従う事だけに慣れてしまっていた)。しかし、ここ数十年、自由民主主義が揺らいだとき、イギリスのリーダー達は、民主主義が発する警告を忘れ、不注意にもイギリス憲法全体を見直ししようとしている。

前首相トニー ブレア、デービッド キャメロン両氏の下、議会は、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドを維持する為に、人々に直接国民投票をすることに力を注いできた。こうした方法は、これまでも良く言われ、また望ましいとされてきた。しかし、その結果が、イギリス憲法全般に与える影響について誰も考えを持っていなかった。

結果に対する混乱は、Brexitにおいても顕著であった。国民投票はEU離脱を承認したが、その詳細については後回しになった。イギリスの離脱は決定的になったが、イギリスが取るべき形は全く違っていた。イギリス国会議員は国民投票の結果を尊重しながら、イギリスの国益をどう最大にすべきかについてはっきりしていない。他の国ではこうした失敗を避けている。アイルランドでさえ国民投票は控えている(結果に対する方針が決まっていない為)。しかしイギリス憲法46条ははっきりしている。議会が詳細までしっかり議論して通過した法案に対してのみ、国民は投票する。 イギリス人は、今回の結果が、どれほど神経質なことであるか考えていなかった。

Brexitそのものが、王国の統合に脅威を与える事によって、更なる憲法上の混乱の種をまきつつある。EU議会選挙によって、SNP(Scotland National party)が投票のシャアを拡大した。スコットランドは、EU残留に投票し、SNPの代表が、(今回のEU選挙の結果が)UKから離脱することにも勝利したと宣言することも容易に想像がつく。しかし与党を構成しているトーリー党の誰一人、国民投票のやり直しを口にしていない。

王国の分裂は、憲法上の悪夢となろう。というのは、(イギリス憲法には)UK脱退のプロセスがそもそもないからである。スコットランドを維持する為に国民投票を再び行うのは危険である。(次の首相候補の)ジョンソン氏は、イギリスとアイルランドの国境を嫌っている。多くのイギリス国民は国民投票のやり直しを要求している。メイ首相はBrexitが解決するまで(スコットランド問題を)待つようにSNPに要求した。法律的に、ジョンソン首相はスコットランドン人の(UK離脱)キャンペーンを留まらせることは可能であろうか? 答えは不透明である。

EU離脱の行動は、新たな問題を憲法にもたらすであろう。 EU市民が法律的に与えられた基本権利証はイギリスの裁判では通用しなくなる。連立予想のトーリー党の代表ドミニク ラーブ氏のようにこうしたEDの権利を立法化したイギリス国内の法律を破棄したがっている。もし、議会がこれを抑圧するような新しい法律を成立されると、裁判所が不服を申し立てるかもしれない。しかしそれを止める事は出来ない。あるいはイギリス人を干渉するようなEUの判断に不満を持つ選挙民が新たな考えを持つかもしれない。イギリス人の権利を守るための法律を要求する、あるいは間違った憲法解釈を要求するかもしれない。

そして、何といっても最大の悩みはイギリス人の優柔不断さであり、簡単に修正された憲法が、Brexitに費やされた3年間の中で作られた急進的な政治の駆け引きでガタガタになっていることである。Jeremy Corbynと極左であるその仲間は、イギリスを革命する野望をまだ明確にしていない(野望を隠している)。彼らは、経済と公的支出にフォーカスして考えていると考えるのは甘い。彼らは法律を無視している。Corbyn氏の下の労働党政権、あるいは、問題のある人気取り政党トーリー党の保守政権は、議会運営能力に限界がある。労働党は、既に(憲法を改正する為の)憲法会議を要求している。

殆どのイギリス人は、今後の選択について無頓着で分かっていない。恐らく、彼らは物事が安定に向かう特殊な方法があると信じている。イギリス憲法の無限の柔軟性がBrexitの暗黒街から国家を脱出させる打開策を見出すことも可能かもしれない。しかし、もっともありそうなことは、再び多くのごまかしと裏切りの連鎖であろう。

Brexitは、長期にわたる政治的危機であった。それが、今や憲法的な危機になってきている。イギリスは、こうした事態に対してあまりにも準備が出来ていない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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