2019/05/21 05:37 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ボラティリティは友達?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
想像してみて欲しい。 もし、あなたが石油の豊かな国の支配者になったならば、その運命は乱高下するであろう。原油価格が下落すれば国家予算に穴が開き(赤字になり)、王国の資産を売らざるを得なくなる。産油国の中には、他の地域で原油開発が凍結されている地域がある。その地域は1バレル=90ドルになれば採算が取れる。世界には原油価格が70ドルを越えてくるとそうした地域が多くある。そこで、あなたは、原油採掘権を売ることをアドバイスされる。
では、誰がそのライセンスを買うのであろうか?もし、原油価格が少なくとも90ドルを越えるのであればそのライセンスを買う価値がある。しかし、その価値が常に正しいとは限らない。 また、そこに買う義務が生じなければその必要もない。もし、90ドルを越えるチャンスがあるならば、そのライセンスを売ることが出来る可能性がある。また、採掘権のライセンスが長ければ長い程、その価値は高くなる。究極的には採掘権の値段は、原油価格がどれほど大きく変化するかにかかっている。つまり、値段が変化すればするほど(ボラティリティが高ければ高い程)、その採掘権が収益を上げる水準にまで上昇する可能性が高い。
ボラティリティ(値段が乱高下する事)は、通常、悩ましいものである。人々は、収入の安定を望んでいる。例えば、収入については同じ方法で安定的に得たいと感じている。従って株価が飛び跳ねるのは不愉快の源となる。しかし、もしあなたがcallオプションのように義務を伴わない権利を保有しているならば、話は違ってくる。むしろボラティリティは歓迎すべきこととなる。
良く見てみると、前述の仮想の原油採掘ライセンスは、金融取引でいう処のcall オプションの特徴を持っている。Call オプションとは、ある決められた償還日に1バレルのある価格、あるいは一定の株価指数でその資産を買う権利である。Call オプションの保有者は、もし価格が権利を引き受けた価格(ストライク プライス)よりも上がっていれば儲かる。この保有者は、このストライク プライスで買う義務はない。保有者は、そのオプションに関心があれば(買いたければ)、そうすればいいだけである。原油採掘権を買う人は、本質的にはその価格で原油オプションを買うのと同じである。もし、原油市場が90ドルを越えてくれば儲かる。もし、原油価格が90ドル以下であり続ければ、価値はなく、オプションは無価値で償還される。
その一方で、オプション価値を計算する事は、厄介なビジネスである。その中身のキーとなるブラック=ショールズ モデルの価格計算式は、時間的価値、ボラティリティ、そしてストライク プライスと現在の価格の差によって計算される。価格差が小さければ小さい程、価格差が大きなものに比べて、価格がストライクする可能性が高いためコストは高い。Call オプションのストライク価格が、現在取引されている価格よりも高い時、それはout of the money と呼ばれて、取引価格は安い。値段が激しく上下動すればするほど、out of the money のオプションが、仮想原油採掘権のように償還前にストライク プライスにあたる可能性が高くなる。
ボラティリティを予想することが、オプション価格の要となる。よって、オプション価格は、VIX(ボラティリティ インデックス)の値段などを使ってプレミアムが計算される。そのボラティリティは、株式インデックスのオプションで実際に市場取引されている値段から導き出される。オプションで取引される多くは、put オプションであり、これは、putオプションの購入者が、例えば、代表的な株式指数であるS&P500の資産を売ることが出来る権利である。 callオプションとは反対に、所有者は株価が下落した時、儲かることが出来る。Out of moneyの保有者は、保険の意味合いを持ち、市場が暴落した時、損失を相殺できる。
金融市場においては、どんな局面でも、トレーダーは、市場内のミス プライシング(理論とかけ離れた値段)を探している。ブラック=ショールズ モデルは、こうしたミス プライシングを見つける仕組みである。Fisher Blackが死ぬ2~3年前、彼は「The hole in the Black Scholes」という本を出版した。 ここで展開されている大きな前提は、ボラティリティは周知であり、かつ一定であることになっている。あなたは、過去の数字を使って正しいオプション価格を計算できる。しかし、将来において、価格がどう変動するかは誰にも分らない。ましては、ボラティリティがどうなるかもわからない。その結果、何か心配事が起こると、VIXは急上昇する傾向がある。Blackはこうした流れに沿ってディーリングすることを勧めている。もし、ボラティリティが上昇すると思うならば、オプションを買うべきである。逆に、ボラティリティが下落すると思うならば、オプションを売るべきである。そして、彼の著書の中で、彼はout of the moneyのオプション価格はボラティリティが少し上がるだけで、急上昇することを示している。
この事は、誰でも知っている。 トレーダーから文筆に転じたNassim Nicholasは、不動産におけるout of the moneyについて彼の見解を述べている。その価格は、明朝時代のガラスの花瓶、あるいはpriced-for perfection 株のように、余りの不確実性の多さによって、正しい値段が成り立たない。つまり、原油採掘権でも、株価指数であっても、他の不確実性が増加すれば全く別物になってしまう。確実なものは「Antifragale:他に影響を受けないもの」と言ってTaleb氏は、それを本のタイトルにしている。必要なことは、不確実なものを取り除き、ボラティリティだけを取り出して売買することである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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