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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/10/25 05:16  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

今、債券相場で心配しているのは誰?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題と称して世界の債券市場の現状に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

1990年代の世界の債券市場では、国の財政が悪化することに対して非常に警戒的に見る投資家が多く存在した。例えば、1990年代のアメリカの財政赤字の増大に対して、世界の多くの投資家は警戒的であった。

しかし、あれから20年後の現在、世界の債券市場は全く変わってしまった。特に2008年の世界的な金融危機以降の主要国の(アメリカ, 日本、EU各国, スイス、イギリス)のGDPに対する国債の発行残高は、当時の3兆ドルドルから18兆ドルまで6倍にも増大したが、国債の利回りは非常に低く、その多くは1%以下であり、マイナス利回りの国債まで存在する。また、エマージング国の国債の発行ですら容易となり、例えば、先週にはサウジアラビアがエマージング国の国債としては過去最大のUSD175bn(約17.5兆円)の国債を発行した。

また、運用サイドでも、年金や生保は、自らの負債とマッチングさせるために多くの国債を保有しているが、利回りがマイナスになったからといって売る事はしない。それどころか、本当の処はもっと国債を買いたいのである。市中銀行も同様である。彼らは流動性確保の為に国債を保有し、更には短期的な資金の借り入れのための担保として国債を保有している。

結果として、国債は機関投資家にとって安全なものであり、不測の事態に対する避難場所になっており、彼らは国債を保有し続けなければならないのである。更に、中央銀行が、積極的に国債を保有する事は、機関投資家にとって、国債を保有する事は現金を保有することと同じ意味を持つ。ピムコのチーフ エコノミストJoachim Fels氏は、こうした状況をみて「国債を保有する事は、資本の代替であって、資本に対するリターン(投資)ではない」と述べています。 特に、ドイツや日本の2年未満の国債の利回りはマイナス金利であり、このことを如実に表している。

しかし、現在のような新しいスタイル債券市場には、様々な問題を抱えている。例えば、かつてのように投資対象として国債を保有したい投資家(富裕層やミューチャル ファンド等)にとって投資対象がなくなり、債券がいつまでたっても安くならない(彼らは債券が安くなれば買いたいと待っている)。その結果、彼らは信用の低い高い利回りの債券に手を出し、格付けの低い社債やエマージング国の国債を買っている。 

更には、利回り欲しさに償還の長い債券にまで手を出している。ファンド マネージメント会社Salman Ahmed of Lombard Odierによれば、ヨーロッパの投資家の保有国債のデュレーションは2008年以降で6~7年長くなっている。 更に、僅か0.5%の利回りを上げる為に、非常に長期のデュレーションの国債を保有し、「そのマーケットリスクがとてつもなく大きくなっている」と指摘している。

また、違った面の問題としては、債券市場における流動性が非常に落ちている点がある。最近では2013年にFRBがテーパリングを表明し、Fedが国債買い入れ額の減額を行った際、2015年にドイツ国債の利回りが急騰した(価格が急落した)。また、銀行も大量の国債を保有しているので、保有国債の価格が大きく下落すると、それを自己資本に反映させる必要が出てくる。また、債券市場のディーラーの側にも問題を抱えている。現在のディーラーの在庫として保有しているポジションの大きさは、2008年までは社債市場全体の2%以上の保有能力があったが、現在はその10分の1以下にまで落ちている(投資家に対して流動性を供給できる能力が極端に落ちている)。

こうした状況において、投資家が大量の債券を売却したいと判断した時に債券市場は買い手が殆どおらず、債券価格は暴落することになる。あるいはFedが市場の期待以上に政策金利を引き上げた時には、債券市場の利回りはそれ以上に上昇する(価格が下落する)。同様の事がECBや日銀でも同様の事が起こる(事実、今月、ECBに対してそのような懸念(これ以上国債の買い入れ増額を行わないのではないかとの懸念)が出て金利が上昇した)。あるいは、クレジット マーケットでも(金利の上昇が)起こるかもしれない。現在、エマージング マーケットの社債の半分以上は投機的もしくは投資不適格になっており、かつ、その割合が増え続けている。

ピムコのエコノミストJuckes氏は「現在の債券市場は非常に脆弱であり、余りにも、世界経済の低迷と低インフレを織り込み過ぎている。その結果、何かの変化に対してそれを吸収する余地が全くない。現在の債券市場を脅かしているのは、実は、自分たちが現在やっている事そのものである」と述べています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “今、債券相場で心配しているのは誰?!
  1. パードゥン より
    中国の高笑いが近い?

     誰ですかね  中国が危ないとか言ってたのは
    国債なんて不履行にできる国の勝ちですね

     自由主義圏にとっては大問題では?

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