2012/02/29 05:57 | 昨日の出来事から | コメント(4)
プルースト インデックス!?
今週号の英誌エコノミストに「プルースト インデックス;Proust Index」と称して、先進国が2008年以来、経済的にどれほど時間が逆戻りしてしまったかを表した指数「プルースト インデックス」に関する記事がありましたので、ご紹介したいと思います。
彼らが計算根拠とした景気指標は、主に3つあり、まず、家計の富(主に金融資産と不動産)、次にその国のGDPと民間部門の消費、そして最後に実質賃金と失業率です。 これらを使って時間的にどれだけ逆戻りをしたかを表しています。
その結果、先進国では、ギリシャが2012年から12年強も逆戻りして1999年頃に位置し、続いてアイスランドが約12年逆戻りして2000年頃、それに続いてアメリカとポルトガルの10年で2002年頃、イギリスやスペインは8年前の2004年頃に位置しています。 そしてフランスが約5年前の2007年頃に位置し、最も時間が逆戻りをしていないのはドイツの2年で2010年頃に位置しています。
ただし、これは静態的に捉えたのであって、フランスが意外と健闘しているように見えますが、そうではなく、フランスの場合、今後、時間の逆行が益々加速していく可能性があります。 その一方で、アメリカは既に時間の逆行が止まって、再び、時間が前に進み始めています。
以上は、主に先進国に当てはまる話ですが、世界全体で見てみますと、過去5年間に経済の時間が逆行してしまった国は、EU27カ国中22カ国ありますが、一方でラテンアメリカ32カ国中、僅かに12カ国しかありません。 また、発展途上国では、118カ国中、20カ国だけが景気の時間が後退しました。
ちなみに、私達の日本は、1990年のバブル崩壊後の失われて20年で一体、どこまで時間は逆戻りしてしまったのでしょうか。
英誌エコノミストは、日本についての記載はありませんでしたが、現在の日本の株価に関していえば1980年代前半、 また不動産に関しても1980年代前半の水準ですので、ものによっては私達の景気の時間は失われた20年どころか、30年近くも逆戻りしてしまっています。
読者の皆様の中には、「別に、景気の時間が逆戻りしても構わないではないか。 何故ならば、未来永劫に経済が成長し続けることなど、あり得ないのだから!」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。 確かに、マクロ的にはそうなのですが、その事を我が身に照らし合わせてみて、「私のように50歳を過ぎた時点で、30年前の餓じい(大阪弁で「ひもじい:貧しい」)思いをしていた頃に逆戻りされたら、それは骨身にこたえるなあ〜!というのが実感です。
マクロ的に景気の時間がある程度は逆行するのは致し方のないこととしても、何も30年も逆行することはないのではないか?! せめて10年程度にすることは出来なかったのだろうか?! 当時の円高とその対策として行った日銀の金融緩和政策の中に、その答えがあるように思えてなりません。
もし、その答えとして、これまでの日銀の表向きは金融緩和政策と言いつつ、実質的には(あるいは結果としての)デフレであったとしたら、それは二重の意味で大きな過ちを犯している事になります。 即ち、バブルの時には、日銀は時間を例えば10年も進めてしまい(金融緩和の「やり過ぎ」)、その後のバブル崩壊後は、逆に時間を10年も余分に巻き戻しし過ぎたのではないかと(金融緩和の「やらな過ぎ」)。
そして、こうした過ちを犯さないための一つの答えとして、日本もそろそろ金融政策をインフレターゲット的な目標数値を基準とした金融政策に徹する必要があるのではないでしょうか(先月の政策決定会合でその兆しが出てきましたが)。 オーストラリアの中央銀行RBAのある意味で機械的に、かつ機動的に金融政策を淡々と運営している姿を見てそう思います。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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4 comments on “プルースト インデックス!?”
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二度・・
重大且深刻な失策を犯した日銀(大蔵省)が・・
三度目は成功させるだろうか・・?
更に十年遅らせるのでは・・
せめて・・
肉体的にも・・過去に・・タイムスリップ出来るものなら・・・!
資源国のオーストラリアと資源国ではない日本を比較するのはあまりにも単純な議論ではないでしょうか。
日本のデフレは購買力の減少が主因であり、これは(物理的な国境と言語的な国境に守られていた)生産性の低い企業がボーダレス化とITCの導入による合理化によって淘汰され、日本国内の雇用と給与が減ったこと、そして高齢化による社会保障費の増大がその原因だと思います。
この高齢化と生産性の低さは金融緩和で対応できる問題ではないので、円高対策として金融緩和を行うのは合理性があると思いますが、インフレターゲットという形で対応するのは未来の禍根を残すと思います。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
ご指摘の事、ごもっともでございます。
ただ、私の申し上げたかったことは、意思決定を行う人の裁量が大きいと、一度、判断した決定は、なかなか本人自身では修正しづらく、逆に益々それを正当化せる政策判断をする傾向があります。
それは、何も日銀の政策決定に限らず、政府の決定(例えば、東日本大震災後の政府の対応)、、更にもっと根本的なところでいえば、今や、完全に機能不全に陥ってしまった日本の年金や医療の社会保障制度の仕組みなどなど、これらは典型的な裁量行政の極みであり、その結果は、読者の皆様もご存じの通りであります。
こうしたことを踏まえて、今後、同じ轍を踏まない為に何が必要かといえば、裁量の幅を出来るだけ少なくする仕組み、あるいは、事前に社会で合意形形成した「出来るだけ単純な仕組み」をベースに、政策決定の基準のウエイトをもっとかけるべきではないかということです。
逆にいえば、日本はあまりにも裁量判断による政策決定が多すぎです(すべてと言っていいほどです)。
今回の「平成維新の会」が打ち出した「維新八策」もこうしたあまりにも多すぎる裁量決定に対する一つも方向性を示しているように思います(特に、ベーシック インカム導入に関する政策)。
また、いただいたコメントの中に、オーストラリアが資源国であるとか、日本はそうでないかといったご指摘がありましたが、それぞれの国の事情を配慮することは当然ですが、その一方で「政策決定をする際に裁量がどれだけ働いているか?」という議論は別のことと私は考えます。
貴重なご意見、ありがとうございました。
前橋
丁寧なお返事をありがとうございます。
今記事を読み直して見ましたが、本文中には「裁量的」という言葉が全く入っていませんでしたので、「金融緩和をすれば景気が良くなる」という意味で書いておられるのだと思っていました。
行政における裁量的な決定が(民間企業が行政の顔色を伺うという意味も含めて)経済活動を停滞させるということであれば、オーストラリアと日本を比較することについては何の問題もありません。
「裁量行政」という観点では、「自分たちには自分たちのやり方がある」と言うことで、自滅しているフランスに似ているとも思います。