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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/10/19 05:49  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

次の景気後退にどう対応すべきか?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ちょうど1年前、世界はこぞって景気拡大を享受していた。先進国はイギリスとエマージング国を除いて経済成長した。世界貿易は急上昇し、アメリカではブームが起きた。景気後退に陥っていた中国のデフレは
鎮圧され、ヨーロッパでさえ経済成長した。 しかし2018年に入って話が違って来た。先週、今年に入って2回目の世界的な株価下落によって投資家は世界経済の失速とアメリカの金融政策を心配している。こうした心配は既に周知のとおりである。

2018年の世界経済の問題は、各国の方向性にバラつきがあることである。アメリカのトランプ大統領は減税によってアメリカ経済を年率4%まで上昇させた。失業率は1969年以来の低い水準にまで低下した。それでも、IMFはアメリカ経済が今年に失速すると考えている。

アメリカと世界の他国との違いは金融政策の違いでもある。連邦準備は2015年12月以来8回も政策金利を引き上げた。ECBは最初の金利引き上げに相当時間がかかりそうである。日本においては、いまだにマイナス金利である。トランプ大統領と貿易戦争の核心的な存在である中国は弱い国内経済を受けて先週金融政策を緩和した。アメリカが金利を上げても、他のどの国も追随しないので米ドルだけが強くなっている。その事がドル債務を抱えるエマージング市場にダメージを与えている。ドル上昇によって、アルゼンチンとトルコでは既に経済危機に陥っている。更に、先週、パキスタンはIMFに支援を要請した。

エマージング市場の規模は世界のGDPの59%を占めるまでになっている。20年前のアジア通貨危機の時は43%に過ぎなかった。 エマージング市場に問題が起きれば、それは即アメリカにも跳ね返ってくる。もしイタリアが予算を削減できなければ、あるいは中国が激しい景気後退になれば、残りの世界もアメリカの悪化よりも更に悪くなる。

唯一、いい話は銀行システムが10年前の金融危機の時に比べて強固であることである。確かに厳しい景気後退の可能性は低い。また、エマージング市場危機は投資家を苦しめている。しかしエマージング市場の経済は、まだ持ちこたえている。貿易戦争は中国ですら深刻化していない。アメリカのブームは、財政出動と政策金利の緩やかな引き上げによって浅い景気後退すら吹き飛ばして、通常ではありえない10年に亘る経済成長を成し遂げている。

しかし、その事が将来の悪いニュースを招くことになる。世界の先進国は緩やかな景気後退に対応する準備すらできていない。それは前回の景気後退で消耗した事からいまだ回復できていない事情がある。過去半世紀において、Fedは景気後退期には5%程度政策金利を引き下げて来た。現在は、ゼロ金利まで引き下げるにしては、その半分以下の金利水準である。ヨーロッパや日本は政策金利の引き下げ余地が全くない。

勿論、政策担当者は別の選択肢を持ち合わせており、今や馴染みとなった量的緩和と言って準備金を増やす為に市場から国債を買い取る方法がある。量的緩和の効果については議論されているが、もし、それが機能しないのであれば、政策当時者は個人に直接現金を渡すといった、これまでとは違ったもっと革新的なアプローチを試みるかもしれない。あるいは景気後退期間は財政支援がより有効的であるならば、たとえその国が大量の債務を抱えているとしても政府はもっと支出を増やす事が出来るかもしれない。

問題は、こうしたやり方を行うことが国民に受け入れられるかどうかである。中央銀行は、既に過去のスタンダードからかけ離れたバランス シートを抱えたまま次の景気後退に突入する。Fedのバランス シートはGDP対比25%である。QE反対論者は「QEは市場を歪め、バブルなどの様々な問題を引き起こす」と言う。しかし、こうした見解が見当違いであろうがなかろうが、QEという手法はこれまで以上により魅力的なものとして(政策手段の一つとして)検討されるであろう。 しかし、それぞれの国の債務の33%までしか買えないECBにとってより厳しいものになるであろう(EUがECBに対して上限を設定している為)。

財政刺激策は、野党の政治家にとって経済的な議論如何に関わらず、格好の攻撃対象になる。もし、ある国がデフォルトをして、ドイツや他の北ヨーロッパの人々が、自分たちの保有している国債が未払いになることを懸念すると、ユーロでは最も悩ましい事態が再び起こる(過去に起きたギリシャ危機のような事態)。借り入れを制約する事は浪費を制限する事であるが、それはまた景気刺激策を削ぎ落すことでもある。アメリカは積極的に支出をするであろう、しかし、最近ではその支出額がGDP対比4%を越え、経済は過熱し始めている。もし景気後退に立ち向かうために更に財政赤字が拡大すると、野党との対立が起こるであろう。

こうした政治駆け引きは、国際的な行動に対してより大きな障害となる。(次の景気後退では)2008年の危機に戦うために必要であったより大規模な協調体制が必要となる。しかし、人気取り政治家の台頭が、こうした協調体制に難色を示すかもしれない。他国の中央銀行がFedからドルを借り入れることを可能とするFed Lineが引火点になるかもしれない(議会がFedに対して制約をかけるかもしれない)。通貨下落が貿易戦争をより激しいものにするかもしれない。今週、米財務長官Mnuchin氏が中国を「敵対的な通貨切り下げ」と警告した。トランプ大統領は貿易赤字によって被害を受けていると信じているが、経済が強い時には(こうした考えは)過ちとされるが、国内需要が下がった時には、こうした保護貿易主義はより景気を刺激する政策として魅力的になるかもしれない。

タイミングよく行動する事が、こうした事態に対する危機回避になるかもしれない。中央銀行が、危機の最中あるいはその後に取るべき行動から勝手に抜け出すことが出来ない新しい仕組みやターゲットを持つことは可能かもしれない。もしインフレが目標水準を下回った時、あるいは成長が失速した時、中央銀行がそれを回復する為に行動すべきコミットメントが確立されれば、如何なる景気後退期にもその回復期待が自動的に景気刺激を提供するかもしれない。 あるいは、今日のインフレターゲットを上回る金利上昇が起きれば、将来の金利引き下げ期待を提供するかもしれない。将来の財政刺激は、「自動安定化(例えば景気後退期には雇用保険を支払う政策)」の有効性によって社会に受け入れられて行くかもしれない。そうすれば、現在のEUはより景気刺激策を可能にするために(現在の厳しい)財政ルールを緩めることも可能になるかもしれない。

先手を打つことが、政治家にとって何よりも求められるが、今の処、彼らは疑心暗鬼でそこに至っていない。今週の株価急落は、時間があまりない事を示唆しているのかもしれない。世界は、今の処、まだ起こっていない次の景気後退の備えを始めるべきである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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