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2018/07/10 05:55  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

海外投資家が中国国債を買うのは何故?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

1945年5月 John Maynard Keynesは、戦後の世界経済についてメモを残した。 そこには、イギリスは世界貿易の中心的役割を担うべきであると記してある。そうすれば、イギリスは金融だけでなく製造業においても世界全体を自らの遊び場にすることが出来るであろう。我々は自らの債務に対して誠実にかつ長期にわたり良き銀行家だったから、戦前スターリング ポンドの地位を築く事が出来た。

彼は、イギリスの経済力が、スターリング ポンドの優位性の下支えになる事を後世に残した。が、それ以降、イギリスの経済力は衰退する事になった。1945年以降、ドルがスターリング ポンドに取って代わって以来、中国がアメリカ経済を越え、人民元が世界をリードするにはまだ至っていないが、今や、人民元はIMFの準備金通貨を構成している5大通貨SDR(Special Drawing Right)の一つである。 また、現在、中国は資本の国際化を進めている。そして、今年に入って海外の投資家は中国国債の最大の買い手となっている。

このような動きは、人民元が覇権への途を辿っていると考えがちである。しかし、現在の動きがそのまま将来に直結していると考えるのは誤りである。中国国債を買う海外の投資家が、歴史の法則に沿って行動しているわけではない。 寧ろ、彼らはもっと単純な理由で駆り立てられているに過ぎない。

まず初めに、中国国債を購入しやすくなったことが挙げられる。中国にある外国の機関投資家は2年以上の国債を買う事が出来るようになった。また、昨年7月には香港と本土の間に債券リンクさせることにした。それ以降、香港に口座を保有する外国のアセット マネージャーの数は一気に増加した。今年3月には、Bloomberg-Barclaysが、来年から中国を彼らの債券インデックスに加えることを発表した。

次に、債券は、また、固有の長所を保有している。1年前、中国の国債の利回りは、同じ償還のアメリカ国債よりも1.5%高い水準で取引されていた。それ以来、スプレッドは縮小しているが、それでも3.6%の利回りは魅力的である。特に、1%以下で取引されているヨーロッパの国債に比べれば歴然である。

Ashmoreのファンド マネージャー Jan Dehn氏は「中国国債は、また多くの利便性を持っている」と述べている。 それは、価格が他のエマージング マーケットの国債に比べてボラティリティ(価格変動)が少ないことである。中国国債は、ポートフォリオ マネージャーに取ってありがたい。 何故ならば、中国国債は他の国の債券に連動しないからである。中国国債は価格変動を分散させると讃えられている。更に、中国は世界3番目の経済大国であるにも関わらず、海外の投資家は中国国債を殆ど保有していない。

その一方で、懸念材料もある。現在の中国の債務残高は2008年のGDP対比160%から同260%まで上昇している。言い換えれば、与信の急上昇は、ローン金利を引き上げ。しばしば金融危機に結び付く。つまり、「中国が債券市場を開放する事は外国の投資家にその損失を分担させる」と疑うのも当然のことである。Blue Bay アセット マネージメントのZhenbo Hou氏は「海外の買い手は恐る恐る購入し、その多くは中国国債の購入に留め、地方債や企業足は避けてきた」と述べている。最も際どい投資家でも、政策銀行、例えば、中国開発銀行の債券や、大きな地方の銀行の短期債を買うにとどまっている。その割合は全体の2%以下であり、一方で、中国国債は同7%であると言われている。

債券市場の段階的な開放は、一歩ずつ進めている金融市場会改革の一環でもある。中国は、まだ多くのハードルはあるものの、外国資本に対して少しずつより誠実な姿勢を提供している。その一方で国内資金が国内に滞留し、人民元が安定的に推移する事を望んでいる。最大の疑問は、中国は、もし海外の投資家が資本の引き出しを望んだ時、常にそれに応じるかどうかである。しかし、もし外国の債券保有者がより自由に資本を海外に持ち出すことが出来るならば、人民元のコントロールを失うか、あるいはそれを支える為に、経済そっちのけで金利政策(短期金利の引き上げ)を行使しなければならない。こうした局面では、先進国は通貨を自由に変動させることで安定化を図る。そうなると人民元の変動が中国、そして債券保有者に変化をもたらすであろう。

今後10~20年先に振り返ってみた時、今回の政策、あるいは今回の出来事(海外の投資家がこぞって中国国債を買った出来事)は、金融市場の覇権への転換期として指摘されるかもしれない。もしそうであるならば、中国は自嘲するであろう。何故ならば、彼らのその姿は、のらりくらりとしているからである(覇権など意識していない)。そこには過ちもあれば事故もあるし、また反動もある。当面は、投資家はいつものように目先のインセンティブ(リターン)にだけ専念する。少なくとも、今の処、中国の債券を買う機会は増加しているように見える。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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