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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/09/21 06:09  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

どうして投資家は北朝鮮を意識しないのか?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ならず者の国が水爆実験をし、周辺国にミサイルを発射している。これに対し、アメリカ大統領は、もしこのまま脅威が続くならば、(北朝鮮に対して)「炎」と「怒り」の報復を約束した。そして国連の安保保障理事会では討論が凍結されてきた。この様は、まるでハリウッドのスリルある陰謀映画か、あるいは世界が戦争に向かうかのように見えた。

しかし世界の投資家は、朝鮮半島の危機に対して脅される様子もなく、関心のないような態度を取っている。今年の8月以降、金は若干上昇し、アメリカ国債の利回りは低下し、MSCI世界株価指数は下落した。 しかし、その動くはそれほど大きくない。 韓国の株価指数は、確かにこうしたリスクに対して敏感であるが、それでも年初より高い水準で取引されている。

こうした無頓着な動きをどう説明すればいいのであろうか。 考えられる一つ答えとしては、市場は単にこうした政治的リスクをどう評価していいかわかないという事がある。というのも、投資家はイギリスのEU離脱やトランプ大統領誕生の予測を失敗した経験があるからである。

もう一つの答えとしては、投資家はここ数十年間、9.11やイランイラク戦争に始まり、数々の大統領選挙の結果等の地政学的あるいは政治的なリスクは、市場に対して非常に短期間のインパクトで終わる傾向があることを経験してきている事がある。結局の處、経済成長や企業業績がこうしたリスクよりもはるかに重要な要因なのである。トレードを行うためにアルゴリズムを使う投資家にとって、政治的リスクは恐らくその計算過程において殆ど影響がないのである。

しかし、歴史をかなり遡れば、政治的な出来事は、非常に大きなインパクトを金融市場に与えている。例えば、革命以降、ロシアや中国政府は債務不履行となった。 もし朝鮮半島で戦争が起きれば、中国や日本を巻き込み、(北朝鮮の)太った指導者のイベント評価は非常に困難なものになる。そしてこうした事態を考え始めているアナリストも何人か出始めている。

まず、そうした事態になれば、南北朝鮮の人道的コストは非常に大きなものとなり、明らかにこれらの国の産業に大きなダメージを与える。世界経済は、1950~1953年の朝鮮戦争の頃に比べて、これらの国とのつながりは強くなっている。 Capital Economicsは、韓国が世界の液晶ディスプレイの40%を生産し、半導体の17%を生産していると指摘している。もし、日本が北朝朝鮮からのミサイルのターゲットになれば、その経済的混乱は更に大きなものになるであろう。また、伝統的な武器を伴った戦争でも相当影響が出るが、もし、核爆弾を伴った戦争となればその影響は計り知れない。

こうした有り得る恐ろしい可能性に対する投資家の限定的な態度(無関心な態度)は、そのような事態は起こらないと考えており、アメリカも北朝鮮もただ大騒ぎしているに過ぎないと投資家は考えている。つい最近もトランプ大統領は、貿易制裁をツイートしている(具体的な行動に出ていない)。オランダの銀行であるRabo bankは、アメリカの威嚇挑発は信用に値しないと指摘し、中国と貿易関係にある北朝鮮の全ての貿易を制限する事は明らかに限界があると付け加えている。

しかし、だからといって、経済に壊滅的な影響を与える戦争が、政治家にそれを踏みとどまらせる事にならないかもしれない、あるいは他に優先すべきことがあるにもかかわらず戦争をしないということにはならないかもしれない。1909年にNoran Angellは「Great Illusion(偉大なる幻想)」の中で、国家間の戦争は、お互いに経済的なつながりがある為に、不毛な行為である(よって戦争はない)」と指摘した。しかしその5年後には戦争(第1次世界泰然)が勃発した。

20世紀初期には、多くの国々は先祖代々から続く貴族によって支配されていた。故に経済的な問題はそれほど大きな問題ではなかった。一方で、20世紀後半になって、多くの発展国は、自分たちが仕事を維持する為には経済的な成功が欠かすことが出来ないプロの政治家によって支配されている。 最近のアフガニスタンやイラク紛争もかつての朝鮮戦争やベトナム戦争のように世界を巻き込むことはなく、大きな経済的なダメージにはならなかった。このことが、投資家に地政学的な紛争は財や資本の流れを阻害される事はないと自信を持たせることにつながっている。

しかし、ポピュリズムやナショナリズムが台頭する現代にあって、また、アメリカの覇権が中国に脅かされる時代にあって、政治家の思惑は変わりつつあり、以前より、戦争の可能性が増している。しかしその可能性がどれほどのものか計算できない。逆に、投資家が、朝鮮戦争はないだろうと思うのも、単なる見解に過ぎない(何の確証もない)。それは、大衆の英知(Wisdom of crowds)は正しいだろうと祈っているのと同じである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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