ブログ記者によるオンライン新聞 グッチーポスト

The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2018/08/04 23:36  | コラム |  コメント(1)

ジゴロとジゴレット②

僕が中野に棲んでいた頃・・中野といっても区の辺境地で・一足踏み越えれば練馬になる地帯だった。斜め前には程々の公園があり・・砂場やブランコは幼児だった長男の遊び場になっていた。周辺のお母さん方も・・其々子供を連れて集まって・・自然発生的な社交場にもなっていた。

その中で同年齢の男の子と・・長男は気が合ったらしく友達になったが・母親同士も馬が合ったらしく・・子供と同様に一日中公園で顔を突き合わせ・お喋りに現を抜かしていた。

その頃の僕は・・まだ3冊の本を出したばかりで・・駆け出しホヤホヤ・プレ作家の存在だったが・・原稿用紙に向かうよりも・弛んだ体を鍛えるのに無我夢中になって・中野サンプラザのスポーツクラブに日参していた。隙間なく日参していたものだから・・顔なじみになった会員からは・夜の御商売ですかとしばしば尋ねられるのも・珍しくなかった。珍しくなかったから面倒だから・・そうだと答えていた。

その日は新宿の伊勢丹で・輸入物の婦人服セールが始まったから覗きたい・・子連れでは争奪の戦闘に敗れるから・長男の昼寝の後・その友達の家に連れて行って遊ぼせて欲しい・既に了解済みだと奥方に厳命された。釣りあがった目の雰囲気から・・不服を唱えるのは適切でないと判断せざるを得ないと・不承不承呑み込んだ。
一度公園で彼女に紹介された事があったが・・小柄な痩せ型の女性で・良く動く目の輝きだけが・プラスポイントになっていた。なつていたが・・すれ違っても紹介されても・・すぐさま忘却出来る類の平凡な女性だった。

だからお父ちゃんとしては・・気乗り薄のお役目だった。
片手に奥方が書いた地図を見ながら・・長男の手を引きながら・・道なりにクネクネ分かりにくい
場所を詮索し・・やっと辿り着いた。地図がなければ到底見つけられなかっただろう。
目星の家は二階建ての木造アパート・・珍しい程時の流れと風化を全身で表している・・時代物のアパートだった。だが奥方の地図には・・ROYAL HOME と端正な英語が書かれてある。木造アパートの表札は・・劣化が激しいがRoyal Homesと辛うじて読める。

どうしてこれが「ROYAL HOME」 なのか・・現物と英語との誤差が・新米作家の頭脳の中で交差し・・中々一致しなかった。戸惑いに茫然としている父親の手を強く引き・・長男は断言する。
「ここだよ・・間違いないよ。何度も来てるから」

まだ納得出来かねている・・疑い深い父親の手をグイグイ引っ張り・・長男は二階に先導する。
真ん中のドアの前に立つと・・自動的とも言える程・戸がすんなり開いて・
「いらっしゃい・・待っていたのよ」
母親らしいにこやかな笑みが・戸口でこぼれた。コーヒーの擽る様な香りが流れる。その横をすり抜けて長男は・・自分の家の様に勝手に入り込む。それではまた迎いに来ますとか言って・・僕が頭を下げると
「丁度良かった・・コーヒーを入れたばかりですので」
と誘われる。普通なら丁重にお断りするのだが・・コーヒーの鼻腔を擽る旨そうな香りは・慎みを忘れさせる力があった。このウチではどんなコーヒーを飲んでいるのかと・・好奇心が湧いた事は確かだ。気付くと台所と食堂を兼ねた部屋の椅子に座って・・コーヒーを気取って啜っていた。

玄人がいれる コーヒーではないが・・家庭的なおぼこいコーヒーで・厚かましく上がり込んで賞味した甲斐があつた。満足したので帰ろうと腰を浮かせようとした時だった。

「おかぁ様これでいいかなぁ」
甘えた様な男の声が壁から響いてきた。壁はベニヤ板にペンキ塗りが塗られた粗末な造りで・・段ボールを張られた壁よりも響いて・拡声器効果があった。
「そうねぇ・・」
母親らしい太い声が響いてくる。
「もう少し眉を細くした方がいいかしら」
「これぐらいでいいかなぁ」
「バッチリよ・・いい・・口を少し開いて・・そうそう・・その位・・白い歯を見せるのよ・・
そうそう・・それがとてもチャーミーでセクシーだわ。その角度忘れちゃ駄目よ。
坊やのお鼻とても高かったのよ」
「おかぁさまぁ。わかってるたら。お母さま・・最近少し太りすぎじゃない。」
「そうね・・この花嫁衣裳・・少し窮屈になってきたわ。そろそろ洗濯もしなくちゃ」
「おかぁさまは少し食べ過ぎかな」
「わかってるわよ・・
 でもね・あの男・・太めが好きなの・痩せていたら奮い立たないんですって。先週なんて興奮し ちゃって・・危うく胸から引き裂かれそうになったわ」
「ボクのひぃ様は・・痩せてて腹筋が割れているのが好みなんだ」
「坊やはいくら食べても太らないから・・羨ましいわ」
「でも・・
 おかぁさまは花嫁に逃げられた花婿と出会い・ボクは花婿に逃げられた花嫁に出会った」
「そうね・・運命的な出会いだったわ。
 週に三回花嫁と花婿に扮して・・夜のお相手するだけで・お宝をたっぷり授かるなんて・・もの すごぉーくラッキーだわ。坊やはラッキー坊やよ」
「おかぁさまも・・ラッキー・・」
「二人のラッキーが出来るだけ・ながぁーく続くことを祈るわ」
「ぼくも祈るよ・・おかぁ様」
「もうすぐこのロイヤルホームから出て行けるわ・・きっと」

外で車のクラクションが鳴る。
「あっ時間通りね・・坊や出かけましょう」
「おかぁさま・・花嫁のブーケ忘れないで」
「忘れるものですか・・商売道具だから」
親子が擽り笑う声が壁を素通りして・・耳元で蠢動した。それから・・ドァを締める音と廊下をどしどしとあるく太い足音が・・階段を下りていく。

僕は偶然とはいえ・・職業上の秘密を盗み聞きした現場を・押えられたような心地がして・息子の友達の母親の顔をまともに観れなかった。彼女も同じ思いらしく・・こちらの顔を見なかった。何も聞かなかったように・・二人は振舞って僕は「それじゃ」と短く挨拶して部屋から退散した。
まるで不倫を済ませた直後の・・イソイソとした別れ方の様に。

階段を降りるとタクシーが出ていくところだった。タクシーの座席には・・白い花婿姿と白い花嫁衣裳を着た二人が結婚式に出る様に座っていた。日本で初めて見るジゴロとジゴレットの出勤姿を拝観出来た訳だ。
花婿はモームが描いた「スペイン人のような黒い髪に黒い瞳・・体は引き締まって・若さにあふれていた」という描写そっくりだったが・・母親の顔はベールで覆われていて見えなかった・・・( ^ω^)

One comment on “ジゴロとジゴレット②
  1. おののののか より:
    圭様

    そういえば婚約会見の時、いやに世慣れた感じで違和感があったな。今まで不幸にも選ばれた民間人は、それなりのウブさが垣間見られた。圭様はプロの香だ。内親王に魔法をかけていたといえばそうかもしれない。

    なるほどジゴレットが育てたジゴロなんだろうな。誰でもなれるものではない。落人の里の血が流れている、いや出稼ぎに来ているのかもしれない。ぺルドンさんの推定は冴えわたっている。小説に書くのでは。ぺルドンさんには、どうしても太宰治と同じ面白さがあるな。笑 
    しかし皇室となるとパッと消えるわけにはいかない。皇統も長い間にはいろいろある。近い所では維新直前にもあった。圭様は要注意人物なのだろう。

    かっては公然と側室を持てた。それが血統を繋ぐ当然の知恵だった。
    戦後その良き伝統は途絶えてしまった。血統も途絶えかねない。
    マッカーサーの呪いは・・まだ生きているのだろか・・・
    ( ^ω^)

コメントを残す

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。