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The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2017/07/17 11:25  | コラム |  コメント(4)

気まぐれ半十郎⑩

その日は・・籠に揺られて半十郎は・・城下の宿に戻った。まだ湯が沸いてなかったので・・勝手口にある井戸から・・何杯も水を被った。火照った体を・・冷えた井戸水は静めてくれる。

奉行がどんな策を講じているか・・絵図面を見せてくれないが・・まず城下の地図を諳んじなくてはならない。好都合な事に・・宿では・・城下の簡単な案内図を売っていた。隠密の仕事が楽になっている。

正木藩の城下は・・川の水を引き込んだ堀が・・重なるようにあるが・・碁盤目に区分され・・夫々町内を表す名称が付いていた。
宿がある呉服町・・これは大店が並ぶ。寺町・・鍛冶町・紺屋町・
広小路・・大手門近くある内記は・・上士の屋敷町だった。
その一角に・・今を時めく塩見大善の家老屋敷がある。

半十郎は冷やかしに行った。成程新築の立派な屋敷だ。塀で覗き込めないが・・凝った庭が造園中で・・わざわざ京から庭師を呼び寄せているらしい。元は二十五俵扶持・・足軽長屋からここに移るには・・それ相当の袖の下を貯め込まねばならねぇ・・いい気なもんだぜ・・その庭師が隠密とは・・お釈迦さまでも気づくめぇ・・奉行に教えられたのだが・・半十郎は鼻歌を歌いながら・・怪しまれないようにぶらついた。
突然・・木戸口が開き・・数人の職人が表れた。庭師か・・この中に隠密が紛れ込んでいるのかと・・興味が沸いた。一人の若い職人が屈んで草鞋の紐を結び直した。
「江戸の旦那」
職人は低い声で呼びかけた。
「そう露骨にうろつき回れば・・怪しまれますぜ・・かないやせんや・・消えておくんなせぇ」
「おめえ・・江戸者かい」
「旦那は一目で旗本って分かりやすぜ」
半十郎はあたりを見回してから・・財布を職人の股座に落した。
「十両あらあ・・話を聞かせてくんな」
職人が立ち上がった時には・・財布が消えていた。
「用心しねぇと・・首が飛びますぜ」
職人は無表情に呟いた。

職人が教えてくれた飲み屋は・・廓帰りが一杯ひっかける・・百姓家だった。蝋燭だけの薄暗い土間に空の酒樽が並び・・そこに腰かける。魚は川魚の焼き物や野菜の煮物だった。半十郎は隅っこで・・冷酒を飲んでいた。若い庭師がひょろし入って来て・・半次郎と付かず離れずに座った。何も注文しないのに・・爺さんが徳利と煮物を運んできた。馴染みらしい。庭師は茶碗酒を口に含むと・・
「又薄くなりやがった・・水じゃねえか」
とぼやいた。
「ちげえねえ・・八さん・・いくら飲んでも酔わねぇ」
半十郎も相槌を打つ。
「熊さん」
庭師は小声で答えた。
「おめぇさん・・何者だい」
「旗本の次男坊よ」
通行手形を開いた。一目で庭師は読み取った。読み取ったが・・用心深かった。
「常御用じゃねぇのかい」
「おめえは隠し目付かい」
鼻先で笑い・・熊さんは子芋を放り込んだ。
「ここの子芋はうめぇぜ」
「郡奉行と逢って来た」
窺がうように半十郎を熊さんは観る。
「おめぇだろう・・奉行と落とし前・・付けようとしてるのは」
「おいらの意向じゃねぇ・・もっとお偉いさんよ」
「あの奉行何者でぇ」
「切れ者だが・・それだけじゃねぇ・・御先祖と戦したがってる」
「それだけじゃ・・意味分かんねぇぜ」
熊さんは茶碗酒を煽る。
「百数十年前だが・・御猶子様・・大飢饉・・年貢は負からん・・城中が目を覚ますと・・城は領内の全百姓に取り囲まれていた。にっちもさっちもいかねぇ。百姓の言い分が総て罷り通った。首謀者も判らねえ・・藩は泣き寝入り。
十年経った。庄屋の一人が迂闊にも・・家士に一言漏らした。郡奉行様の采配だったと・・もう大騒動よ」
「そりゃ大騒動だな」
「その郡奉行様は・・さっさと腹を切り・・腹痛で死去と届けた。殿は怒りに怒られて・・何しろ郡奉行はお気に入りの御伽衆
・・墓を暴いて首切り。死人の首を切った切った・・と盆踊りに歌われ続けた。
腹痛の御本人は心得ていて・・朱詰めにさせて・・腐らないように・・見苦しくないように・・手配していた」
半十郎は呆れた。
「よく家が断絶ならなかったな」
「次男が後目を次いだ」
半十郎は子芋を口に放り込んだ。
「旨い」
水の様な酒を一気に飲んだ。
「郡奉行の狙いはわかった・・観得た」
それと同時に分からない事も出て来た。
「どうして幕閣は・・この藩に手ぬるいのだ」
「天保九年閏四月の幕府倹約令幕府だよ・・源は。元凶は。お上は・・それを意識されているのだろうよ」
熊さんは続けさまに茶碗酒を煽った。
「これで十両分は喋ったぜ・・後はその面を二度と見せるなよ」
庭師は立ち上がると闇の中に・・消えて行った・・・

4 comments on “気まぐれ半十郎⑩
  1. おののののか より:
    隠密

    誰の管轄だったんでしょう。柳生とか服部を使っていたのでしょうが、当然ぺルドンさんの一族も関係してくるな。笑

  2. ペルドン より:
    おののののかさん

    隠密と書いたが・・
    それは俗語かな・・

    大目付配下や・・
    目付・・若年寄に所属・・知行千石・・下に小人目付・・
    あの手この手の探索方が多く居て・・
    必ずしも・・忍びである必要が無かった・・
    驚く程詳細な報告書が・・全国から幕閣に集まっていたと思いますね・・
    何処に消えたのでしょうか・・??
    幕府は人脈で動いていた・・
    ( ^ω^)・・・(笑

  3. おののののか より:
    うーん

    ぺルドンさんは当事者の本流だからな。全国に張り巡らしたネットワークがあったんでしょうね。腹痛死と届け出たご先祖もチラリと参照。笑 今後も要注目だな。貴重なシリーズだ。甲賀者とはやはりずっと仇敵なんでしょうか。笑

  4. ペルドン より:
    所謂伊賀組甲賀組風魔組以外にも

    三河譜代の黒鍬者・・幕末には400名・・
    居ましたし・・全員一応幕臣ですから・・
    黒船到来の際も・・
    夜・・黒船に忍び込み・・艦状を偵察した覚え書きが残っているそうですから・・相当な実力があったのでしょうね・・
    大藩には常時・・草と呼ばれる今の「モグラ」が当然居たでしょうね・・

    先祖が「モグラ」であったかは・・判りませんが・・三河以来の旗本だった事は確かですね・( ^ω^)・・・(笑

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