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2018/07/03 05:00  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

エマージング マーケットの為替相場


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

想像してみて欲しい。 もし、ミルトン フリードマンが中銀総裁になり、彼が職を失うとすれば、それはあまりにも急速にマネー サプライを増やす時だけである。 あるいは、「Irrational Axuberance」の著者でノーベル賞を受賞したRobert Shillerが同じようなポジションになった時、彼は、唯一、株式市場がバブルになった時だけ失職するであろう。 これは、アルゼンチン中銀の総裁Federico Sturzeneggerが6月14日に辞職のプレッシャーに見舞われた事に対する皮肉である。

Sturzenegger氏は、前ブエノス アイレスのTorcuato Di Tella 大学の教授であった。彼の最も著名な書物は、国家の通貨政策はしばしば実際の政策に対して お粗末な結果を導く」というものであった(彼は、そのお粗末な金融政策をしたために辞任に追い込まれた)。多くの国では、その通貨政策を変動相場に委ねるべきであると主張する。しかし、実際には、自国の為替レートを安定化させるために介入を繰り返している。彼らの行いは、自らの主張に反している。

Sturzenegger氏も同じことをして職を失った。金融市場は彼の通貨政策を理解できず、彼はその信用を失った。アルゼンチンがIMFからUSD50bnの借り入れに合意した時、彼は、金融市場は混乱している時のみ、為替介入をすると発言した。しかし、ペソが新安値を更新するや否や、6月12~13日にUSD665mnのドル売りペソ買い介入を再開し、その結果、ペソは対米ドルに対して5.3%下落し、彼は辞任に追い込まれた。

何故、エマージング マーケットの通貨当局者は為替レートについてそこまで苛立つのであろうか? 弱い通貨は、兎にも角にもその国の輸出価格やその国の資産をより国際競争力を付けさせる(対外的に安くなるため)。そして資本が流出に対しては、金利を引き上げるよりも通貨が下落する方が良いこともある。

唯一、大きな悩みの一つは、インフレである。弱い通貨は輸入価格を押し上げ、価格の安定を損なう。例えば、トルコ リラの急落は通貨の下落に伴って物価が急上昇し、トルコ中銀は通貨下落に立ち向かわなければならなかった。トルコ中銀は、アルゼンチン中銀のように短期金利を劇的に引き上げざるを得なかった。 その一方で、今回、大統領選挙で再選されたErdogan大統領はこうした政策に反対している。

リサーチ会社Capital Economicsによれば、アルゼンチンやトルコは、2013年にアメリカのFRBがそれまでの金融緩和政策からの脱却を仄めかした、所謂、「Taper tantrum: 国債買取り額減額の癇癪(かんしゃく)」の時よりもより厳しい金融引き締めを行っている。しかし、他の多くの国は、この時以上の金融を引き締めを行っていない。ブラジル通貨は、4月以降5%下落している。 しかしブラジル中銀は「最近のアメリカの金利引き上げショックと我々の金融政策の間にメカニカル的な相関関係がない」と主張して金利を引き上げようとしていない。

インフレ以外の理由としては、債務問題がある。弱い通貨の借り入れは米ドルやユーロで返済している。IIF(Institute of International Finance)によれば、アルゼンチン政府と除く金融機関の企業の対外通貨による借り入れの割合は、GDP対比50%を越えている。しかし他のエマージング国のそれは、より緩やかなものである。メキシコや南アフリカの債務は25%以下であり、ブラジルやマレーシアの債務は20%以下であり、インド、中国、タイのそれは10%程度に過ぎない。

インドネシアは、インフレが3.2%で対外債務が19%と低い。にもかかわらずインドネシア中銀は通貨ルピアを安定化させるために5月に2度政策金利を引き上げた。1997年のアジア金融危機の悪夢にとりつかれた国は、通貨の下落は経済を低迷させると考えている。そして他のエマージング マーケットと同様に、通貨安そのものが更なる通貨安の投機を掻き立て、更に下落する懸念が起こる。

これこそが、Sturzenegger氏が、市場に対して「市場が混乱した時を除いて為替介入をしない」と約束したにも関わらず介入を行った根拠である。その意味で、彼が約束した直後に為替(ペソ)が急落したのは不幸な出来事であった。 6月11日のペソの急落は、6月12~13日のFedのタカ派的な政策(政策金利の引き上げ)によって更に悪化した。現在のエマージング市場における通貨政策は、金融市場が要求するほど単純ではなく、複雑になってきている。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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