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2017/08/24 05:50  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

オーストラリアの2重国籍問題


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

オーストラリア憲法には、数多くの不幸な免責条項がある。その一つに特定の人種を選挙から排除する事を認めているのは実に不快なことである。 しかし、先月までは、こうした事は政治的に大騒ぎになることはほとんどなかった。その条項とは憲法第44条であり、それには「国会議員は、いかなる外国の力に対しても屈し、もしくは服従する、あるいはその疑いをもたれてはならない」と定められている。

実は、国会議員の約半分は、このルールを破っている事は明らかである(何故ならば、彼らの多くは2重国籍を保有しているからである)。 しかし、先月の7月、2人の国会議員が幼少期に移住してオーストラリア国籍を取得した事が発覚し、辞任した。この件で、最近、特に大騒ぎとなったのは、熱狂的愛国主義の副首相であるBarby Joyce議員がニュージーランド国籍であったと判明したのである。と言うのも彼の父親がニュージーランド人であったからである(彼は、オーストラリア国籍と同時にニュージーランド国籍を保有することが出来る)。

「国会議員は、いかなる外国の影響を受けるような疑いをもたれてはならない」と努めるのは当然のことである。しかし、単に、たまたまの出生地や特定の市民権を保有しているという理由だけで、本人の国に対する忠誠心を測るのはお粗末なことである。今や、多くの人々が世界中を旅し、移住し、国際結婚をする時代においては猶更である。2つ以上の国籍を持っているだけで、その人の忠誠心に対して疑いを持って扱うべきではない。その人が、その国の税金を払っている限り、国民として受け入れられるべきである。

こうした古い考えに基づいた国会議員資格を規定しているのはオーストラリアだけではない。当時、憲法が草案されたのは1890年代であり、その頃、こうした国際人に対する考えが曖昧であったことは確かである。 また、当時、26%以上のオーストララリア人が外国で生まれていたことも背景もある。また、Joyca氏のように、(親の国籍の関係で)他国の国籍を保有している子孫を勘案すれば、その割合はもっと大きくなる。

エジプト、イスラエル、スリランカをはじめとする多くの国では、2重国籍を保有している人が国会議員になる事を禁止している。世界で最も人口の多い4つの国の内、3か国(中国、インド、インドネシア)では、2重国籍そのものを禁止している。日本やドイツは2重国籍を厳しく制限している。 唯一、アメリカだけが出生地主義を採用し、その該当者は大統領になることが出来る。 オバマ大統領は米国生まれではなく大統領になる資格がないと言われながら、オバマ前大統領は、このルールに該当して大統領になった。 ミャンマーでは、外国人と結婚した大統領候補者を禁止した。 建国の父のアウン サン氏の娘である アウン サン スーチー氏がこれに該当した為、大統領になることが出来なかった。 代わりに彼女は、「State Counsellor」なるポジションを創設して国を治めている。 メキシコの法律では、移民を大統領選挙だけでなく、一定の条件の下にある子供も排除している。 更に、メキシコでは、他国のパスポートを放棄してメキシコ人になったいわゆる「帰化メキシコ人」は、警官やパイロットや船長になることが出来ない。

こうしたルールは、血縁や地縁を基本に形成された原始国家の考えから来ており、過去において、しばしば起こった内戦や徴兵制の中で形成されてきた。しかし、今日の徴兵志願やグローバリゼーションの中あっては、こうしたルールはもう意味をなさない。

また、2重国籍を持っている、他という理由だけで、他の人より国を裏切る傾向があるという事にはならない。多くの場合は、寧ろその逆である。最近では、唯一、オーストラリアの国会議員が他の国に便宜を図ったのはSam Dastyari氏であり、彼は、中国政府と結びつきのある企業から金を受け取った後、中国に対して同情的な声明を出した。 しかし、その彼は中国人ではない。

金、イデオギー、あるいは人を中傷するようなメールは、パスポート以上に、国家に対する疑い、服従、あるいは異様な執着をもたらす。独立戦争時のアメリカの将軍Benedict Arnold は、イギリスに対して、アメリカを裏切る為に20,000ポンドを要求した。 あるいは、イギリスのケンブリッジ ファイブと言われる上昇階級は、ソビエトの為にスパイをした。更には、イギリスは、ポーランド人やその他の多くの他の国のパイロットの犠牲の下、ドイツ ナチスの戦いに勝利した。

今日、人々の自国に対する貢献は、彼らの仕事、才能、創意や投資を通じて行われている。国家間が縮まれば縮まるほど、それは良いものとなり、2国間の紛争が減少し、貿易を通じて繁栄がもたらされる。
国家間の交流をより深める事以上によい結びつきを誰が構築出来ようか?もし、選挙民が、2重国籍を持っている政治家が選挙民の為にベストを尽くさない懸念があるならば、選挙民は、その政治家を選ばなければいいだけのことである。逆に、選挙民は、政治家が自分たちの為にベストを尽くすかどうかの観点から政治家を選ぶべきである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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