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2017/03/30 05:07  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

アメリカ白人労働者の受難?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

Brookings Institute のAnne Case とAngus Deatonによれば、1998年までの過去20年間のアメリカの中間層の死亡率を調べたところ平均で2%低下した。 しかし1999年から2013年にかけては死亡率が上昇している。 これに対してヨーロッパなど先進国の死亡率はほぼ2%のペースで引き続き低下している。1990年には、10万人当たりの死亡率はOECDのどの国もほぼ400人程度であったが、2015年には、スエーデンの200人を先頭に、オーストラリア、カナダ、イギリス、ドイツも200人台に低下している。その一方で、アメリカの死亡率は400人程度に留まり、寧ろ増加傾向にある(ここに出ている死亡率は除くヒスパニック系白人)。

その死亡者の多くは大学を出ていない高等教育を受けていない白人労働者であり、その死に方は、麻薬などの薬、拳銃による自殺、そしてアルコール中毒が大半を占めている。背景には所得の低さが大きく影響している。 当然のことながら、同様の傾向が黒人アメリカ人に当てはまるが、彼らの場合の死亡率は低下傾向にある。 ヒスパニック系もその傾向は同じである。

著者は、こうした高等教育を受けていない白人労働者の死亡率の高い理由として、スキルや技能の低さからくる所得の不安定さが周りとの関係(孤立)や結婚に影響し(結婚できない)、また、その不安定さが、コミュニティや宗教(教会)からの孤立につながっていると指摘している。

更に、著者は、「どうして白人労働者だけに死亡率が高いのか?」の問いに対して、「彼らは大人になるまでは将来に対して大きな希望を持っていた。 にもかかわらず、大人になってその希望や夢が打ち砕かれてしまった事に対するギャップが大きい。その一方で、黒人やヒスパニックは、元から将来に対する希望や夢がそれほど大きくなかったために、現実とのギャップが少ない為、自殺者が少ない」と考察している。

しかし、高等教育を受けていない英語圏の白人は、アメリカに限らず、イギリス、オーストラリア、カナダ、アイルランドにもいるが、これらの国の白人労働者の自殺者の数は増加傾向にあるが、アメリカほどではない。その理由としては、アメリカではモルヒネなどの鎮痛剤が手軽に手に入り、2015年のこうした薬による自殺者は2002年に比べて倍増している。 しかもアメリカは銃社会であり、拳銃による自殺も多い(自殺者全体の半分)。そして彼らの多くはアルコール中毒によって体を蝕んでしまっている。

更に、根本的な問題として、アメリカでは社会保険制度(健康保険制度)によるセーフティ ネットが欠落している。これが機能していないことが彼ら(社会的弱者)をより不安に陥れている。その証拠として、オレゴン州が独自の健康保険制度による救済制度を実施したところ、うつ病者患者が3分の1減少した。

確かに、アメリカの弱者救済制度は他の国に比べても非常に劣っている。失業している人に対する職業訓練などの支援はアメリカGDPの僅か1%であり、OECD先進国平均の5分の1でしかない。また、失業している人の支援は、同じくOECD平均の4分の1しかない。アメリカ人の46%が400ドル以上の予期せぬ出費(怪我や病気)に対して支払い能力がなく、その資金を捻出する為に何かを売るか、もしくはお金を借りなければならないのである。

このようにアメリカでの生活は、スキルの低い人にとってはとても安全な処ではない。それにも関わらず、アメリカの政治家は健康保険制度を危機に追いやろうとする(オバマ ケアをトランプ大統領が廃止しようとした。 しかし議会がこれに同調しなかったのはこうした背景がある)。 一方で、弱者救済に対して反対している人々は「低いスキルのアメリカ人に対して寛容であることは(彼らを甘やかすことは)、彼らの将来に対する上昇意欲を摘み取ることになる」と主張する。

英誌エコノミストは「確かに、仕事をしない若者の中には、 ビデオ ゲームばかりしている者もいる。しかし、アメリカという国は、希望を失ってしまった人々にもっと希望を与えることが出来る国である」と 述べています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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