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2015/03/23 05:11  | 音楽事情 |  コメント(0)

オーケストラのランキング、日本の楽団の実力は?


 大変ご無沙汰しております。
 ぐっちー編集長がクラシック音楽の話題で記事を書かれていましたので、私もこれに関して少し書いてみます。

 ぐっちーさんの発見したオーケストラのランキング(人気投票?)は、単なるお遊びで、発表された順位に対して、読んだ人それぞれが自分の考え、自分のランキングなどを披露しあう場を提供しているという程度のものでしょう。(今回のランキングが発表された、「NOT VERIFIED BY CNN」という注意書き付きの「CNN iReport」というものが何を意図しており、どれほどの意味を持つものなのか、正直申し上げてよくわからないのですが……)
 というわけで、酒でも飲みながら今回のぐっちーさんのような感想を言い合って遊ぶのが、こうしたランキングの正しい楽しみ方と私は思います!

 オーケストラのランク付けは、音楽雑誌ではたまに見かけるもので、日本では『レコード芸術』『モーストリー・クラシック』、海外では英国の『GRAMOPHONE』などの雑誌に掲載されていた記憶があります。「CNN iReport」の記事には見当たりませんでしたが、それぞれの雑誌では、選考基準(ランク付けした評論家名等)が記されています。
 私が記憶しているのは数年前(2~7年前)の掲載でしたので、最新のランクとは言えませんが、これらの雑誌の結果には共通する部分が多くみられます。その中で「CNN iReport」の結果と大きく異なるのは、アメリカのオーケストラでベスト10入りするのは、ニューヨーク・フィルではなくシカゴ交響楽団だということと、サンクト・ペテルブルク、チェコ、東京のオーケストラは10位圏外だということです。

 この数年、雑誌でベスト3に挙げられているオーケストラは、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、そしてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団です。2008年の『GRAMOPHONE』誌で第1位に選ばれたのは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管で、これには少々驚きましたが、演奏者の技量とアンサンブル能力の高さが世界最高水準であることは、誰もが認めるところでしょう。アムステルダムにある素晴らしい響きの演奏会場「コンセルトヘボウ」が本拠地で、オーケストラはここで真価を発揮します。同様に、ウィーン・フィルの本来の音は、本拠地であるウィーン楽友協会大ホールで聴くことができます。ベルリン・フィルも含め、条件が整えば、最良の音楽体験ができる可能性をもったオーケストラ&演奏会場と言えるでしょう。

 さて、日本のオーケストラは……。「CNN iReport」第10位の「Tokyo Philharmonic Orchestra」が、「東京フィルではなーい!」と断定しているのは、ぐっちーさんらしくて笑ってしまいました。彼の中に揺るぎないランク付けがあるのですね。それと、確かに東京には「Tokyo XXX Orchestra」という名のプロ・オーケストラがたくさんあって紛らわしく、海外の方が間違うことがあるのは事実で、過去にぐっちーさんのお知り合いにもそうした勘違いがあったのではないかと推測します。公益財団法人「日本オーケストラ連盟」の正会員になっているオーケストラだけでも、東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京都交響楽団、東京ニューシティ管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、といった具合ですから。

 当の東京フィルハーモニー交響楽団ですが、2001年に新星日本交響楽団と合併して団員数は日本一。オーケストラ公演のほか、新国立劇場でオペラやバレエのピットにも入って演奏し、NHKとは放送出演契約も結んでおり、公演回数も日本トップクラス。ルーツをたどれば、名古屋の呉服店(現在の松坂屋)の少年音楽隊として発足したのが1911年で、日本のオーケストラでは最古の歴史を持っていますから、少なくともこうした数値のランキングを見ても日本を代表するオーケストラです。ちなみに、東京都交響楽団は、東京オリンピックの記念文化事業として、1965年に東京都が財団法人として設立しています。

 雑誌のランキングでは10位に入らない日本のオーケストラですが、実力はどのように評価されているのでしょうか。巷では、世界的にみても水準が高い、と言われることもあるようですが……。
 これに関しては、昨年の12月に東京で興味深いシンポジウムが、文化庁と前述の日本オーケストラ連盟の主催で行われています。その内容は、アメリカ・英国・ドイツ・フランスの著名な音楽評論家が来日し、実際に日本のオーケストラの演奏をいくつか聴いた後に、日本の音楽評論家も加わり、意見交換をするというものでした。欧米の評論家たちは、日本のオーケストラの演奏技術や均質な音作りを評価する一方、オーケストラ団員に自発性が乏しいとの厳しい指摘をしたようです。演奏技術の水準が高くても、「指揮者に受け身で従っているだけの活気のない演奏」という評価では、10位内には入れてもらえないでしょうね。

 これらの指摘は、傾向としては一理あるかもしれません。ただ、昨今、団員から活気ある演奏をも引き出す素晴らしい音楽づくりをする指揮者を迎えた日本のオーケストラに、感銘を受けることが増えてきたようにも思われます。ぐっちーさんお薦めの東京都交響楽団では、フィンランドの指揮者ハンヌ・リントゥにより行われた今年1月の定期演奏会が絶品でした。今後では、パーヴォ・ヤルヴィを首席指揮者に迎えるNHK交響楽団の演奏が楽しみです。ぐっちーさん、いずれまたオーケストラのランキング話で盛り上がりましょうか!

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